くるり アップデートを続けるバンド
の今に震えた、『songline』ツアーフ
ァイナル

くるり 『songline』リリースツアー「列島Zeppェリン」

2019.5.24 Zepp Tokyo
3時間弱に及ぶステージを見終えてもまだ、もっと聴きたいと思わせる驚きと発見に満ちたライブだった。ここ10年ほどくるりのライブはアンサンブル、スキルでアベレージを更新し続けている印象だが、この日はここ2~3年でも最高スコアを叩き出したのではないか。
その理由として、まず新作『ソングライン』が岸田繁のクラシック音楽のスコア(「交響曲第一番」通称・シゲイチ)という楽器の対位法のロジックを経た作曲法を体得した後の作品であること。その新作がバンドの宇宙の広がりだとして、過去曲をそのレベルで演奏したこと、さらにはそれらの過去曲にあらゆる時代やジャンルの演奏法やフレージングが加味されたこと、そしてライブメンバー6人ががっちり新たな宇宙というべきアンサンブルを一人・1惑星ぐらいの存在感で鳴らしたこと――それはまるで音楽の大宇宙とくるりというバンドの宇宙が抱擁し合っているようなダイナミズムだったのだ。
くるり 撮影=岸田哲平
凄まじいライブになる予感は1曲目の「琥珀色の街、上海蟹の朝」での松本大樹(Gt)の粘っこいファンキーなリフと隙間が多いアレンジで、ちょっと褒め過ぎかと思うが、ディアンジェロのバンドを思い出させるほど、そのグルーヴはエロティックだった。そこに気を取られていたが、今回フロント3人のセンターがファンファン(Tp/Cho)なのも新鮮な驚きだった。序盤に早くもたっぷりとタメの効いた「Morning Paper」を配し、岸田と松本がブルージーかつハードロック調のソロを存分に弾き倒し、会場全体が途轍もない渦に巻き込まれていく。
早くも開いた口が塞がらない力演に万雷の拍手が起こる中、岸田が「ハイ、伊達メガネです」と一言発したところから、デビュー当時を回想。大事なワンマンライブ当日、佐藤が髪を切ってきたところ、当時のレーベルのアーティスト担当が「メガネ、デブ、ロン毛で売ろうとしてたのに!」と激怒されたと笑わせる。しかし演奏との落差の大きさもここまで。新作収録の「Tokyo OP」と双璧を成しそうなインストの新曲を披露。ここでもハードロックやメタル、クラシックやジャズ、ファンクの要素がめくるめく展開を見せ、便宜上、岸田は「プログレ」と言っているが、ジャンルの多様性とそれを生楽器で全て賄った今回のライブを象徴する場面でもあった。
くるり 撮影=岸田哲平
その後『ソングライン』をまとめて演奏するブロックに突入。「その線は水平線」のイントロを彩る岸田の透明なギターサウンドが美しい。構成やコード進行は「HOW TO GO」に近い印象を持っていた曲だが、モードがまるで違うというか、大海を進むような前向きな音色の集合体だ。佐藤とファンファンのコーラスもその気持ちを彩る。さらには佐藤のフレージングの主に低音がアンサンブルを引き締める「風は野を越え」や、クリフ・アーモンド(Dr)のツボを突く重いキックと乾いたスネア、野崎泰弘(Key)の8分のピアノリフが心地よい「忘れないように」、転調を含む技巧的なAメロを歌いこなす岸田の力量から、少し唱歌的なサビメロへの流れに琴線を震わされる「どれくらいの」、少しボブ・ディランを思わせる「News」と、多少のBPMの違いはありつつ、全体的にゆったりした大きなグルーヴの楽曲が続いていく。これが単にBPMが遅く“聴く”ことに注力する演奏なら、いくら往年からのファンが多いとは言え退屈するんじゃないだろうか。しかし新作のアンサンブルはオーケストラ並みに全楽器が歌っている。それがナマで押し寄せてくるのだからこちらも感覚の蓋が開けっぱなしになる。
サポートメンバーがいったん捌け、3人だけで届ける日替わり選曲のブロックでは、「宿はなし」がジャジーに、「ブレーメン」では特にファンファンのトランペットが高らかに響き、豊穣さを増した岸田の歌も相まり、どこまでも飛んでいく渡り鳥が実際に見えるような浮力を醸し出しでフィニッシュすると、感嘆の声と拍手が起こった。
くるり 撮影=岸田哲平
後半は4th~6thアルバム界隈の楽曲からという意外な選曲を今の演奏で表現。「お祭りわっしょい」のリフやソロはロックンロールの王道の旨味満点だが、この日は岸田が少しジミー・ペイジ的なギターを弾いているように感じたのは何もツアータイトルに意識が引っ張られたせいじゃないと思う。さらには生演奏の完全体で披露した「ワールズエンド・スーパーノヴァ」は松本のワウギターのファンキーなカッティングに始まり、この日クリフは二種のドラムセットを用意していたのだが、「上海蟹~」と同じドラムセットを使用。音源でのジャンル感は全く異なる2曲を今のくるりのダンサブルなナンバーとして並列させた意義にもゾクゾクするような意気を感じた。そして「HOW TO GO」を本編ラストにセット。「その線は水平線」の記憶が新しい中で聴くと、「HOW TO GO」のローギアでしぶとく前進するような体感は当然のように違う。プレイヤーが耽溺するグルーヴならありがちなことだけれど、このアウトロのリフレインはオーディエンスも耽溺させてしまう。ジャンルを横断し様々な音楽を吸収するくるりだが、不屈のオルタナティヴバンドという意味合いで、この曲の影響力の強さをあたらめて実感した。
くるり 撮影=岸田哲平
怒涛の本編23曲を完走してもなお、この日のくるりはツアータイトルがただの親父ギャグじゃなかったとばかりに、Led Zeppelinのカバー2曲、初期ナンバーからクリフのリクエストで「尼崎の魚」、この日最も異色に聴こえた『リラックマとカオルさん』主題歌の「SAMPO」と、カラフルな選曲。しかし定番の「東京」も「ばらの花」も今回のレパートリーにはないのにこれ以上ない興奮に満たされているのは、過去曲がアンサンブルとスキルで更新されていたからだろう。最後の最後は「ロックンロール」で締めくくり。過去最もドライブ感溢れる「ロックンロール」が、いつまでもこの3時間弱のグルーヴを我々の体内に残していった――揺さぶられまくりのZeppツアー楽日だった。今期のくるりを見逃すのは相当勿体無い。間に合う人は6月からのライブハウスツアーを体験してみてほしい。

取材・文=石角友香 撮影=岸田哲平
くるり 撮影=岸田哲平

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