(C)2017 SHOCK AND AWE PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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【映画コラム】セットで見ると理解が
深まる『記者たち 衝撃と畏怖の真実
』と『バイス』

 2003年、アメリカ政府が“衝撃と畏怖”と名付けた軍事戦略であるイラク戦争が勃発。大手新聞社が政府に迎合する中、唯一「本当にイラクに大量破壊兵器は存在するのか?」と異を唱えたナイト・リッダーの記者たちの動静を、実話を基に正攻法に映画化したのが『記者たち 衝撃と畏怖の真実』だ。
 今やイラク戦争は、01年の同時多発テロ後のアメリカを覆った異様な空気(愛国、報復、好戦)を巧みに利用して、政府が捏造(ねつぞう)した情報によって始まったとされる。このように、またもや過去の政府の失態を暴いた映画が登場してきたわけだが、こうした映画には、間接的ではあるが、今のトランプ政権に対する反意が込められていると思われる。
 監督のロブ・ライナーがワシントン支局長役で出演し、ウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデン、トミー・リー・ジョーンズらが記者を演じているが、いつも記者はかっこよく描かれ過ぎると感じた。劇中「どうして記者なんかになっちまったんだろう」「『大統領の陰謀』(76)を見たからさ」というやり取りがあったが、映画が職業に関するイメージに多大な影響を与えることは否めない。
 また、ライナーにとっては、リンドン・ジョンソン元大統領を描いた『LBJ ケネディの意志を継いだ男』(16)に続く社会派映画だが、今回は短くまとめ過ぎた感がある。それ故、経緯が分かりづらくなり、彼らが果たした役割や事の重大さが伝わり切らないところがあった。
 そのイラク戦争を始めたジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務め、陰で戦争を推し進めたとされるディック・チェイニーの若き日から、ホワイトハウスでの暗躍、家族の問題などを描いた『バイス』も公開中。
 アダム・マッケイ監督は前作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)でもリーマンショックの裏で金に固執する男たちの姿を軽妙に描いたが、本作も、一見社会派映画のようでありながら、ユーモアや遊び心が随所に見られ、エンタテインメント作品としても楽しめる。『記者たち~』が真面目な姿勢で問題に迫ったのとは対照的だ。
 そんな本作では、クリスチャン・ベールがチェイニーの20代から70代までを一人で演じ切った。映画ごとの彼の変身ぶりは有名だが、今回も体重を20キロ増量し、髪を抜き、1日5時間近くもメークに費やしたという。
 そのほか、ラムズフェルド国防長官役のスティーブ・カレル、ブッシュ大統領役のサム・ロックウェル、パウエル国務長官役のタイラー・ペリーらがそっくりさんぶりを披露する。『記者たち~』の無名の登場人物たちと比べれば、彼らは超有名人だから、この場合はビジュアルが映画に説得力を与えるのである。本作はアカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している。
 こうした、映画を使った告発、あるいは自己浄化はアメリカ映画の長所であるし、多方面から描くことで事件に対する理解も深まるのだが、実在の登場人物たちがまだ存命中であるにもかかわらず、このような映画が製作されることには毎度驚かされる。日本ではこうはいかない。(田中雄二)

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