ペンギンラッシュが語る『七情舞』そ
の奥深さの根底にあるもの

名古屋を拠点に活動しているバンド・ペンギンラッシュが、2ndアルバム『七情舞』をリリース。望世(みよ Vo. & Gt.)、真結(まゆ Key.)、浩太郎(Ba.)、Nariken(Dr.)からなる4人組は全員が二十代のインディーズバンド(2019年5月現在)だが、そのキャリアからは想像できない奥深いサウンドで今注目を集めている。音楽性のベースにはジャズやファンクなどがあるが、ひとつのジャンルに縛られず、何かと何かのあいだをクロスオーバーすることが特徴。真結が「何かにあてはまったものをつくろうとは思っていない」と言えば、望世は自分たちの音楽について「ジャズやファンクとは言えない」と語る。こうした発言の奥には、自分たちのルーツに対する強烈なリスペクトがあるようだ。ペンギンラッシュとはどんなバンドなのか、彼らの言葉を通して、その全体像に迫った。

Photography_Hiroaki Noguchi
Interview & Text_Sotaro Yamada
Edit_Miwo Tsuji

渋い女子高生だった2人

左から浩太郎(Ba.)、望世(みよ Vo. & Gt.)、真結(まゆ Key.)、Nariken(Dr.)

――ペンギンラッシュは望世さんと真結さんが中心となって結成されたバンドで、浩太郎さんとNarikenさんはサポートメンバーだったんですよね。浩太郎さんとNarikenさんは、正式メンバーになることを躊躇しなかったのでしょうか。

Nariken : 1年以上サポートを続けて、ライブもレコーディングもたくさん一緒にやったので、いずれメンバーになるんだろうなあと思っていました。だから、特に悩むことはなかったです。わりと、ヌルッとメンバーになりました(笑)。

浩太郎 : 僕は他にもいくつかのバンドでサポートをやっていたんですが、それらよりもペンギンラッシュの方がよりメンバーに近い位置で活動できていたんです。だから正式にメンバーになった後も、それ以前とほとんど意識は変わらないですね。僕もヌルッとメンバーになりました(笑)。

――浩太郎さんとNarikenさんから見て、望世さんと真結さんにはどんな魅力がありますか?

Nariken : 元々、とあるライブハウスの店長さんに、当時高校生だった望世と真結を紹介されたんです。「普通の女子高生がやらない音楽だよ」って。それで一緒にスタジオに入ってみたら、たしかに他とは違うことをやっていた。なんというか、キャピキャピしてなかったんですよ。

望世 : キャピキャピしてなかった……(笑)。

Nariken : この2人には、当時からすでに渋さがあったんです。それが大きな魅力ですね。

浩太郎 : 僕はサポートメンバーになる約半年前に対バンしていて、その時から一緒にやってみたい気持ちがありました。2人とも自分が考えもしなかったアプローチを持っていたので、刺激的でした。

早朝に正式結成されたバンド

――では、望世さんと真結さんから見て、浩太郎さんとNarikenさんにはどんな魅力がありますか?

真結 : 2人のことは学生の頃から知っていて、ライブも観に行っていました。ファンだったんです。憧れの先輩だったから、最初はめっちゃ緊張していました。

――やりにくかったですか?

望世 : めっちゃやりにくかったです(笑)。普段聴いていたバンドの人たちだったし、年も結構離れているので(浩太郎とは5歳差、Narikenとは6歳差)、はじめはどう接していいかわからなかった。でも自然と慣れていきました。2人がお兄さん的な感じで気をつかってくれるので。

――元々ペンギンラッシュは、ガールズバンドだったそうですね。
望世 : そうなんです。だから男性メンバーを入れることについてもだいぶ考えました。でも一緒に演奏を重ねていくうちに安定感も出てきて、半年経たない頃にはもう、正式にメンバーになってほしいなと思っていました。ただ、いざ正式にお願いする時は、めちゃくちゃ時間がかかって……。

真結 : 断られたらどうしよう、という気持ちがあったので……。

――どういうシチュエーションだったんですか?

