みんな大好き! 辛子明太子づくりに
人生を捧げた男の物語『めんたいぴり
り』を主演の博多華丸、脚本・演出の
東憲司が語る

劇団桟敷童子主宰の東憲司は、福岡県出身。その縁で初めて手がけたテレビドラマの脚本、2013年のテレビ西日本開局55周年「めんたいぴりり」が第30回ATP賞、第51回ギャラクシー賞奨励賞、平成26年日本民間放送連盟賞 テレビドラマ番組部門優秀賞、第41回博多町人文化勲章を受章。2015年には舞台化(脚本は中島淳彦、演出はG2)、2018年には小説が集英社から出版、2019年には映画化もされた(僕が住む街はこれから公開)。そして満を持して、東が脚本・演出を担当する『めんたいぴりり』未来永劫編が2019年3月30日に博多座で幕を開ける。9月には東京・明治座での公演も決まった。
一方、辛子明太子づくりに人生を捧げた男、主人公の海野俊之をここまで一貫して演じてきたのは、すっかり朝の顔としておなじみの博多華丸。この人のそこはかとなくにじむおかし味が、第二次世界大戦後の過酷な時代の物語に、おおらかな空気を注ぎ込んでくれている。華丸をはじめ九州出身の俳優陣を多く集めた食料品店「ふくのや」の面々、街の人びととの温かみある交流の味わいは名物・辛子明太子にも負けず劣らず絶品だ。ある日の稽古場を訪ねて、東と華丸に話を聞いた。
『めんたいぴりり~博多座版~未来永劫編』CMSPOT

