LACCO TOWER主催のロックフェス「I
ROCKS 2019 」のクイックレポート 
BRADIOからTHE BACK HORNなど今日限
りの全力アクト続出 - 6月8日(土)
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昨日に続き、今年で6回目を迎えたLACCO TOWER主催のロックフェス「I ROCKS 2019 stand by LACCO TOWER」のレポートをお届けする。開催3日目の6月8日は、概ねの予想をいい意味で裏切る晴れ間が見え、開場時刻の午前11時を過ぎる頃には大勢の観客が訪れた。週末とあって家族連れも多く、フードブースや屋内のキッズエリア、様々な趣向を楽しんでいる。恒例のラジオ体操も行われ、ライブの前にはI STAGEに塩﨑が前説で登場。「天気のことも含め、色々ミラクルが起こってます。みんなが楽しんでくれて、I ROCKSは100%完成するので、どうか急がず慌てず、楽しんでください。I ROCKS、6月8日、始まります!」――ここから14組の熱演がスタートした。
BRADIO(I STAGE)
BRADIO Photo by Masanori Fujikawa
「ファンキーしてるかい?ハッピーしてるかい?ファンピーを届けにきました!BRADIOです!I ROCKS4年目、I ROCKSバンド、I ROCKSを愛し、I ROCKSに愛されるバンド!今夜も……夜じゃねえな」と、思わす自分でツッコミながらも、I ROCKS愛を連呼する真行寺貴秋(Vo)のハイテンションっぷり。夜も昼も関係ないグルーヴは、フェスの口火を切るには最適だ。目下、全国都道府県ツアー中の彼ら。ちなみに真行寺のアフロは完全体である。
「Funky Kitchen」から「Flyers」と自然にクラップが起こる中、印象的なのはホールのナイス音響でよりローがグッとくる酒井亮輔(Ba)のフレーズ。クールでグルーヴィな大山聡一(Gt)のリフとカッティングも明快に聴こえ、オーディエンスの腰を揺らす。削ぎ落とした音と音の隙間が大人っぽいアンサンブルは新曲「O・TE・A・GE・DA!」でも冴えを見せ、楽しませながら最新のソウル/ファンクを堪能できるという、BRADIOの持ち味が100%発揮されていく。
BRADIO Photo by Masanori Fujikawa
中盤には真行寺によるステップのレクチャーもあり、飲み込みの早いオーディエンスを「カッコいいぜ!ダンスホールI ROCKSを作ろう!」と讃えながら、教えたステップがそのまま活きる「Back To The Funk」へなだれ込む。大山がステージ前方でソロを披露。ラストの「スパイシーマドンナ」では、真行寺が最前列の女性の手をとり優しくキッス!かと思えば、上手から下手にダッシュし煽り、さらには無限に「サンキュー!」を繰り返し、ステージからの感謝はもちろん、踊るということで繋がったフロアもお互いに祝福し合うようなムードが溢れる。いつもどおり長く最敬礼をする真行寺。ようやく顔を上げると、オフマイクで「音楽って素晴らしい!ありがとう!」と渾身の声で感謝を届ける。まるでワンマン・ライブを凝縮したようなセトリで一番手の大役を成し遂げ、続いて行くツアーへ旅立った。
oldflame(YOU STAGE)

oldflame Photo by 鈴木公平
3日目、YOU STAGEのトップバッターを務めるoldflameは、念願のI ROCKS出演に大きな気合いを漲らせて現れた。3人が拳を突き合わせて、「切れ端から」からスタート。吠えるようにメロディを紡ぐ狩野太祐(Vo /Gt)の前のめりなボーカル、時折こぶしを突き上げて感情をぶつけるヤマグチユウキ(Ba)のベース、そんなバンドの熱量を一層加速させる藤原徹郎(Dr)のビート。3人がひとつの塊になって、“はじめまして”のI ROCKSに熱量の高い楽曲を届けていく。

