【ライブレポート】リンゴ・スター、
立ち上がらずにいられない楽しいライ
ヴ@昭和女子大学 人見記念講堂

リンゴが日本に帰ってきた。約2年半ぶりのジャパン・ツアー。リンゴ・スター・アンド・ヒズ・オール・スター・バンドを率いての来日だ。

すっかりレギュラー・メンバーとなっているスティーヴ・ルカサー(ギター、ヴォーカル/TOTO)とグレッグ・ローリー(キーボード/元サンタナ、ジャーニー)に加えて、今回はコリン・ヘイ(ギター、ヴォーカル/元メン・アット・ワーク)が初参加。また、ヘイミッシュ・スチュワート(ベース、ヴォーカル/元アヴェレージ・ホワイト・バンド)が2008年以来の参加を果たしている。さらにグレッグ・ビソネット(ドラムス/元デイヴ・リー・ロス・バンド)とウォーレン・ハム(サックス、パーカッション/元カンサス)という実力派が加わったバンドは、“オール・スター”の名に相応しいものだ。

客電が落ち、バンドがぞろぞろステージに上がると、最後にリンゴが登場。さっそくトレードマークのダブル・ピース・サインを披露、一気に観衆を沸かせる。

「マッチボックス」「明日への願い It Don't Come Easy」「消えた恋 What Goes On」というレアめの3曲から始まったショーだが、場内はスマイルに溢れ、マニア特有のギスギスした雰囲気はない。もちろんそれは前回の来日公演でもこの3曲が演奏され、馴染みがあるのも理由だが、フロントマンとしてのリンゴの暖かみによるものが大きいだろう。ステップを踏みながらステージ左右を行ったり来たり、常に観衆とのコミュニケーションを取る彼は“元ビートルズ”らしからぬ親しみを放っている。そんな暖かみは観衆にも伝わっていき、リンゴに「ホワッツ・マイ・ネーム?」と訊かれると、律儀に「リンゴ!」と答える。

リンゴがドラムキットに向かうと、オール・スターに焦点を当てたコーナーのスタートだ。オール・スター・バンドのライヴの魅力は、それぞれのスター達が自分の“持ち歌”を披露するのに加えて、他のスター達とのコラボレーションを行うことにある。グレッグ・ローリーが在籍したサンタナのファースト・アルバムからの「イヴィル・ウェイズ」では、スティーヴ・ルカサーがカルロス・サンタナばりの情熱的なギター・ソロを弾きまくった。

グレッグに「7年来の友達だよ」と紹介されたスティーヴは、1ヶ月前にTOTOで40周年ジャパン・ツアーを行ったばかり。「これから一生、毎月日本に来るよ!」と宣言する。先月、日本中のTOTOファンが聴いたばかりの「ロザーナ」を再び聴くことが出来るとは、この国もまだ捨てたものではない。
アヴェレージ・ホワイト・バンドの「ピック・アップ・ザ・ピーセズ」からメン・アット・ワークの「ダウン・アンダー」と、全米ナンバー1ヒットが続く豪華なライヴ(ちなみに「ロザーナ」も全米2位のヒット)。とはいっても、ステージ上にいる彼らはみんな友達だ。ヘイミッシュとコリンは「僕たちは2人ともスコットランド出身なんだよ」と肩を組む。

(オーストラリアを代表するロック・バンドのひとつであるメン・アット・ワークだが、コリンは実はスコットランド生まれで、14歳のときにオーストラリアに移住したのだとか。余談ながらAC/DC、オリヴィア・ニュートン・ジョン、ビー・ジーズ、グラハム・ボネットなど、イギリス出身でオーストラリアに移住したアーティストは少なくない)

そして舞台の中心は、“主役”のリンゴに戻る。「私が昔いたバンドの曲だ。ローリング・ストーンズというバンドだよ」というギャグを飛ばす権利がある人間は、世界にたった2人しかいない(リンゴとポール)わけだが、演奏されたのは、リンゴがビートルズ加入後、初めてリード・ヴォーカルを取った「ボーイズ」だった。アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』では決して目立つポジションにあるわけではないこの曲だが、会場がひとつになって「パッ、シュワッ」とスキャットを歌う。

