「自分にとっての”生きる”や”日常
とは何か”を考えるきっかけになれば
」 向井理2年ぶりの主演舞台へ 震
災後の集落が舞台の赤堀雅秋によるリ
アル群像劇

赤堀雅秋が2年ぶりに書き下ろす待望の新作舞台『美しく青く』がこの夏、 東京と大阪で上演される。6月某日、主演の向井理が大阪市内で会見を行った。
震災から数年たったとある日本の集落。獣害に悩まされる人々は自警団を結成し、日々対策に追われていた。 自警団のリーダーとして住民の士気を高めたい青木保(向井理)。妻・直子(田中麗奈)は認知症の母・節子(銀粉蝶)の介護に追われ、 同級生で農家の古谷勝(大東駿介)は協力的だが、 片岡昭雄(平田満)は頑なに活動に協力をしようとしない。 峰岸春彦(駒木根隆介)は熱意に乏しく、役場の箕輪茂(大倉孝二)はどっちつかずの対応と、事態は一向に改善されず。 自警団の青年・林田稔(森優作)は東京に憧れ、勝の妹・美紀(横山由依)は都会に疲れて帰郷する。 佐々木幸司(赤堀雅秋)、順子(秋山菜津子)夫婦が営む居酒屋では、今日も猟師の落合秀樹(福田転球)ら馴染み客が、 他愛もない話に花を咲かせる。 何気ない日常のどこにでもある風景。しかし保の熱意が火種となり、少しずつ彼らの日常は熱を帯びはじめて……。
「自分たちの日常の延長線上にあるような生々しい世界観のなかで、 自分だったら巻き込まれたくないような環境や状況も、 客席から俯瞰で観ているとどこか滑稽で面白い」と、赤堀戯曲の魅力を語る向井。「劇中ではみんな結構下らない話をしているんですが、でもそれが今後の展開のヒントになったり、後に物事が大きくなる火種になったりする。 色んなところに種を蒔いて、最終的にはすべてが回収されていく。良くできた脚本だなと」
向井理
それは赤堀の実力もさることながら、演じる役者の力量も大きいという。「それぞれがお芝居の中で少しずつ積み上げていくものがあって、それが大きければ大きいほど壊れたときの衝撃も大きくなると思うので。 赤堀作品の常連である大倉孝二さん、秋山菜津子さんとは舞台での共演は初めてなので、お二人がどういう風に稽古に取り組んでいるのか、色々と盗めたら良いなと思います」
演じる青木保については、衝撃的なバックボーンがありながらも、それを演劇的に増幅させたキャラクターと見る。 「人間誰しも大人になるとネガティブな記憶や経験は、ひとつや2つはあるもの。そういう憐れみや哀しみを抱えているのが人間という動物だとも思うので。きっとどこかに自分と共通する部分があると思う」
向井理
まるで覗き穴から他人の生活を垣間見るような「生々しさを感じる作品」が、観るのも演じるのも好きだと言う。「そういう世界観を作るにはやっぱり本物というか、リアルに演じる必要があって。傷つく部分は本当に傷つくとか。そういう生々しい呼吸や息づかいを体験できるのが、赤堀作品の醍醐味でもあると思います。 役者としては難しく、ハードルが高い」と表情を引き締める。 「でも、そういう超えられるか超えられないかのギリギリのところで舞台はやりたいと思っているので。好きな演劇ですし、挑戦しがいがある」
どちらかと言えばツラく大変なことの方が多い舞台だが、1年に1本のペースで出演するのが理想とも。 気持ちを途切らせることなく役を演じきれる、数ヵ月間役と台詞に向き合える、数百人の観客と対峙できる……。「何より、初舞台での印象が強くて。 後悔や失敗、緊張を経験してツラかったんですけど、千秋楽を迎えた時に『この景色をまた見てみたい』と、最後まで行かないと見えない景色があって、もう一度舞台をやりたくなった。それで次の作品に挑んで、初日の前日に『もう二度とやりたくない』と思うんですけど、 千秋楽ではまた『この景色を見てみたい』と思ってしまった。(笑)」
舞台での経験が糧になっていることは、日頃の活躍を見れば一目瞭然だろう。最後にタイトルに込めた思いに触れつつ、観客にメッセージを贈る。「残念ながらここ数年の日本では、震災というものが身近な存在になっていますが、 震災を描くというよりは、そういうところにも日常はあって、じゃあ日常ってなんだろうという問いかけなんだと思う。赤堀さんがタイトル『美しく青く』に込めた思いというのは、例えば大変なことが起きても、ふと見上げた空の青さに気が晴れることもあるだろうし、良いことも悪いこともあるけど、 結局は何でもないところにループする。24時間経ったら明日は来るし、生きていかなければならない。 その中で、 自分にとっての生きるとは、日常とは何だろうというのを少しでも考えるきっかけになれば。 生で観るべき題材ですし、ライブでしか得られない感情の動きがあるはずです。それを目の当たりにして頂ければ、 ありがたいなと思います」
取材・文/石橋法子 撮影/田原由紀子

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