THE YELLOW MONKEY 二度目のデビュ
ーアルバム『9999』、武道館での前代
未聞の試聴会で見たロックバンドの矜

9th Album『9999』 世界最速先行試聴会

2019.3.28.(木)日本武道館
19年振りのニューアルバム『9999』を完成させたTHE YELLOW MONKEYがぶち上げた、日本武道館での先行試聴会という前代未聞の大イベント。5万人の応募の中から無料招待された9999名と共に会場に入ると、通常の舞台があるべき場所は白い幕で覆われ、アルバムのロゴマークが映るのみ。何が起きるか誰も知らない(最初に書いておこう。この時点で我々取材班もまったく知らない)、なんとなく落ち着きのない雰囲気の中での開演アナウンス、暗転、白幕に映されるメンバーへのインタビュー。アルバムはバンドの生き様、その時々の日付のようなもの、今のイエローモンキーがここにいる――。『9999』を語る4人の顔は静かな自信に溢れ、これから聴ける音への期待がぐっと高まる。
THE YELLOW MONKEY 撮影=三吉ツカサ(Showcase
1曲目は「この恋のかけら」。エマ(菊地英昭/Gt)の奏でる深く艶やかな単音フレーズが武道館いっぱいに響き渡る。さあ始まる。そう思ったわずか8小節後、いきなり舞台を覆う幕が切って落とされると、そこにいたのは吉井、エマ、ヒーセ(廣瀬洋一/Ba)、アニー(菊地英二/Dr)の4人。えっ? うわ、本当にいる。ありえないレベルの悲鳴と歓声、一気に総立ちになるオーディエンス。もしかすると、最後にちょこっと生演奏があるかもという期待はしていたが、まさか1曲目から登場? ということは全曲披露? まさかの展開にどよめきが収まらない、武道館でこんな騒然とした空気を感じたのは初めてだ。
すでにライブで披露済みの「天道虫」ではじけるように盛り上がり、初めて耳にするアルバム曲「Love Homme」は、乗りやすいブギーロック調の曲だが耳をそばだてて聴き込む、1曲ごとのオーディエンスの反応が面白い。お馴染みの「Stars」はアルバム用の“9999 Version”で、いなたいブギーとソウルフルなムードが合体したライブ映えする1曲。新曲「Breaking The Hide」はエマの作曲で、ファンキーなグルーヴがサビで倍速になる技と、爽快なギターソロがかっこいい。MCなし、煽りなし、ひたすら丁寧な演奏に没頭する4人と、背後の白幕を使った最小限ながら効果的な照明に、これはやはり試聴会なのだと思う。しかしなんという贅沢な試聴会だろう。
THE YELLOW MONKEY/吉井和哉 撮影=三吉ツカサ(Showcase)
ピアノが加わる「ロザーナ」もグルーヴィーなロックンロールで、吉井の歌とエマのギターの対話のようなアレンジが楽しい。そして新曲「Changes Far Away」、なんと見事なソウルバラードだろう。三連符のノスタルジックなムード、素晴らしいギターソロ、背後に映る月の映像、すべてが極上ロマンチック。「砂の塔」は当然のようにイントロから大盛り上がりで、スポットライトを浴びたヒーセのソロに喝采が湧いた。さらに新曲「Balloon Balloon」は、60年代のグループサウンズを彷彿させる哀愁の歌謡ロック。吉井のルーツの一つである歌謡曲は、THE YELLOW MONKEYに欠かせないアイデンティティとして昔も今も重要だ。
THE YELLOW MONKEY/菊地英昭 撮影=三吉ツカサ(Showcase)
そして10曲目、エマの作詞作曲による「Horizon」でまさかのハプニング。思い入れたっぷりに歌いだした吉井が、いきなり歌詞を間違え演奏ストップ。張り詰めた緊張感が緩和され、一気に和やかムードに包まれる日本武道館。頭をかきながら、オーディエンスに向けて「間違えたついでに…」と吉井が話し出す。
「試聴会だからしゃべらずに来たけど、正直しんどかった(笑)。自分の年齢を忘れてました。行けると思ったんだけどな。みんなを前にしてテンションが上がったせいです。続けましょう、大事な曲です」
THE YELLOW MONKEY/廣瀬洋一 撮影=三吉ツカサ(Showcase)
この予期せぬMCタイムが、結果的に良かった。ぐっと親密度を増した空間の中で聴く「Horizon」はとても壮大で、美しいアニメーションの映像と共に美しい希望の風景を見せてくれる、新しいイエローモンキーでしか歌えない曲だ。エマのソロも素晴らしい。再始動したイエローモンキーは、エマの持つ抒情性とピュアネスがかつてよりも大きな位置を占めている、そんな気がしている。
THE YELLOW MONKEY/菊地英二 撮影=三吉ツカサ(Showcase)
アルバムは終盤に入った。新曲「Titta Titta」は、サイケデリック風味をまぶしたカントリーロックといった味わいで、エマの弾くローリング・ストーンズへのオマージュ風ソロがいい味を出している。「ALRIGHT」はもちろんイントロから大爆発で、♪準備ALRIGHT!の大合唱で武道館が一つになる。さあ、残すは1曲。
「19年も待ってもらったファンにリアルタイムで聴いてもらいたい、それには我々が生で演奏するのがいいだろうと思いました。自分らが感動したものをみなさんにも感じてほしくてこういう形にしました。新しい曲たち、どうでしたか?」
THE YELLOW MONKEY 撮影=三吉ツカサ(Showcase)
生まれ変わったイエローモンキー、一生懸命頑張ります。これからもよろしくお願いします。ツアーで会いましょう――。謙虚な吉井のMCは、新生イエローモンキーはグラマラスなロックスター志向ではなく、ファンと共に歩み年を重ねる存在であるという意思表示に聞こえる。吉井がアコースティックギターを弾くアルバムのラストチューン「I don’ t know」で聴ける端正な四つ打ち、オールディーズ風のギターリフ、シンプルで堅実な音作りに、2019年を生きるロックバンドの矜持が見える。
スマホを取り出して客席やメンバーを撮りまくる吉井と、笑顔で応えるエマ、ヒーセ、アニー。オーディエンスもみんな笑顔だ。試聴会という名の生演奏で遂にアルバムの全貌が明かされ、4月末からはアリーナツアーが始まる。より自由により誠実に、二度目のデビューアルバム『9999』を引っ提げてTHE YELLOW MONKEYの終わりなき旅は続く。
取材・文=宮本英夫 撮影=三吉ツカサ(Showcase)

THE YELLOW MONKEY 撮影=三吉ツカサ(Showcase)

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