MCでは「緊張して何を喋ったらいいのかわからないけど、素の俺らを届けたい」と伝えたあと、その熱気をまったく下げないまま、ミディアムテンポ「32日」へ。日常生活で摩耗してゆく心の悲鳴をつぶさに拾い上げるoldflameの音楽は、この日、初めてYOU STAGEで彼らに出会った人の心にも深く刺さる強度があった。
oldflame Photo by 鈴木公平
最後は「正直、初年度から(I ROCKSに出演することを)狙っていました。5年かかりました。すげえ才能がないんだなって気づいてます。でも、LACCO TOWERを見ていると、奇跡を起こせるんじゃないかって思います。大好きな先輩です。追いかけたいし、追いつきたい」と伝えて、拭いきれない劣等感が生んだ負け犬たちの応援歌「追風になって」で終演。また、今年もLACCO TOWERファミリーに、かっこよくて油断ならない“後輩”が加わった。
GOOD ON THE REEL(I STAGE)
GOOD ON THE REEL Photo by Masanori Fujikawa
悲しみや喜びという人間が持つ様々な感情を一身に背負ったような千野隆尋(Vo)の震えるボーカルが、I STAGEを圧倒的なエネルギーで会場を包み込んだのは、GOOD ON THE REEL。ステージに美しい光が降り注ぐなか、「存在証明書」から幕を開けると、そのメロディにぴったりと寄り添うバンドサウンドが、どこか厳かな雰囲気を会場に作り上げてゆく。
MCでは、「いつもLACCO兄やん、呼んでいただいてありがとうございます。出会ってから長い付き合いだけど、こんなにも気にかけてくれて、心配してくれる先輩はすごく貴重で大切です」と感謝を伝えた千野。歌のなか以外は決して饒舌ではないが、そんな短い言葉のなかにLACCO TOWERへの精一杯の敬意が滲んでいた。
GOOD ON THE REEL Photo by Masanori Fujikawa
中盤、女性の言葉が綴られ、抉るような切実さで“愛して”と叫ぶ「モラトリアム」は圧巻だった。演奏が終わり、最後の一音がやんだあとも、千野が「ありがとう」と言うまで、しんと静まり返った会場。その静寂が何よりも雄弁にライブの素晴らしさを物語っていた。ラストソングは躍動感あふれる「素晴らしき今日の始まり」。大きく広げた両腕のなかに、あらゆる命と愛を肯定するようなGOOD ON THE REELの音楽は、年を重ねるごとに揺るぎないものになっていく。
DJ岩瀬ガッツ with スベリーマーキュリー(YOU STAGE)

DJ岩瀬ガッツ with スベリーマーキュリー Photo by 鈴木公平
最強のオーディエンス参加型アクトとして楽しみにしている人も多いのか、I STAGEからどんどん人が流れてくる。「群馬県住みます芸人」を名乗る岩瀬ガッツが、助っ人として呼び込んだスベリー・マーキュリーは「今日も最幸にバイシコーな日に」という文言をユニオンジャックに貼り付けて登場。ちなみにI ROCKS中、写真も動画も撮りまくりOK、その代わりにジャンジャンSNSにハッシュタグ付きで投稿するようガッツが促す。

初っ端はゴールデンボンバーの「令和」に始まり、スベリーとガッツがエクササイズ教室よろしく提示する振り付けに、来場者も凄まじい体力でついて行く。イヤーマフをつけた子どもたちが一番冷静なぐらいなのが見ていておかしい。
DJ岩瀬ガッツ with スベリーマーキュリー Photo by 鈴木公平
その後もback numberやメリーなど、I ROCKSになんらか所縁のあるアーティストの曲を立て続けにスピンし、LACCO TOWERのナンバーでは、おなじみのゆるキャラ・なめじろうもステージに登場し、動かず手拍子だけするという、「らしい」アクションに笑いも起きる。
時にスベリーはフロアに降り、サークルや、ゆる目のウォール・オブ・デスを作るように指示したりしながら、縦横無尽に踊りまくる。しかしそれ以上にお客さんの元気なこと……。
隣にいた小学生男子もタオル回しにジャンプに、全力で楽しんでいた。他にもロットングラフィティなどアガる曲を連発して行くのだが、ある種、邦楽ロックDJの鉄板ネタになった嵐の「Hapinness」でさらにぶちアガり、LACCO TOWERの「一夜」にのせ、「シゲミー・マーキュリー」に扮した重田が後方から登場。スベリーと妙にお似合いのコンビ感を醸し、大団円を飾ったのだった。

