『Young Love』は高次元で
洋楽ロックを取り込んだ
20世紀のサザンオールスターズの
最高傑作!
大衆性を帯びたメロディーラインは不変
そこは端的に言えば歌を含めてのメロディーラインによるところが大きいと思う。それはM1「胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ」からしてそうだ。音符が詰め込まれているAメロからハイトーンのサビまでは若干マニアックな雰囲気があって、これはこれでカッコ良いのだけれども、仮にそれだけであったとしたら、“ロックバンドらしい楽曲ですねー”で終わるところ、間奏明けのCメロでしっかり大衆的な旋律──誤解を恐れずに言えば、歌謡曲的メロディーが出てくる。それによって、1960年代、1970年代のロック云々はどうでもよくなるというか、妙な安心感を覚えるのである。The BeatlesとLed Zeppelinを混ぜたようなサウンドと前述したM10「愛無き愛児 〜Before The Storm〜」もそう。間奏などは完全にサイケデリックロックだし、歌もマイナー調で、客観的に見ても『Young Love』収録曲の中では比較的ポピュラリティーが薄いほうだと思うが、これも決して聴きづらくはない。明らかに高揚感をもたらすわけではないが、かと言ってダウナーでもない、不思議な聴き応えである。
つまり──これは言うまでもないのだが──サウンドとメロディーのバランスが絶妙なわけだが、それは“大衆性が○割で専門性が○割”といったその比率の問題ではなく、それぞれの取り込み方、混ぜ方が絶妙なのだと思う。単に重ねるのではなく、上手い具合にマーブルにした感じと言ったらいいだろうか。アイスクリームに例えるなら、見た目にはふたつのフレイバーがあることは分かるし、口に入れた時、それぞれのテイストも分かるが、次第に自然と溶け合って、ふたつの味をそれぞれに味わうよりも豊かな風味を出す。しかも、それはミントとチョコとか、オレンジとチョコとかという、1パターンの組み合わせではなく、少なくとも14種類あって、2種類の組み合わせに留まらず、ミント、オレンジ、チョコ、バニラ、アップル、抹茶といった具合に何種も混ぜ合わせたものもある(念押ししておくが、無論それは奇をてらった組み合わせではなく、とても美味しく仕上がっている)。
サザンはこの時点で結成20年目というキャリアだっただけに、バンドとしてこの程度のことはできて当たり前だったのかもしれないが、それでもほぼセルフプロデュースで仕上げたというのは、やはり称えられてしかるべきであろう(管楽器や弦楽器は外部のアレンジャーを起用)。
そして、最も素晴らしいと思うのは、本作は約250万枚を売り上げて、現在までのところ、サザンのオリジナルアルバムで最大のセールスを記録しているということだ。大衆性だけでなく、ロックらしさをそれと分かるようにしっかりと取り込んだアルバムがこれほどに支持されたというのは、サザンの潜在能力の高さを改めて世間に知らしめたと同時に、日本におけるロックバンドの可能性をも示したと思う。ソロシンガーでも歌唱グループでもなく、メンバーで楽器の演奏を賄うことができるバンドがそうした高評価を受けたことは、のちにサザンが“国民的バンド”と呼ばれることと無関係ではなかろう。
TEXT:帆苅智之