GLIM SPANKYのロックミュージックが
さらなる高みへと到達したツアーファ
イナル

GLIM SPANKY LOOKING FOR THE MAGIC Tour 2019 2019.6.8 豊洲PIT
世界的に見てもロックミュージックがメインストリームの中心に轟くことが少なくなくなって久しい――という話が度々出てくるのは、裏を返せばそのことを寂しく、どこか不服に感じている人がたくさんいるからだと思う。2019年6月8日に豊洲PITを埋めた観客たちもきっと、そういうタイプだ。そしてステージに立っていたのは、自分たちのロックミュージックで音楽シーンの中心に風穴を開けてやろうとし続ける2人組、GLIM SPANKYである。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
この日は、昨年にリリースされた4枚目のフルアルバム『LOOKING FOR THE MAGIC』を引っさげ、3月から行っているツアーの27公演目、ファイナル公演。まだ海外公演と追加公演が控えてはいるとはいえ、演奏はもちろん音質や演出面に関しても、公演を重ねるごとにライブの精度を高めながら回ってきたであろうロングツアーの集大成である。大いに期待しながらゲートをくぐったのだが、その遥か上をいくライブがそこにはあった。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
先に言ってしまうと、この日はオープニングSEとして流れたアルバム冒頭のインスト「4 Dimensional Desert」に始まり、『LOOKING FOR THE MAGIC』の全曲が収録曲順に並ぶ合間に過去曲が挟まるセットリストになっていた。アルバム制作の時点からそのままライブで機能するビジョンがあったのかどうかは定かではないが、少なくともこの日のライブを見る限りはバランスにしろ起承転結にしろ完璧に近い流れで、むしろそれによってアルバムの魅力を再認識させられた感まである。サイケとヘヴィとグッドメロディが渾然一体となりながら、それぞれがそれぞれの方向に深く突き抜けていく120分は、本当にあっという間だった。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
松尾レミ(Vo/Gt)と亀本寛貴(Gt)にサポートメンバーを加えた5人がステージに現れると、彼らの姿ごと背後にカラフルなマーブル模様が投射され、「Love Is There」から本編が始まった。ボーカルにもサウンドにも深いリバーブがかかった幻想的な音像が場内を支配していく中、曲終わりに「こんばんは、GLIM SPANKYです」と松尾が一言告げるとフロアからは熱気のこもった歓声が巻き起こる。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
そのまま間髪入れずにスタートした「TV Show」、これが凄まじかった。深く歪ませた亀本のギターは爆音ながら徹底的に残響を排した音作りがされており、ローの強調されたドラムのキックやベースとの相性も抜群で、ヘヴィリフにぶん殴られるような衝撃だ。曲のストップ&ゴーに合わせて明滅する照明に視覚まで刺激され、誇張なしに何度も鳥肌が立つ。「怒りをくれよ」「褒めろよ」など速めでアッパーな楽曲こそ軽快な音作りになっていたが、「TV Show」「END ROLL」「愚か者たち」といったミドルテンポのロックナンバーが徹底的に重厚な音色となっていた点は、これまでのライブと一線を画す部分だろう。それどころか、普段行く邦楽のライブ全体を見渡しても、こんな音に触れることはまずない。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
「In the air」や「To The Music」では、ダンスミュージック的側面を増幅させるデッドな質感の四つ打ちとロックギターが見事な融合ぶりをみせ、2019年現在のシーンに対するGLIM SPANKY流の回答にもなり得るのでは?というアプローチに、まわるミラーボールの下、フロア中が音に身体を委ねていく。その一方で、音自体はサイケデリックながらフォーキーで普遍的なメロディをもつ「The Flowers」、後半へ向け場内の空気を鮮やかに塗り替えたドラマティックな「All Of Us」などサビ感のあるナンバーは、松尾のボーカルを中心に据えたアンサンブルで丁寧に聴かせてくれた。気怠くラフに歌ったりスッと伸びやかに高音を出す箇所など、松尾の歌声はこれまでと一味違う聴こえ方をすることも何度かあって、それによってロック色を強めて声を張ったときの高揚が格段に増している。歌唱表現が豊かになると同時に良い具合に力が抜けているようにも映り、同じくバンド全体からも余裕や自信を感じるというか、泰然とした雰囲気だ。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
ライブの締めくくりは、これまで大切に歌われ続けている「大人になったら」からの「Looking For The Magic」だった。前者のアウトロで放たれる亀本の長尺のギターソロは毎度見ごたえたっぷりだが、この日もそれは例外ではなく、存分に観るものを熱くしていく。アルバムをレコーディングしたLAから、アートワークを撮影したサルベーション・マウンテン間の車窓のエピソードを話した後の「Looking For The Magic」では、果てしない荒野の映像をバックに、スケールの大きい演奏を見せてくれた。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
アンコールは、久しぶりに聴けたことが個人的に嬉しかった「話をしよう」から、妖しく蠢くロックナンバー「いざメキシコへ」、そして「Seven Nation Army」のリフを取り込んでニヤリとさせてくれた「アイスタンドアローン」という3曲。その冒頭、亀本が話した内容が良かった。それは、武道館でのワンマンを経験し、フジロックのメインステージにも立ったことで、一度はロックバンドとしてどこを目指すか分からなくなった気がしていた、それが先日ノエル・ギャラガーの来日公演を観に行ったときに、自分たちがアリーナクラスの会場でロックのライブをできるビジョンが見えた、というもの。
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介
彼の言葉を裏付けるかのように、この日、GLIM SPANKYは過去最高クラスに素晴らしいライブをやってのけた。派手な演出は一つもなくとも、歌や演奏はもちろん、音作りの面や佇まいに至るまでこだわり抜かれ、迫力と興奮、発見に満ちていた。そして『LOOKING FOR THE MAGIC』のサイケ的な音像や、ブラック・キーズやラカンターズのチームとのレコーディングが、単なる懐古趣味や憧憬によるものではなく、彼らが“いま”鳴らしたいロックミュージック像を実現するためのアプローチであったことも証明してみせた。GLIM SPANKYのこういうライブがアリーナやスタジアムを揺らす日と、音楽シーンの中心にロックが帰還する日は、きっとイコールだ。

取材・文=風間大洋 撮影=鳥居洋介
GLIM SPANKY 撮影=鳥居洋介

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