嘘とカメレオン Photo by Masanori Fujikawa
苦境にあるバンドにとって、先のライブが決まっていることはなんて大きな希望になるのだろうーー去年、I ROCKS初登場を果たすはずで、メジャーデビューも控えていた嘘とカメレオンは交通事故に巻き込まれ、渡辺壮亮(Gt/Cho)曰く、楽器を持てるまでに3ヶ月を要したという。チャム(.△)(Vo)は、ライブはできないもののこの群馬音楽センターに足を運べるメンバーでここに訪れ、塩﨑に「お前ら来年出ろ」と激励を込めたオファーを得たことがどれだけ力になったかを誠実に言葉にしていた。そうして、LACCO TOWERと各々のバンドにとってどんな存在なのか?が分かるほどに楽しみも味わいも増して行く、それがI ROCKSがスペシャルな理由だろう。

話をライブに巻き戻すと、登場してすぐ渡辺が楽屋に自分の好きな店の鳥めしがあることや、来場者の笑顔が印象的だと語り、「死ぬ気で演奏します!」と宣言。そのままスキルフルでエクストリームな「N氏について」、そして「ルイユの螺旋」と、ノンストップで演奏して行く。渋江アサヒ(Ba)に至っては歓喜が爆発しすぎているのか、身の置き所がないほど激しいアクションを続けながらテクニカルなフレーズを放ち続けていた。菅野悠太(Gt)、青山拓心(Dr)を含め、キャラがバラバラであるがゆえに個性が立つ5人は音でも明確に持ち味を発揮している。そして改めて少女のような声で、歌謡としての強さを持つメロディを歌うチャム(.△)を含めLACCO TOWERとの共通点も感じる。激しさの中に際立つ日本的な儚さとでも言おうか。
嘘とカメレオン Photo by Masanori Fujikawa
鋭さを増しながら、I ROCKSとの深い縁にバンドに親しみを感じたオーディエンスからのリアクションも大きくなり、「強くなるきっかけをくれたLACCO TOWERに一緒に届けてくれますか?」とチャム(.△)が曲紹介した「パラダイム4210」で、がっちり噛み合った5人のグルーヴが、果たすべき約束が希望そのものだったことを証明。初登場だが「おかえり、嘘カメ!」と言いたい。
ラックライフ(YOU STAGE)

ラックライフ Photo by 鈴木公平
LACCO TOWERと同じように地元(大阪)を愛し、同じようにその地元で主催イベントを開催するラックライフは、だからこそLACCO TOWERが大事な日に賭ける想いを汲み取るように、否応なしに熱くなってしまうライブだった。

キャッチーなメロディが軽やかに弾む「初めの一歩」から、攻撃的なロックナンバー「リフレイン」へ、ハイエナジーなパフォーマンスで集まったお客さんを巻き込んでいく。MCでは、「BRADIOを横で見てる大ちゃん(細川大介)の踊りが妖怪みたいだったわ(笑)」「oldflameが終わった瞬間、LACCO TOWERのメンバーが全員で出迎えていた」と、PON(Vo/Gt)。オープニングから各ステージを見ていないと言えないセリフ。それは、ただ出演して終わるのではなく、誰もが主催者と同じ目線でイベントを見守っている。そういうI ROCKSの空気感を表していた。
ラックライフ Photo by 鈴木公平
さらに、等身大の言葉で闘い続ける意思を綴った「Lily」のあと、「LACCO TOWERっていうバンドが大好きです」と伝えたところで、堪えきれずに泣き出したPON。「自分が本当に好きやなって思うことをやってたら、マジで一生かけて倒したいなっていう先輩がいて、その先輩が死ぬほど大事にしてるイベントに、俺らは毎年呼んでもらってる。“お前らが必要だ”って言われてる気がしてます。俺らにとっても大切なイベントです」と伝えると、最後に一人ひとりの目をしっかり見るようにしながら届けた「名前を呼ぶよ」で終演。LACCO TOWERとラックライフの間にある、先輩・後輩を越える絆を感じるステージだった。
SHE'S(I STAGE)
SHE'S Photo by Masanori Fujikawa
エレクトロなポップサウンドではじまり、次第に開放的なロックへと展開する「歓びの陽」から、I ROCKS初登場となるSHE’ Sのライブが幕を開けた。海外ポップシーンの影響を感じる洗練されたアプローチ。そのなかで、軽やかにピアノを弾く井上竜馬(Vo)の伸びやかなボーカルが会場に力強く響きわたっていく。
続けて、ストリングスが刻むイントロが印象的な「Un-science」へ。“1人じゃないから 共鳴していくんだよ”と、人と人とのつながりが起こす奇跡こそ信じたいと紡がれる想い。それは、一見、世代もジャンルも異なるように見えるSHE’ SとLACCO TOWERのあいだにある確かな共通点だな、と思う。
SHE'S Photo by Masanori Fujikawa
MCでは、過去にLACCO TOWERと打ち上げをしたときに、「キム(木村雅人/Dr)と(塩﨑)啓示さんが、ふたりでひとつのTシャツを着とったよな(笑)」と明かして会場を和ませると、CMソングとしても話題の華やかなダンスナンバー「Dance With Me」を披露。自身のワンマンでは生の管弦楽団とコラボレーションするなど、果敢に音楽的な冒険をするSHE’ Sならでの豊かな音楽性を盛り込んだセットリスト。そのラストを飾った、美しくもエモーショナルな「The Everglow」まで、I ROCKSに新たな風を吹き込むステージだった。
FOMARE(YOUSTAGE)

