岸惠子、高齢者の恋物語を描いた一人
芝居を新演出 『岸惠子 ひとり語り
 輝ける夕暮れ』囲み取材レポート

女優、作家として活躍する岸惠子のトークショー『岸惠子 ひとり語り 輝ける夕暮れ』が、2019年5月18日(土)東京・新宿文化センター大ホールで初日を迎えた。今回は2部制となり、第1部で2015年に初演され好評だった自著小説『わりなき恋』の一人芝居を新演出、縮小版で上演し、第2部にフリートークが行われる構成となる。初日を前日に控え囲み取材が行われたので、その模様をお伝えする。
シックな黒の上下、胸元にアンティークだというおしゃれなネックレスを身に着け颯爽と登場した岸。いよいよ始まる公演に向けての意気込みを聞かれると、「意気込みなんてない」と一言放ち、笑いを誘う。「ただゆったりと観ていただければ。本当は過去(2015年と2017年)に2回上演した時のままやりたいのですが、今回は要となる場面を編集しなおして50分にまとめました」と公演の概要を語った。
岸惠子
続いてこの物語を書いたきっかけについて話し始めたところで、「私、質問されないのにしゃべっているわ」と照れ笑いをする場面も。報道陣から「その続きをぜひ……」と促され、メディアが高齢者について報道する内容はネガティブな内容ばかりであることに憤りを感じていた思いを吐露。そんな高齢者ばかりじゃないと考えた岸は、人生の夕暮れ時に、夢でもいいからパーっと虹が立つような美しい景色を描きたいという思いから誕生したのが『わりなき恋』だという。
高齢者の恋物語には、さまざまな障害があると岸は言う。例えばその一つが男女ともに高齢になっていくことによって避けられない身体的な問題があるのだが、そういうことから逃げずにとことん書こうと決心。実際にパリや日本で医師を取材して、書きにくいと思うこともしっかり書いたという。そして出会いがあれば別れがある中で、別れをすがすがしく、美しく、岸流の美学で飾りたいと思ったということで「我ながら成功したと思っている」とにっこり。「それを組み取っていただけるとうれしいと思います」と重ねた。
今回3回目となる一人芝居だが、前回の公演との違いを問われると、「失敗はすぐに忘れる」としつつも「その都度ドキドキしながらやっている」という答えが返ってきた。黛りんたろうが演出した藤沢周平原作の『蝉しぐれ~永遠の初恋、ふく~』に出演したことで舞台の面白さを知ったというが、本音のところでは「舞台で芝居をやるのは向いていない」のだそうだ。「共演者の方に迷惑をかけてしまうから、やるのであれば一人芝居、朗読劇がいい」とのこと。「でも舞台は面白い。観客がわいてくれるとすごく幸せを感じる」と語った。
リクエストに応えて台本を手にする岸惠子
気になる第2部のフリートークの内容について問われると「今朝まで悩んでいた」と明かした。フリートークの時間が20分ということもあり、「私はあまりにもいろいろな経験を積んできたので、話が飛んじゃうんですよ。一つの話をしているとそれに関連することを思いついて話が広がってしまうんです」と笑顔で語った。
5月2日に岸の新作著書『孤独という道づれ』が発売されたが、本におさめられている16編のエッセーの中からテーマを取り上げる予定だという。しかし岸自身は「まだ迷っています。明日が初日だというのに……」と語り、冒頭に「意気込みはない」と言いながらも、本公演に力を注いでいる姿が垣間見えた。
女優として数多くの監督や俳優と仕事をしてきた岸だが、一番印象に残っている人は? との問いに対して「私の恩人は市川崑さんです」と即答。「市川さんが亡くなられた時はショックでした。その時に私の映画(人生)は終わったと思いました」としみじみ語った。
その流れで、最近相次いで名優が亡くなっていることに話がおよぶと「私はそんなに人とお付き合いがあるわけではないのですが、(今年の2月に亡くなった)佐々木すみ江さんが亡くなった時はびっくりしました。ちょうど佐々木さんにメールを打っている時にニュースで亡くなったことを知り、本当にショックでした。すばらしい女優さんでした」と語った。また3月に亡くなった萩原健一は弟のような存在だったといい、自宅が近いこともあって家族ぐるみの付き合いがあったことも明かした。
自身の体調について問われると、定期的に検査を受けているとしながらも、内臓が強いということで主治医に「あなたは100歳まで生きますよ」と言われていると笑った。
女優として作家として、常に第一線で活躍してきた岸は多くの女性にとって憧れの存在だ。そんな岸の魅力あふれる本公演がどのようなものになるか、楽しみだ。
取材・文・撮影=秋乃麻桔

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