串田和美×松村武×湯川ひなが語る『
K.テンペスト』 まつもと市民芸術館
〜東京〜東欧へ!串田=Kの魔法で彩
られたファンタジー

『K.テンペスト』は、串田演劇の中でもファンタジックな美しさに包まれた、多くのお客さんに見てほしいまつもと市民芸術館の財産演目だ。ナポリ王アロンゾーたちを乗せた船が突然の嵐に遭ってしまう。その嵐は元ミラノ大公プロスペローが魔術によって引き起こしたもの。プロスペローは野心家の弟アントーニオらに幼い娘ミランダとともに孤島に追放されたのだ。復讐心に駆られたプロスペローは、嵐を起こし彼らを島に引き寄せ……。魔術、妖精や怪物も登場して人知を超えた物語が展開するシェイクスピアのロマンス劇を下敷きに、「K(串田)」の魔法が奔放に躍動する。2014、2017年に続く公演は、新たにカムカムミニキーナ主宰の松村武をアントーニオ役、瑞々しさと透明感をまとった湯川ひなをミランダ役に迎え、さらに進化していく――。
『K.テンペスト2017』(撮影:山田毅)
――湯川さんは舞台はこれが2本目だそうですね。
湯川 はい、去年が初舞台で、ハイバイという劇団の『て』という作品に出演させていただきました。
松村 学校で演劇部とかに入っていたりはしないの?
湯川 やってないんです。初めてだったのですべてが面白くて。お稽古の中で、ある人物が言うセリフに対して、周りの人たちがそのセリフに込められた感情を動きで表現するのは特に面白かったですね。怒っているなとか、変な雰囲気だなと思ったら、それを動きで表すんです。
湯川ひな
――松村さんは演出家でもあります。初めて顔を合わせる人ばかりの現場を解きほぐすときにはどうするんですか?
松村 僕は演劇経験のない人たちへのワークショップが多くて、その場合は全員が知らない者同士だったりするので、お互いの名前が覚えられるようなゲームを笑いを取りながらやります。何日か続く場合は飲みニケーションです(笑)。今の若者には引かれることが多いけれど、絶対重要だと思っていて。僕はワークショップは野田秀樹さんに教わったんです。野田さんによればイギリスではワークショップの後に必ずビールを1、2杯飲みながら今日はどうだった、明日はどうするかを話すんだそうです。それをやっておくと、翌日まったく違う空気になる。ワークショップが楽しくなるには、演劇が楽しさを発見してもらわないといけないから、ほぐれた雰囲気で突っ込んだ話をしたり探究心をくすぐるんですね。
串田 (ほぐれるって)久しぶりに聞いた言葉だけど、確かにほぐすということを考えるよね。
松村 僕は串田さんの作品は初参加ですが、雑談コーナーが新鮮でした。
串田 いいでしょ? ほぐれるしかないって感じだもんね。
串田和美
――今回はどんなテーマの雑談から入られたんですか?
串田 最初は海の話をしようと思ったんだけど、船に乗ったことがあるとか、海でのエピソードがあるという人が少なかったから日々テーマを変えて。昨日は遭難した話がメインだったよね。
松村 僕が山で遭難した話をしました。
串田 松村君と僕は山登りが共通の趣味でね。でも芝居の関係者でなかなか山登りの話をする人はいない。
松村 いないんですよ、これが。
――松村さんは雑談の中で何か気になるエピソードはありましたか?
松村 いっぱいあるんですけど……それより皆さんそういうやり方に慣れているから、どんどん話すんですよね。それがすごいなあと。僕も最初はなんか話さないと、と焦りました。
松村武
一同 あははは!
串田 しゃべらない人はしゃべらないアピールというか、ウンウンと聞いているだけでもいいんですよ。急にしゃべり出す人もいたり、個人的なことを話したくない人がいてもいい。でもみんな頭の中ではこの芝居を前提にしているから、こういうことなのかなと考えてくれているよね。
――湯川さんはその時間はいかがですか?
湯川 自分の中に話せることがあるかなと探すんですけど、すぐに言葉にできなくてあまり発言はしていないんです。でも皆さんパッと会っただけではわからないことを話してくださるから、早く仲良くなれる気がします。
――ところでお二人はどんな準備をしてお稽古に入りましたか?