FOMARE Photo by 鈴木公平
高崎出身バンドというだけの理由でこんなにI STAGEから人が流入してくるとは思えない。非常に気になる。衝動を撒き散らすようにベースを構えた瞬間からアマダシンスケ(Vo/Ba)は「行けるか?行けるか?行けんのかー!」と絶叫。これ以上どうシンプルにするんだ?と思えるストレートな心情を吐き出す「君と夜明け」からスタート。ファストな8ビートが続く、超がつく正統派の歌ものパンクバンドといった印象だ。3曲目に入る前にベースをうっちゃってクラウドにダイブするアマダ。イントロの間にマイク位置に戻り「新しい歌」を歌い始めた。もう、何が何だかエネルギーが収まりきらない様子だ。

「I ROCKS、ありがとう。前に出た時と今日とどっちがいいライブしてるだろう?とか思うけど、俺は誰かの背中押せるライブやれたら、それが一番かっこいいのかなと思う」と、衝動がにじむ。暴走気味のアマダと2トップを張るカマタリョウガ(Gt/Cho)は、シンプルだが印象に残るリフとコードカッティングで曲を支える。
FOMARE Photo by 鈴木公平
特にBPMを落とした「mirror」のような曲でカマタとサポートのドラムのシュアさが際立つ。そして歌も明瞭に聴こえ、会えない時間が長いほど深まる愛、的な名曲のフレーズを俺は信じないと、身もふたもないけれど、自分にとっての真実を歌うアマダの初期衝動がこの日のラインナップの中で、際立った青さやストレートさを見せた。イントロですでにシンガロングが起こったり、確かなファンベースを築いているバンドがここにいる。LACCO TOWERというバンドの人との繋がりの幅と深さも実感。
Saucy Dog(I STAGE)

Saucy Dog Photo by Masanori Fujikawa
サウンドチェックから本気の演奏で会場を温めていたSaucy Dog。石原慎也(Vo/Gt)がギター1本で歌い出した「煙」で、その凛とした歌声が響き渡るだけで、会場の空気はガラリと変わった。ギター、ベース、ドラムという、バンドとしては最小限のスリーピース編成。それでいて、表情豊かなバンドサウンドが、その歌に込めた未練や後悔といった切ない感情をいっそう強く掻き立てる。