望世 : まず、ひとりずつスタジオに呼んで「メンバーになってほしいので、ちょっと考えておいてください」とお願いして。それから数日後に、浩太郎さんのお家で鍋パーティーをやったんです。わたしと真結で料理をして。

Nariken : 懐かしい……。

望世 : その鍋パーティーで答えを聞こうと思っていたんですけど、なかなか本題を切り出せなくて……。夜には終了するはずだったのに、朝までかかりました。
真結 : 本題に入れたのは早朝の5時頃でした。しかも、帰り際に、ヌルッと(笑)。

望世 : でも2人はこの鍋パーティーの目的をわかっていたから「なんで早く言わんのやろ」って顔をしていましたね。

Nariken : 望世がなかなか言い出さないから、それを見かねた真結さんが机をドンドン!って叩くんですよ。正直、「怖……」と思いました。

真結 : それは全然覚えてないわ。なんか、ごめんなさい(笑)。

――もしかして、ペンギンラッシュの手綱は真結さんが握っているんですか(笑)?

望世 : 真結は結構、天然なところがあるんです(笑)。でも浩太郎さんとNarikenさんには本当に断られたくなかったから、絶対に断れない流れで聞きたいと思っていて。なので、どうしても時間がかかってしまいました。

ハッピーなリズムで、ハッピーじゃない
曲を

――作曲にはバンド名がクレジットされています。誰がイニシアチブ(主導権)を取って、どのように作曲していくんでしょうか?

望世 : わたしと真結と浩太郎さんがそれぞれ大元のデモをつくって、それをスタジオに入って全員でアレンジしていきます。だから曲によってメインでつくっている人が違うんです。

――たとえば『悪の花』は誰が大元をつくったんでしょう?
ペンギンラッシュ – 悪の花 (Official Music Video)

望世 : 『悪の花』はわたしです。今、ジャズクラブで働いているんですけど、ある日観たライブで、セカンドライン(※ニューオリンズ発祥の独特のリズム。ジャズフューネラルという葬儀のパレードから生まれたもの)を使っているバンドがいたんです。ボーカルがお客さんに手拍子をあおりながら「ハッピーになってくるでしょ?」と言っていて。ああ本当にハッピーになるなあ、と思いながら「このリズムでハッピーじゃない曲をつくりたいな」と思ったんです。それでリズムと構成だけふわっとつくって、あとはスタジオに集まって全員でつくっていきました。それぞれのフレーズはみんなに任せることが多いです。このフレーズは真結、このメロは浩太郎さん、というふうに、ひとつの曲のなかでもバラツキが結構あります。
――いくつもの曲が合わさっているように感じられる作品が多いのは、メンバーそれぞれが自由にフレーズやメロをつくっているからなんですね。浩太郎さんが大元をつくる時も同じような流れですか?

浩太郎 : 基本的にはそうですね。たとえば『契約』という曲は、望世が書いた歌詞を元に、僕がデモをつくりました。この曲はメロが最初からはっきりと頭のなかで鳴っていたので、メロとコード、それにベースとドラムを入れたものをたたき台にしてアレンジしていきました。ピアノの部分は真結に丸投げしたんです。そうしたら素晴らしいピアノのフレーズができて、結果的に、ピアノと歌詞が印象的な曲に仕上がったと思います。

望世 : たしかにペンギンラッシュの曲は、ピアノのフレーズがキモになっている曲が多いです。

真結 : 後ろの演奏がピアノ、ベース、ドラムのトリオになっているので、メロディにかんしてはピアノとの掛け合いが重要になるんですよね。

望世 : でも『契約』は、浩太郎さんがつくったメロがすごく良かったんですよ。歌詞を書いた時のイメージ通りだったし。だから浩太郎さんのメロ通り忠実に歌っています。

暗いというわけではないけど明るくもな
い歌詞

――今回のアルバム『七情舞』の収録曲には、文学作品から引用されたタイトルが多いです。『悪の花』もシャルル・ボードレールの詩集『悪の華』からですよね? でも漢字をあえて変えている。
望世 : ボードレールの『悪の華』は、ちょっと漢字のインパクトが強すぎますよね。それに、そこまではっきり引用しているわけではないんです。ボードレール作品のようにストレートな感情が込められている、くらいの意味あいで使っています。漢字を同じにしてしまうと、同じタイトルの漫画やアニメ作品を想像してしまう人がいるかなと思って。あの作品も大好きだけど、この曲とはちょっと雰囲気が違うから。

――要素を引用しているんですね。では『アンリベール』はどうでしょう? これはフランスの小説家・スタンダールの本名ですよね。なぜ『スタンダール』という曲名ではいけなかったんでしょうか。

望世 : もし『スタンダール』という曲名にしてしまったら、曲名を知った瞬間にスタンダールのことを歌っていると思いますよね。でもそうではない。だからアンリベールという、それほど知られていない本名の方にしました。要素はあるけれど直接そのものについて歌っているわけではない、という点で『悪の花』と同じ引用の仕方をしました。