それだけで十分以上の盛り上がりというのに、ダメ押しのように「ドント・パス・ミー・バイ」「イエロー・サブマリン」の2連発が飛び出す。どちらかといえばのんびりした、牧歌的なメロディの両曲だが、観衆のヒートアップは尋常ではなかった。リンゴは満足そうな笑顔を浮かべ、いったんステージを後にする。

そうしてオール・スター・コーナーの第2幕が始まる。「初めて日本に行ったとき(1976年)、この曲が流行っていたんだよ」というヘイミッシュの紹介から始まったのが「カット・ザ・ケイク」。そしてグレッグが「ピーター・グリーンが書いて、フリートウッド・マックが録音した」と紹介したのが、サンタナでも有名な「ブラック・マジック・ウーマン」だった。この曲では再びスティーヴが火を噴くリード・ギターで会場の温度を上げる。
リンゴがステージに戻り、「ユア・シックスティーン」「アンセム」で観衆を和ませる。彼は後者を「ピースとラヴのアンセムだ」と紹介し、本人のみならず観客もダブル・ピース・サインを掲げて平和と愛への支持を表明した。

それから後は、曲目をリストアップするだけで全身が熱くなっていくヒット・パレードだ。メン・アット・ワークの「オーヴァーキル」、TOTOの「アフリカ」、アイズリー・ブラザーズの曲をアヴェレージ・ホワイト・バンドがカヴァーした「ワーク・トゥ・ドゥ」、サンタナの「僕のリズムを聴いとくれ Oye Como Va」、ビートルズ「彼氏になりたい I Wanna Be Your Man」、メン・アット・ワークの「ノックは夜中に Who Can It Be Now?」、そしてTOTOの「ホールド・ザ・ライン」...いったい合計で何千万枚売れたんだ?と眩暈がしそうな曲が続く。

一連のヒット・ナンバーが続いても、“主役”のリンゴは余裕しゃくしゃくだ。それもその筈、「今日来てくれたみんな、大好きだよ。みんなの写真を撮りたいね!」という前置きから始まった「想い出のフォトグラフ Photograph」も全米ナンバー1を獲得しており、リンゴ自身が他のメンバーとまったく遜色ないヒット・メイカー、しかも“元ビートルズ”なのだから。だからといって尊大な素振りをするリンゴではない。ライヴ全体に音楽へのスマイル、ラヴ、ピースが漲っていた。

「アクト・ナチュラリー」で喝采を浴びた後、グランド・フィナーレとして演奏されたのが 「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」だ。作曲クレジットこそレノン/マッカートニーだが、誰が何と言おうがビートルズ時代のリンゴの決定的な代表曲。この曲をプレイせずしてステージを後にすることは出来ないし、ファンも家路に就くことが出来ない。一緒に歌って、手拍子を打って、ショーは幕を下ろした。最後にはかつての盟友ジョン・レノンの「平和を我等に Give Peace A Chance」が付け加えられた。リンゴが高くダブル・ピース・サインを掲げて、オール・スター・ショーは終わりを告げた。

アンコールは無しとはいえ、たっぷり24曲、2時間のステージは、満腹感を伴うライヴだった。近年、ベテラン・アーティストの公演では観客が着席、アンコールになって立つことが少なくないが、この日は1曲目からオールスタンディング状態。みんな立ち上がらずにいられない、そんな楽しいライヴだった。

文:山崎智之
ライヴ写真:土居政則

●RINGO STARR AND HIS ALL STARR BAND
2019年4月3日(水)
東京 昭和女子大学 人見記念講堂

ライブ・イベント情報

<RINGO STARR And His All Starr Band JAPAN TOUR 2019>
【東京】
4/5(金) 東京ドームシティホール
問い合わせ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999 udo.jp

【東京追加公演】
4/6(土) 東京ドームシティホール
4/7(日) 東京ドームシティホール
【名古屋】
4/9(火) Zepp Nagoya
問い合わせ:CBCテレビ事業部 052-241-8118

【大阪】
4/10(水) あましんアルカイックホール
4/11(木) オリックス劇場
問い合わせ:大阪ウドー音楽事務所 06-6341-4506 udo.jp/osaka

関連リンク

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着