『LINDBERG III』から考察する
LINDBERGの軌跡とその勝因
押し引きのバランスが絶妙
『LINDBERG III』のM1「LITTLE WING ~Spirit of LINDBERG~」は、フィードバックノイズが強調され、ディストーションがほどよく聴いたエレキギターの音から幕を開け、全体的にも如何にも90年らしいドライかつシャープなサウンドを聴くことができる。これもこのバンドの特徴であろう。以降、M4「ROLLING DAYS」でスカっぽいカッティング、M7「MODERN GIRL」でブルージーなリフ、M11「READY GO!」ではハードロック的なアプローチと、多彩な表情を見せるが、いずれも弾き過ぎず抑え過ぎず、押し引きのバランスがいい印象がある。
例えば、M8「YOU BELONG TO ME」の間奏のギターソロは所謂速弾きで、HR/HM系だったらこの3倍…いや5倍くらいの長さがあってもおかしくない気もしなくもないが、そうなっていない。また、所々でU2的な雰囲気があったり、Bryan Adams風味があったりもするのだが、それもまったくこれ見よがしでなく、どこか奥ゆかしさを感じるほどのバランスで入っている。ギター以外でも、M2「RUSH LIFE」ではタンバリンやパーカッションがブラックミュージック的なダンサブルさがあったり、M7「MODERN GIRL」の後半ではサイケなストリングスが聴けたりと、ロックバンドのマナーに則ったようなサウンドを聴くこともできるのだが、これもまた長すぎず、まったくマニアックに聴こえないのである。この辺りが即ち大衆を意識したものかどうか分からない。分からないから想像でしかないけれども、アルバムとはいえ、ロックバンド然としたサウンドをこれ見よがしに示さなかったことは、LINDBERGが多くのリスナーに親しまれたことと無縁ではなかった気がする。
最後にもう一点、今回『LINDBERG III』を聴いて改めて感じたLINDBERGの特徴を記しておこうと思う。LINDBERG楽曲の歌メロは、多くのシングル曲を手掛けた川添に限らず、平川達也(Gu)も小柳昌法(Dr)も、誰が作る曲にしてもとてもキャッチーであることに議論を待たないと思うが、そのどれもが渡瀬の声のレンジにとてもマッチしている印象が強い。もちろん、そもそも渡瀬は幅広い音域を歌いこなせるだけのヴォーカリストではあるのだろうが、いたずらに高音低音を強調することなく、サビにつながるBメロ後半やサビの聴かせどころでいい具合の音域に突入しているのである。全体的には高音域ではあるのだが、無理のないギリギリの高音と言おうか。古のハードロック的ハイトーンヴォーカルとも、もちろんコンテンポラリーR&Bでのファルセットとはまったく異なる、(誤解を恐れずに言えば)嫌味のない声なのである。これはLINDBERG楽曲の溌剌さをベストに表現していたとは言える。そんなふうに考えると、改めて言うことでもなかろうが、LINDBERGというバンドは、歌詞、サウンド、メロディー、その全てにおいて、絶妙なバランスを発揮していたバンドであったのだろう。
TEXT:帆苅智之