――なるほど。メンバーのみなさんは、望世さんが書く歌詞をどう見ていますか?
浩太郎 : みんなが知らない言葉や思いつかない言い回しが多くて、毎回感心しています。

Nariken : それは本当に、純粋にすごいな、と思いますね。

真結 : わたしは、暗いというわけではないけど明るくもない、ということが望世の歌詞の特徴だと思っています。それから、いつも送ったデモのイメージに合った歌詞をあげてくれるんです。望世は読み取る能力が高いんだと思います。

何かにあてはまったものをつくろうとは
思っていない

――いくつかのインタビューで「ジャンルに対する違和感」について触れているものを読みました。しかし、具体的にはどういったことに違和感を抱いているんでしょうか? たとえば、ペンギンラッシュを紹介する際、ほぼ必ず「ジャズやファンクをベースにした」という言い方がされますが、それすら嫌ですか?

真結 : それは、そもそも最初は自分たちで言っていたことなので、ある程度仕方ないと思っています。ジャンルというものは、どんな音楽をやっているかをわかりやすく伝えるためには便利ですよね。でも、何かにあてはまったものをつくろうというつもりはないんです。つくったものをわかりやすくたとえようとすると、結果的にそういう言い方をするのがわかりやすいんだろうけど、でもわたしたちの曲はジャズやファンクそのものではない。そこに違和感を覚えるんです。

――自分たちがつくった音楽は、ジャズやファンクであるとは言えない?

望世 : 言えないと思います。それはジャズやファンクに失礼だと思う。

――ということは、その違和感は、自分たちのルーツに対するリスペクトの強さゆえに来ているものなのかもしれないですね。

望世 : たしかに、そういう面はあると思います。

真結 : うん、そうかもしれない。
――では今後、ペンギンラッシュは何を目指しますか?

望世 : 実は、そのことについて特にはっきりと話し合ったことはないんです。でも、ペンギンラッシュと言っただけでどんな音楽なのか伝わるようになりたいとは思います。ジャンルという言葉を使うなら、ペンギンラッシュというジャンルを確立させたい。将来的には、フェスをつくりたいと思っているんです。音楽だけでなく、デザインなどもふくめた広義のアートフェス。そういうイベントをバンドが主催することは珍しいし。

真結 : 短期のビジョンとしては、名古屋だけでなく東京でも定期的にライブをやっているので、まずはひとりでも多くの人にライブに足を運んでもらい、生のペンギンラッシュを体感してもらいたいですね! まずはこのアルバムのレコ発ライブと初めてのワンマンライブ。お待ちしています!

ペンギンラッシュ

新譜情報

2ndアルバム 『七情舞』
2019.6.5 Release
CD:NCS-10227 / \1,800+税
販売:スペースシャワーミュージック

配信サイト一覧:https://jvcmusic.lnk.to/shichijomai
同日より音楽ストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサイトにて配信スタート

・収録曲
1. 悪の花
2. アンリベール
3. 契約
4. 能動的ニヒリズム
5. モノリス
6. 晴れ間

LIVE INFO

〇インストアイライブ
■6/9 (日) 愛知 名古屋パルコ西館1FイベントスペースST 12:00
内容:ミニライブ+サイン会(ライブはどなたでもご覧になることが出来ます)
詳細:https://tower.jp/store/event/2019/06/015004penginrush

〇『七情舞』東名阪レコ発ツアー “七情に舞う”
■6/27(木) 名古屋 新栄APOLLO BASE
OP 18:30 / ST 19:00 w/けもの
チケット発売中(イープラス):https://eplus.jp/sf/detail/2945020001-P0030001P021001?P1=0175

■7/5(金) 東京 代官山SPACE ODD
OP 19:00 / ST 19:30 w/集団行動, showmore
チケット発売中(イープラス):https://eplus.jp/sf/detail/2948380001-P0030001P021001?P1=0175

■7/12(金) 大阪 心斎橋CONPASS
OP 19:00 / ST 19:30 w/Lucky Kilimanjaro, RAMMELLS
チケット発売中(イープラス):https://eplus.jp/sf/detail/2948380001-P0030002P021001?P1=0175

〇ワンマンライブ “Rush out night 2019”
■8/18(日) 名古屋 新栄APPLO BASE
OP 17:00 / ST 18:00
チケット6月1日発売

ペンギンラッシュが語る『七情舞』その奥深さの根底にあるものはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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