――『めんたいぴりり』、テレビドラマから始まって、さまざまなジャンルによる幅広い展開になりましたね。
東 正直、こんなふうに広がっていくとは思わなかったですね。やっぱりそれは華丸さんをはじめ、テレビドラマのキャストさん、スタッフさん、映画のキャストさん、スタッフさんの頑張りがあってこそだと思うんです。もう感謝しかありません。
華丸 いいえ、とんでもないです。僕にとっても驚きというわけではなく、一つ一つの積み重ねているものなので、順調にここまで来たんだという印象がありますね。
博多華丸
――“辛子明太子づくりに人生を捧げた男、主人公の海野俊之”のキャラクターはこれまでに膨らんだりしているのでしょうか。
華丸 そうですね、演出をつけていただいた通りにできるように頑張っているんですけど、それで精一杯です(笑)。僕もそうですけど、「ふくのや」のメンバーは変わっていないので、本当に商店で働いている人たちという空気感がにじみ出てきているような気がしますね。
東 「明太子をつくった男―ふくや創業者・川原俊夫の人生と経営」(川原健・著 海鳥社・刊)という原作があって、ドラマの脚本を書く前に、海野俊之役は華丸さんで行こうと聞いていましたし、俊之はこういう男だと根っこは決まっていたので、そういう意味ではぶれてはいないと思います。僕も俊之とは長い付き合いになりますから、もしかしたらこういう面もあるのかもしれないなあとそんなようなことは楽しみながら書いています。ただそれもテレビドラマでも映画でも、プロデューサーさんとはいつも原点に戻ることを合言葉にやってきたので、明太子づくりに人生をかけている男、その夫婦の物語という枠の中で生き生き描ければということでやってきました。
東憲司
華丸 海野俊之という役として演じていますけど、「ふくや」の川原俊夫という実在された方の物語なんですよね。川原さんは博多・中洲の食料品店の店主として明太子を生み出したのはもちろん、いろんなことで街に貢献してきた方なんです。ある意味、博多においては歴史上の人物を演じさせていただいている。その姿を知っていらっしゃる方も現実にいらして、そういう皆さんのアドバイスも聴きながら、生き写し的な感じになれればいいなと思っているんですけどね。戦後のお話ですし、今だったらオイオイという展開もありますけど、それが逆にその当時の面白さや空気にもつながっているかもしれません。
新しい風を吹き込んでくれる演出家(華丸)
大きな目がいろんなことを語ってくれる(東)
――演出家、東さんはいかがですか?
華丸 いやいや、僕は最初の『めんたいぴりり』と『熱血!ブラバン少女。』という演劇経験しかないんです。どちらも博多座公演でG2さんが演出してくださった。だから演出家という存在は今回の東さんとお二人しか知らないので、なんとも言えないんです(笑)。ただ、今、一番新しい風を吹き込んでくださっているのが東さんというのは間違いありません。僕的にはすごくやりやすい環境をつくってもらっています、本当は違うんだろうなって思いながらも、恵まれているなと。
博多華丸
――その東さんは、すごく楽しそうに演出していますよね。なんだか出演者のお一人みたいな感じがします。
東 僕は舞台人ですから、当初のテレビドラマの脚本を手がけたこと自体がイレギュラーな仕事だった。それにドラマの撮影の時はもう別の仕事をしていたんです。だから今回の稽古場で、初めて華丸さんやレギュラーメンバーの方にお会いしてのぼせるような感じがあります。自分では仕事だからちゃんとやらなきゃと日々戒めてやっているんですよ。とはいえ僕も福岡出身なので、やっぱり同じ故郷のなまりを聞くだけでワクワクするところはありますよね。
――実際に演出家として対面した華丸さんの印象はいかがですか。
東 華丸さんに至っては、人間力がすごい方なんで、そこは胸を借りるつもりでいますから、逆に伸び伸び楽しそうにやっているように見えるのかもしれませんね。
華丸 何を言ってるんですか!(笑)
東 いや、本当に華丸さんがスタジオに入って来るだけで稽古場の雰囲気は締まるから、
華丸 そんなことありませんよ。
東 いやいや、人間力がすごいなって僕は思っています。しかも、毎朝テレビで仕事をされているんですよ。それだけでも僕は恐ろしくて。5時半くらいですよね、起きるの。
華丸 まぁ6時より前には起きますね。
東憲司
東 お芝居のセリフなんていつ覚えているんだろうなって。当たり前のことかもしれないんですけど、主演していただけるのはありがたいと思っています。僕は演劇が辛くて仕方がなくて、だからこそ楽しくもあるんですけど、毎朝、華丸さんの姿を拝見しながら、こりゃあ頑張らなければと思っています。圧倒されてますよ。すごいですよ。それに誰から見ても二枚目でしょ? 
華丸 ハハハハ! 誰もそんなこと思ってないでしょ。
東 二枚目で本当に味があって、いい顔しているなあって思いますよ。つくづく。
華丸 ありがとうございます(苦笑)。
東 大きな目がいろんなことを語るので、ドラマでも映画でも言われていると思いますけど、役者さんとしてもすごいと思います。もちろん芸人さんとして大活躍されていることもあって、自由なところもある。僕はこういう方とやらせていただくのは初めてなので、なんて素敵なんだろうといつも思っています。光栄です。
華丸 演劇に関しては今回が3回目ですから偉そうにあれこれ言える立場ではないんですが、漫才で舞台に立っているので、さほど違いは感じていないんです。大人数でやるか、二人でやるかくらいだと思っています。ただ演劇は二人ではできないことがいっぱいある。場面転換だったり衣裳替えだったり。本当はシャキッとしなきゃいけないと思うんですけど、僕はどちらかと言うと本番で肩に力が入っちゃう方なんです。どうせそうなってしまうので、今から緊張感を出してしまうのもどうかなという気持ちでやっていますね。
俊之は自分だけではなく、街のことまで考えた懐の大きな人物
博多華丸
――今、朝の番組の話が出ましたが、NHKの朝ドラ「まんぷく」の立花萬平さんと似ている展開です。
華丸 はいはい、僕もそう思います。萬平さんと俊之はキャラクターは違いますけど、時代が一緒ですし、未来の子供たちに向けて、もっと豊かなものを作り、届けようと考えた人がきっと日本中にたくさんいて、その中の一人が萬平さんであり、俊之なんだと思いながらやらさせていただいています。
――萬平さんはインスタントラーメン、俊之さんは明太子の製造方法を独占しないで、みんなで共有するという設定が両方にありますもんね。
華丸 本当にそういう方だったみたいですよ。息子さんとかお孫さんからもいろんなお話を伺ったんですけど。とにかく器の大きな人だったらしいです。
東 もう聖人ですよ。「与えた恩は水に流せ、受けた恩は石に刻め」と誰彼なく困った人に手を差し伸べた方だったようです。周りが明太子の製造方法で特許を取ろうと言うのに、「そんなもの取ってどげんすると」と言って、誰もが明太子をつくれる状況にした。そうやって博多の街自体が盛り上がることを望んだんですね。
華丸 だからね、この芝居をやるにあたって、12,000円もチケット代をいただいてしまっていいものかと思うんです。
一同 爆笑
――タイトルに「未来永劫編」と付いていますね。
東 博多座のプロデューサーから時代も変わるし、未来につながるものをやりたいと。それで「未来永劫」というタイトルにしましょうということになりました。戦争が終わって一番大変な時期を明太子に人生を掛けた人たちの人情や愛情、夫婦愛などがずっと未来に続いていくような物語にしたいですね。
華丸 そうそう、東さんは年齢が僕より少し上なんですけど、ああこんな博多弁あったなあ、今は使わないけどみたいな言葉も台本に書かれるんですよ。かと思えば共演する小松政夫さんからは、「それは若いもんの方言だから」と言われたりするんです。確かに方言のように時代時代で進化していくものもあります。でもこの舞台には変わらず大事にしなければいけないものもたくさん描かれている。そういう部分も含めて、お客さんには心地よさや楽しさ、ちょっとした気づきなどを感じていただければうれしいですね。
《東憲司》劇団桟敷童子主宰。凝った舞台美術を駆使し、社会の底辺で生きる人々を描いた骨太で猥雑な群像劇が人気。自らの生まれ育った炭鉱町や山間の集落をモチーフにしたパワーあふれる舞台により、日本の演劇シーンの中で異才を放っている。劇団公演では文化庁芸術祭優秀賞、倉林誠一郎記念賞、バッカーズ演劇奨励賞。近年では外部作品も積極的に手がけ、2012年度に紀伊國屋演劇賞・個人賞、読売演劇大賞優秀演出家賞、鶴屋南北戯曲賞をトリプル受賞。『標~shirube~』にて2018年の読売演劇大賞で優秀スタッフ賞を美術家として受賞した。桟敷童子20周年の今年は、5月に『骨ノ憂鬱』、8月に『堕落ビト』、12月に『獣唄』と新作を連続上演する。
《博多華丸》1970年生まれ。福岡県福岡市出身。福岡大学の落語研究会で出会った博多大吉と漫才コンビ「博多華丸・大吉」を結成した。2006年「R1グランプリ」優勝。2014年「THE MANZAI」優勝。俳優としては、映画「死にぞこないの青」、大河ドラマ「真田丸」などの話題作に出演。2013年に放送された、明太子の老舗「ふくや」をモチーフにしたドラマ「めんたいぴりり」で創業者役を演じ、好評を博した。それを受けて続編ドラマ、舞台も制作され、2015年の舞台版「めんたいぴりり」にて博多座で初舞台を踏んだ。博多座自主企画としては、記録的な入場者数を獲得した。今回が3度目の舞台出演となる。

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