【真空ホロウ インタビュー】
聴覚だけではなくて
視覚も使って音楽を届けたい
SNS漫画家・ごめんとのコラボレーションが実現した最新アルバム『たやすくハッピーエンドなんかにするな』。深い物語性と繊細な心理描写に満ちているこの作品は、どのようにして生まれたのか? メンバーたちに語ってもらった。
歌う上で一番気を付けているのは、
“主人公を演じる”ことに軸に置く
どういう経緯でごめんさんとコラボレーションをすることになったんですか?
松本
2年くらい前にリリースしたアルバム『いっそやみさえうけいれて』の頃から“真空ホロウをどうしていくか?”とか“真空ホロウとは何ぞや?”ということを明確にしていきたいと思うようになって、“女性の心を歌う”ということとか“聴覚だけではなくて視覚も使って音楽を届けたい”ということも考えるようになったんです。そういう中で、上手くいかない恋だったり、日常を描いているイラストレーターを探していたら、ごめんさんと出会ったんですよ。僕のほうからメールを送ったら快諾してくれました。
MIZUKIさんは、このコラボが決まった時、どんなことを思いました?
MIZUKI
聞いたことのないやり方なので、面白いと思いました。今回のアルバムは私が加入してから初めてのアルバムでもあるので、それも楽しみだったところです。
高原さんは?
高原
私にとっては真空ホロウに加入してから2枚目のアルバムなんですけど、また新しいことをできそうだなと思いました。サウンドプロデュースを高慶CO-K 卓史さんにお願いしたことによって、明確な方向性のものにもなりましたね。
このバンドの演奏の素晴らしさも出ている作品です。
高原
このバンドの中心にあるのは歌ですけど、それだけじゃないんです。“めちゃくちゃ上手いぞ”っていう(笑)。
(笑)。ごめんさんのファンからの反響もあります?
松本
はい。この前、ごめんさんの個展で歌わせていただいて、今回のアルバムに入っている「おんなごころ」のMVも会場で上映させてもらったんですけど、すごく反響がありました。ごめんさんが脚本を書いて、イラストも描いてくださっているんですよ。僕はごめんさんの漫画が原作の映画『左様なら』にも出て、その劇中でも「おんなごころ」をちょっと歌っているんですけど、“もしかしたら映画の中で歌ってたあの曲じゃない?”っていう反応もありましたね。
今作に収録されているコラボの5曲は、先に曲を作ってからイラストを描いていただいたんですか?
松本
まず、もともとあったごめんさんのイラストに対して僕が曲を作って、仮の歌詞も書いたものの中から選ばれたのが、今回の5曲です。その5曲のアレンジをみんなでして、新しい歌詞になったものに対して新たにごめんさんに絵を描いていただく…という作り方をしました。
ごめんさんにとっても新鮮な創作だったんでしょうね。
松本
そうおっしゃってくださっていました。“曲を書ける”っていうことを尊敬してくださるんですよ。僕、絵を描ける人ってすごいと思うんです。曲を聴いて、そこから絵を描けるんですからね。今回のアルバムを作ったチームが同じ一点を見つめられたんだなということも感じています。
見つめた一点を具体的に言葉にするならば、どういうものでした?
松本
まず、今回の曲名にもなっている女心ですね。そこからできた「おんなごころ」がなかったら、ここまで女心を描いたアルバムにはならなかったと思うんです。
歌詞を書いた矢作綾加さんとも、そのイメージを共有していったんですね?
松本
はい。もともとは僕が書いた歌詞を伝わりやすくするディレクションで参加していただいたんですけど、女性の心を描くにあたって、お任せすることになったんです。「おんなごころ」に関しては、まずこの歌詞が僕のところに来たんですよ。最初は歌詞としてではなくて詩だったので、曲を付けるとかも決まっていなかったんですよね。でも、僕はこれをそのまま曲にしようと思って、やってみたらできたんです。僕としても面白い作り方でした。
この歌詞は男女が交わす台詞が独特な雰囲気を醸し出していますね。
松本
そうですね。僕はひとりで歌っていますけど、カップルでカラオケで歌っていただいてもありだと思います。“カラオケでも歌ってもらえる曲”っていうことを念頭に置いて作っていたんですよ。
矢作さんが書く歌詞はハッとさせられる部分がたくさんありますよね。例えば「あのね」の《心の骨が外れる音を知っていますか?》はすごく気になる表現です。
松本
この表現は“どういうことだろう?”っていう人もいるでしょうね。今回のアルバムを予約すると店舗によっては矢作さんが書いた小説が特典として付くんですけど、「あのね」の前後の物語も収録されているんです。それを読みつつこの曲を聴いたら、“そういうことだったんだ!”っていうのを感じると思います。
全部の曲に一貫しているイメージは、そこそこ上手く暮らせているけど、何だか満たされないという気持ちなんですけど。
松本
そこはテーマでした。それは『いっそやみさえうけいれて』の時からあったものなんですけど、今回でちゃんとかたちになったと思っています。僕が今、歌う上で一番気を付けているのは、“主人公を演じる”というのを軸に置くことなんです。それが一枚のアルバムとして、すごくできましたね。