「バンドマンの歌を」と伝えてから届けた「メトロノウム」は、これまで決して一筋縄ではなかったバンドのストーリーをありのままに綴ったナンバー。それはLACCO TOWERをはじめ、それぞれに紆余曲折を経て、酸いも甘いも噛み締めた不器用なバンドが集う、このI ROCKSというイベントに、なんだかとても相応しい曲だった。「今年も出られてうれしいです」。MCでは、せとゆいか(Vo)が、昨年のYOU STAGEから、今年はI STAGEでの出演が叶った喜びを伝えると、新曲として「雀ノ欠伸」を披露。
Saucy Dog Photo by Masanori Fujikawa
昨年のI ROCKS以降、着実にライブハウスの規模感を上げ、大きく成長したサウシーの強靭なグルーヴが光る。そして、バンドにとって大切なナンバー「いつか」へ。メンバー全員がしっかりと呼吸を合わせ、揺らぐテンポのなかで届けたラブソングには、急成長を遂げるバンドのいまが、しっかりと刻まれていた。
I ROCKS 2019スペシャルバンド(YOU STAGE)

I ROCKS 2019スペシャルバンド Photo by Masanori Fujikawa
大方の天気予報を覆すミラクルを起こしつつ、一日のほぼ三分の二の行程が終了。ブレイクタイムにスペシャルバンドを配置するのは、むしろこの企画以外はガチなアクトばかりだからかもしれない。塩﨑と松川が登場し、西日が入るYOU STAGEを「ここめっちゃ暑いやん」と、晴れを喜びながらも本音も飛び出す。すかさず「ブレイクタイムなんでご飯食べたり、水分補給したりしてくださいね」と、フェスのホストとしての役目をきっちり果たしている。

さて、この日のスペシャルバンドの面々はこの通り。ボーカルは松川ケイスケ、井上竜馬(SHE’ S)、チャム(.△)(嘘とカメレオン)、ギターは細川大介、菅波栄純(THE BACK HORN)、渡辺壮亮(嘘とカメレオン)、ベースは塩﨑啓示、ヤマグチユウキ(oldflame)、
ドラムは重田雅俊、LOVE大石(ラックライフ)、キーボードは真一ジェット。今年で3回目の試みだが、LACCO TOWERに誰かをプラスするより、出演者の中から有志と一気に演奏する方が面白いのでは?という発想らしい。
I ROCKS 2019スペシャルバンド Photo by Masanori Fujikawa
松川が「曲は僭越ながらLACCO TOWERの『薄紅』!」という曲紹介から、この人数で鳴らしてるとは思えないある種、遠慮がちな音量。ボーカルはほぼ井上とチャム(.△)、さびをのびのびと歌いきった井上に拍手が起こる。さらに間奏のギターソロは渡辺壮亮に任せ、彼らしいソリッドでクセのある音色で確かに色を差していた。なるべく若手を立てているように見えたのは気のせいだろうか。それでもやはり「薄紅」と言えば、真一のピアノリフが何にも増して印象に残る。誰もコピーやカバーをしても違和感がありそうな、いい意味でアク満載のLACCO TOWERの楽曲たちだが、こうして思わぬ普遍性をスペシャルバンドで思い知ることになった。
WOMCADOLE(I STAGE)

WOMCADOLE Photo by 鈴木公平
真っ赤に染まるステージ。なりふり構わぬ荒ぶるロックンロールで“ホール”を“ライブハウス”に変えたのは、初出場のWOMCADOLEだった。「LACCO TOWERに向けての準備運動じゃねえぜ。セックスよりも、自慰行為よりも、気持ちよくなっていこうぜ!」。激しい口調でまくしたてた樋口侑希(Vo/Gt)は、初っ端の「人間なんです」「ドア」から、フルスロットルのテンションでステージを暴れまわっていた。

