キャンディーズの
7thアルバム『夏が来た!』に
現在まで続く
アイドルグループの原型を見る
サウンドも歌唱もバラエティ豊か
M3「夏が来た!」はシングル曲なだけあってか、さすがにキャンディーズ王道とも言えるポップなメロディーラインだし、M9「季節のスケッチ」もいい意味でアイドル歌謡っぽく、コーラス、スキャットを含めて妙な安心感がある。その上で、日本の童謡のような雰囲気を持ったM6「めぐり逢えて」や、旋律に昭和歌謡特有(と言っていいだろう)のいなたさが感じられるM12「恋はサーフィンに乗って」もあったりするから、歌のメロディもいろいろあって楽しいところだ(ちなみにM12は某国民的バンドの某氏が自身の楽曲で参考にしたとかしなかったとか…)。3人それぞれがメインヴォーカルを務めている楽曲がある上、3人で歌うパートでもユニゾンがあったりハモリがあったりと、ボーカルパフォーマンスも多岐にわたっているのは、シンガーグループの面目躍如たるところだったであろうか。
ただ、その歌唱が完璧だったかというと、少なくともこの『夏が来た!』では未だ微妙なところがあったことは否めないし、サウンドはバラエティに富んでいるといっても、逆に言えば整合性が取れていたとは言い難い部分もあるとは思う。聞けば、それまでプロデュースを手掛けていた穂口雄右氏が「夏が来た!」を最後に一旦キャンディーズから離れ、『夏が来た!』はその後に制作されたアルバムということで、想像するに少なからず混乱したようなこともあったのだろう。
しかしながら──これもまた想像でしかないが──『夏が来た!』でバラエティ豊かな作家陣が参加したことは、のちに「やさしい悪魔」で吉田拓郎が作曲を手掛けることにも関係したような気もする。アイドルグループの楽曲をロックバンドのメンバーが提供することが今は何ら珍しいものではなくなっているが、『夏が来た!』以降のキャディーズの動きはその先駆だったと言える。そして、そのことは現在のアイドルの盛り上がりとまったく無縁とは言い切れまい。そんな風に考えると、冒頭でキャンディーズを記録より記憶に残るグループだったと言ったが、記憶はおろか、そのDNAは今もあまた居るアイドルミュージシャンに連なっていると言えるし、その原型だったと言っても過言ではないかもしれない。
TEXT:帆苅智之