湯川 私はどういうことをやるのか気になってしまうので、DVDも拝見しましたし、台本も読みました。それよりもそもそもシェイクスピアを読んだことがなかったので理解しておきたいなと思ってしっかり読みました。
松村 僕は真っ白な状態です。前回の台本や『テンペスト』も改めて読んだんですけど、それもきっと違うんだろうなと(笑)。そもそも今日に至るまで自己紹介さえしていない。
湯川 そうなんです(笑)。
松村 誰が誰で、どの人が松本の人なのか全然わからないまま進んでいく。ひなちゃんは初日に東京から来て、一緒にホテルに荷物を持っていったから東京から来ているんだってわかったけど。それぐらい真っ白です。
串田 そうだっけ? いいねえ(笑)。
湯川ひな
――串田さんの印象は?
松村 僕がまだ20代のころにシアターコクーンができ、串田さんが芸術監督になられて、たくさん舞台をやられていた。すごく大掛かりなことをされる印象があったんです。でも後からオンシアター自由劇場のことを知り合いから聞いたり、自由劇場出身の方に出会ったり、また今回ご一緒してミニマムということではないんですけど、大仕掛けとは正反対のノー仕掛けみたいな、そういう部分もおありなんだと新鮮でした。僕なんかせかせかした時間の中で芝居をつくってきたんですけど、のんびりしながらも大事なところが立ち上がってくるようにつくっていらっしゃるのも印象的です。
串田 理想的にはね。そのうち急にせかせかするよ(苦笑)。
湯川 私は稽古が始まって「あぁ、こういう方なんだ」と思ったのは、本気で笑うんです、串田さん。少年の心があるんだな、純粋な方なんだなって。
串田 そんなこと言われると汗が出ちゃうよ(笑)。でもね、いろんな人がいて、ワイワイしていることがすごくいいなって。おかしな人がいっぱいいるでしょ、ヘンでしょみんな。
湯川 面白いです。
串田 この感じをどうやったら芝居にできるかな、この時間を再現できないかなって思っているわけ。昨日の松村君の遭難の話でも、立ち上がっちゃって、崖から落ちる様子を演じてたでしょ。その話に出てくるヘンなおじさんになって誰か絡んでこないかな、そうすれば場面ができちゃうんだけどなって思いながら見ていますよ。いつもそうやるわけではないんだけど、『テンペスト』は稽古で拾ったエピソードを盛り込む隙間がある。みんななかなか稽古が始まらないなって思っているかもしれないけど、本当は始まっているんですよ。お芝居の経験が少ない人と、大ベテランの人が一緒に何かを探そうとするから面白いんだよね。しかもお芝居って定形があるわけじゃないんだから。
松村武
――それでは作品の話をしましょう。
松村 僕はシェイクスピアを通してやるのは役者としては初めて。一回だけ、シェイクスピアのいろんな作品を合体させたオリジナルを書いたことがあって(『陥人―どぽんど―』)、メインのストーリーが『ヴェニスの商人』と『テンペスト』だったんです。その周りに『マクベス』『オセロー』『間違いの喜劇』などを散りばめて。それを書こうと思ったときにシェイクスピアを全部読んだんですけど、『テンペスト』が一番好きだったんです。ほかのシェイクスピア作品と違って広がりがあるというか、レイヤーが違うんですね。『ハムレット』なんかはアカデミックで自分たちのやりたいこととシンクロしなかったんですけど、『テンペスト』だけはつながれるような気がして。だから今回も『テンペスト』ということですごくうれしかったんです。
湯川 私は言葉、テンペストというタイトルがいいなあって。嵐という意味ですよね、それだけで何かが起こりそうで印象にも残りやすいと思うんです。そして串田さんの『テンペスト』は怖い、恐ろしいというよりも、ワイワイにぎやかに始まるから、原作を知っているお客さんでも想像と違う感じで見られるのかなと思います。
――『K.テンペスト』の「K」というのは、串田さんのかける魔法だと思っているんですけど、「K」の魔力について教えてください。
串田 そんなこと言えないよ(苦笑)。いい大人が「魔法」という言葉を使うのは気恥ずかしいと思っていたんだけど、2017年に共同演出の木内宏昌さんが「原作では魔法をアートと表現している」と発見してくれたんです。アートには魔法だけではなく、テクニックとか、仕掛けとか、術という意味もあるんだとわかって、気恥ずかしさはなくなった。