腰を落とし、大きく足を広げながら繰り出される黒野滉大(Ba)の獰猛なベースライン、衝動を加速させる古澤徳之(Gt/Cho)のギターリフ、重戦車のような安田吉希(Dr)のビート。日常生活のなかに淀む憂鬱も、感傷も、不安も、迷いも、すべてを吹き飛ばすものは、誇り高きロックンロールに他ならないと、そう確信するような迷いのないステージは痺れるほどかっこいい。
WOMCADOLE Photo by 鈴木公平
「俺とあんたの目ん玉が合ってるこの瞬間が、俺の唯一の生きがいのような気がしてます」と突入した「アオキハルヘ」から、「革命っつうのは、いつも俺たちのあいだで起きてる。着火してやるよ!」と挑発するように訴えた「ライター」へ。生き抜くための闘争心を剥き出しにした楽曲のラストを飾った「唄う」では、樋口は客席へ降りてシンガロングを煽った。そこで作り上げたのは“一体感”なんて生半可なものではない。個々の命が美しく燃えるような絶景だった。
KAKASHI(YOU STAGE)
KAKASHI Photo by Masanori Fujikawa
この日のYOU STAGEのトリは初年度から連続出演している地元群馬県前橋出身バンドのKAKASHIだ。ただならぬ気合いでステージに飛び出した堀越颯太(Gt/Vo)、斉藤雅弘(Gt)、中屋敷智裕(Ba)、関佑介(Dr)は、拳を合わせて気合いを入れた。1曲目は「本当の事」。なんのひねりもないストレートな歌だが、初見でここまで歌が聴こえる事自体素晴らしい。ホール2階のエントランス的な比較的リバーヴィな場所で、ここまで明確に歌を届けてくる堀越の唱法の正確さもあるが、楽器のメンバーも全員で歌を届けようとしている。久々にここまでストイックなギターロック・バンドを見た思いだ。
ノンストップで3曲を走り抜け、ようやく堀越が口にしたのは、この日のYOU STAGEのトリを任されたからにはこれまでの人生をかけて演奏するという事。さらに後半、再度、彼の本音が顔を出す。昨日もこの会場にいた堀越は、LACCO TOWERから100パーセントの信頼の上でYOU STAGEのトリを任されたというより、この後にI STAGEでTHE BACK HORNとLACCO TOWERという大先輩かつライブ強者を控えて、お前らは戦えるのか?という挑戦状なのだと確信したという。「I ROCKSに出演するまでは楽しく面白くバンドをやっていればいいと思ってた。一度、大きいステージに立ったらその前の自分には戻れなくなるんじゃないかとビビってた」というのだ。そして今日はトリであることにビビっていたと。
KAKASHI Photo by Masanori Fujikawa
まっすぐな思いをまっすぐな演奏で届け続けた4人は「ドラマチック」の演奏に入る前に、
代表して堀越が「いつでもここから始めたらいいと思います」と、ビビったり迷ったりするからこそI ROCKSという場所を起点にし続ける意思をその場にいる全ての人に届けたのだった。バンドがどんな規模でどう成長したいのか。群馬県出身バンドだからこそ伝えられるLACCO TOWERとの関係、I ROCKSの存在の大きさを知った。
THE BACK HORN(I STAGE)

THE BACK HORN Photo by 鈴木公平
いよいよ3日目のI ROCKSも残すところ2バンド。大きな期待感に包まれるなか、荘厳なSEにのせて登場したTHE BACK HORNは、いきなりの「コバルトブルー」でI STAGEを掌握した。全身をフルに使い、人生そのものを背負って振り絞るような山田将司(Vo/Gt)の鬼気迫るボーカル。菅波栄純(Gt)、岡峰光舟(Ba)、松田晋二(Dr)が繰り出す激情のバンドサウンドに導かれるように、フロアからは一斉にこぶしが突き上がる。

「暗闇でダンスを」から「美しい名前」へ。曲を重ねるごとに、この日それぞれのバンドから繋いできたバトンを、最後のLACCO TOWERへと渡すべく、4人の演奏も、激しく、熱量を加速していった。
THE BACK HORN Photo by 鈴木公平
終盤には、「東京でLACCO TOWERのライブがあるとき、俺はよく遊びに行くんですけど」と語りかけた山田。「ライブは素晴らしいとして、打ち上げも素晴らしい。人間的な温かさ、優しさ、真面目さ、変態さ……あ、変態は約1名、いや、全員変態みたいなもんなんだけど(笑)、そこが人間くさくて。これからの音楽人生を一緒にがんばって生きていこうぜっていう気持にさせてもらってます」と、“共鳴”し合う盟友への想いを伝えると、ライブを締めくくったのは「刃」。この一瞬に全力で命を燃やそうとする渾身の“生命讃歌”は、LACCO TOWERに終わりを託すトリ前にふさわしい、圧巻のフィナーレだった。
LACCO TOWER(I STAGE)

LACCO TOWER Photo by 鈴木公平
正午から約10時間に渡り熱演が続いてきたこの日のI ROCKSもいよいよこの“家”の主であるLACCO TOWERが大トリを飾る。なぜここに来る観客が「ただいま!」を告げ、バンドが「おかえり!」と迎えるのか、それはこの場に来ないと分からないーー初めて参加してその意味が体感できた。塩﨑啓示(Ba)がI ROCKSの、細川大介(Gt)がバンドのノボリを手に登場し、左右にぶっ立て、松川ケイスケ(Vo)が「I ROCKS3日目、晴れたぞ!みんなここに来るまで色々あったでしょう?ここはみんなを迎える家です。おかえり!」と全身全霊で叫ぶ。まさにその想いを反映したかのように「相思相逢」で始まった、その音色は初夏の光のように瑞々しい。柔らかい曲調だというだけでなく、熱演でありつつリラックスしたムードが、いつも攻めに攻めるライブを見ている者からすると新鮮だ。松川が何度も「声をちょうだい!」と、オーディエンスを心身ともに解放していく。
LACCO TOWER Photo by Masanori Fujikawa
真一ジェット(Key)がショルダー・キーボードで前に出てくるおなじみの「傷年傷女」では、皆の声をもっと求める松川が一旦、演奏を止め「もっといけるって言ったよね?みんなこの後、カラオケ行こうとしてないか?」と牽制しつつ笑わせる。さらに温度の上がったフロアは声のボリュームを上げ、テンションの上がった真一は会場を走り抜け、後で松川に「真一、脱退したかと思ったわ。そのまま高崎帰ったかなって」と、また笑わせる。地元の人も遠征でやってきたファンも同じようにリラックスしたところで、前向きな戦いに向かう気持ちを焚きつけるように「火花」が披露される。ファストでタフなプレイで屋台骨を支える塩﨑と重田雅俊(Dr)だが、エンディングでは松川がベースを弾き、塩﨑がセンターのお立ち台でI ROCKSのタオルを掲げる一幕も。
LACCO TOWER Photo by Masanori Fujikawa
LACCO TOWER Photo by Masanori Fujikawa
一気に畳み掛けたあと、松川は改めて自分たちにとってI ROCKSとは何かを語る。バンドは常に調子がいい訳ではないこと、むしろ活動がおぼつかない時、地元に帰ってくると「おかえり」と迎えてくれる。そんな人たちのためにできることは何か?と考えて、彼らが「ただいま」を言える場所を作りたかったというのだ。それは共演バンドや遠方から来る人も巻き込んで、どんどん大きな「ただいま」になっていったのだと思う。涙も笑顔も照れずに見せられる場所、それを彼らは音楽を軸に育んできたのだ。
LACCO TOWER Photo by Masanori Fujikawa
LACCO TOWER Photo by 鈴木公平

終盤にはピアノとギターでシンフォニックな響きを作り上げる新曲「夜明前」も披露。夜明け前は一番暗いと言われるが、まさに光が見える直前の期待と少しの心細さに寄り添ってくれるような楽曲だ。さらにこの日の予想外の晴れを祝うような「雨後晴」。またしても皆の声を聴かせて、と重田のキックだけを残し、会場全体で作るシンガロングがどんどん膨らむ。「素晴らしい、ありがとう!」と、皆を讃える松川。その姿勢にフロアも感銘を受け、各々が自分を解放しているように映った。
自然に起こるラッココールに応えて、再びステージに戻ってきたメンバーは満面の笑みで「薄紅」を演奏。最後にもう一度言わせて、と松川が「おかえり!」と全力で叫び、全力の「ただいま!」が響き渡る。I ROCKSは明日も続くが、今日のライブは今日限りだという彼らの真意が伝わる45分だった。
LACCO TOWER Photo by 鈴木公平
取材・文=秦理絵:oldflame、GOOD ON THE REEL、ラックライフ、SHE'S、Saucy Dog、WOMCADOLE、THE BACK HORN 石角友香:BRADIO、DJ岩瀬ガッツ with スベリーマーキュリー、嘘とカメレオン、FOMARE、I ROCKS 2019スペシャルバンド、KAKASHI、LACCO TOWER

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