串田和美
――『テンペスト』をどう料理するのかを教えてください。そこには稽古場で皆さんが話したエピソードを盛り込んだりする意図もあるんですよね。
串田 うん。シェイクスピアの晩年ってアナーキーで、ウケようとか、まとめようとかいう意識がまったくなくて面白いんですよね。僕は演出家になろうと強く思ったことはなくて、ただ自分の思うようなことをやってくれる人がいないから自分でやっているだけ。その一つが、山や花を見るのと同じように戯曲を見るということ。戯曲を解釈するのではなく、そこから何を感じるか、僕はそういうタイプ。『テンペスト』の場合は、コラージュみたいに順番を変えたり、物語と関係ないものを挟み込んだりするつくり方をしてみたかったんだよね。というのは、沖縄に行くと、砂浜は鉱物ではなくて全部生物のかけらなんだよね。貝とか蟹とかサンゴとかのかけらが小さくなったものが砂だとしたら、すごくにぎやかだなってちょっと感動したんだ。それから空中に、妖精と訳されたもの、原作ではスピリットという言葉が使われていて心とかエモーションとかを意味する。なんだか矛盾するんだけど、役者じゃできないことを役者がやるなんてすごいと思わない? しゃべったらスピリッツじゃないけど、しゃべらなければできないという面白さ。そうやって考えると、砂浜や空気、人間の思いや記憶、そして時々シェイクスピアがこだわる謝罪ということなど、それらをミックスさせて波にザーッと洗われたり、混ざり合うのが面白いなと思ったんだ。
松村 僕がなぜ『テンペスト』が好きかというと、言葉にしづらいことが描かれていて、でも大事なものが詰まっているから。その言葉にしづらいことこそ演劇が取り組まなければいけないことだと思うんです。僕は言葉を過剰に積み上げてその余白みたいなものから何かあふれ出るようにできたらいいなと思っていて。なんとなくやりたいこと、近づこうとしているお芝居の目標地点が串田さんと似ているなと思います。なんか同じところへ向かっていくんだけど、こっちの道で行くとどこにたどり着くんだろうかというような面白さがありますね。
串田 しょっちゅう遭難するけどね。
一同 あはははは!
『K.テンペスト2017』(撮影:山田毅)
『K.テンペスト2017』(撮影:山田毅)
――このお芝居は、松本から始まって東京、ルーマニア、セルビアでも公演を行います。それについて一言ずつお願いします。
串田 僕は敗戦直後に育っているから、日本は貧しくて、アメリカはすごいんだ、演劇もすごいんだと思っていた。でもだんだんもっと貧しい国があることもわかって。そういう意味ではルーマニアもセルビアもまだまだ大変だと思うけど、文化や演劇で国が元気になれると本当に信じていて、実際そうやって成果も上げている。それをみんなに見せたいし、僕もそこからいろいろ吸収したいんだよね。
松村 僕は30年くらい演劇をやっていますけど、海外でお芝居するのは初めて。しかもロンドンやパリではなくて、知られていない街に行く。もう人生の一大事なわけですよ。そして松本に1カ月以上滞在して芝居をつくる。以前に北九州でもそういう経験をしていますが、松本は登山のときによく下り立っていたのでうれしいんです。街に住んで、一体化するというのは故郷が増えていくようでもあり、また演劇と相性がいいと思う。松本の人と一緒にお芝居できることは僕にとって重要ですべてが一大事な公演です。
湯川 私は松本のことをまったく知らなかったんですけど、出演が決まってそれを話すと、みんなが「いい場所だよ」って口をそろえて言ってくれるんです。実際に来てみたら、人は穏やかだし、空気もきれい、そして街に暗さがないんですよね。そういうところでお芝居をつくるというすごく贅沢な経験をしています。しかもルーマニアやセルビアにも行くという、この年齢でこんなにいろいろ経験できるのはとてもラッキーです。
串田 大学にも入ったばっかりだしね。
湯川 はい、1年です。ほかの方がうらやましいと思ってくれるようなことをこれからやっていくので本当に楽しみだし、その経験をした後の自分がどうなるか興味があります。
(左から)湯川ひな、串田和美、松村武
取材・文:いまいこういち

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