カバーアルバムかくあるべき!名曲に新たな価値を生み出す山崎育三郎というスタンス。

カバーアルバムかくあるべき!名曲に新たな価値を生み出す山崎育三郎というスタンス。

カバーアルバムかくあるべき!名曲に
新たな価値を生み出す山崎育三郎とい
うスタンス。

原曲のファンにも本人にもリスペクトを持ちながら「カラオケ」にも「モノマネ」にもなってはいけない。
そんな制約の中、“自分らしい”解釈で“自分だけの”味付けで”名曲に新たな価値を生むことができるのはごく少数の歌手だけだ。
山崎育三郎「~1936~your songs II~」
第58回日本レコード大賞企画章受賞作品「1936~your songs ~」その第二弾である「~1936~your songs II~」。
山崎育三郎自身の青春時代を中心に、「your songs」の名の通り、様々な年代のリスナーの“青春を彩った”名曲をカバー。
ミュージカル歌唱を一切封印し、“会場いっぱいの観客へ”ではなく“たったひとりのリスナーへ”と歌われたこのカバーアルバムの魅力をお伝えしたい。
「ずっと好きだった」
斉藤和義の名曲である。原曲が男臭さく不器用ながらもふいに本音がこぼれ出たような哀愁漂う男性像であるのに対して、ガラッとアレンジはダンサブルにポップに。
テンポもかなり速めになり、再会したマドンナへとのめり込んでいくその高揚感にフィーチャーしている。
自身の出身校で撮影されたMVもシチュエーションは学園祭であり、山崎育三郎自身が実際に高校時代を過ごした校舎の中で、一気に青春真っ只中へと、甘酸っぱく、懐かしいようなざわめきの中へと導いてくれる。
「ホント好きだったんだぜ」という「だぜ」口調が、斉藤和義が言えば照れくささを隠しているような絶妙なふてぶてしさがあるのに対して、
山崎育三郎が言えば、普段一歩引いているような男の子が急に男らしさを見せたような確変を感じられ、その持ち前の華やかさと清涼感がますますこのラブソングを煌めかせている。
「君がいるだけで」
このアルバムのテーマである「SUMMER」に合わせて、米米CLUBの大ヒット曲を軽快なサンバ調にアレンジ。
聴きどころは何と言っても”wow wowTrue Heart “の違いである。
原曲ではかなり厚めのコーラスがかぶさり壮大にサビに向かっていくのだが、サビ前の部分、山崎育三郎はソロであくまで一対一で語りかけるように歌いきる。
そしてDメロの”True Heart “の畳み掛け後の” wow wow True Heart “ではじめてコーラス付きになるのだが、ここが前半からのフリが効いている。
後半までコーラスをいい意味でもったいぶって取っておいた分、このDメロが最大のカタルシスになった。
この部分、発音も、声色も美しさにかなりこだわってレコーディングされたことが伺える。
そして最後の「ラララ」が「君がいる」という喜びをかみしめ抱きしめながら味わっているような幸福感に満ちている。
この恋で、人生に新しい扉が開いたような開放感に包み込まれる。それが山崎育三郎の「君がいるだけで」だ。
「生きてく強さ」
自身が中学時代バンドでコピーした経験があるというGLAYのこの曲を、TERUへのリスペクトをこめつつ、ロックからゴージャスな弦楽器アレンジへ。
同級生の中で、山崎育三郎といえばこの歌というほど浸透していたというだけあって、このカバーアルバムの中でも一番ノリに乗っているし、込められた熱量にも圧倒される。
しかし、もちろん彼が青春時代に歌いこんだ歌だというだけで終始するわけがない。
その青春時代から現在に至るまで自分がその目で見てきたもの。人生の中で積み重ねてきた自分だけの経験。
そういったものをしかと抱きながら「生きてく強さ」それを実感たっぷりに歌うから説得力がある。
特に「努力が実れば そうたやすく もう迷わない」という歌詞は、ミュージカル俳優として、長年自身とそしてステージと、観客と、真摯に向き合い続け己を磨いてきた彼が言うからこそ響くフレーズとなった。
エレガントを地で行く彼がこういった、そのひとの人間味で歌うしかないような魂ありきの楽曲をやりきったのが見事だ。
まとめ
カバーアルバムは数あれど、“原曲へのリスペクト”と“自分流の味付け”の両方が成立しているものは多くない。
原曲が偉大なほど攻めの姿勢で取り組むのは勇気がいる。
“自分らしさ”を1曲なら出せるかもしれないが、その一本調子では「どの曲も同じ歌い方ではないか」とリスナーを飽きさせてしまう。
しかし、歌唱法こそミュージカル的な要素を排しているものの、その歌のストーリーへの入り込み、歌詞の中の主人公の心情や背景の咀嚼、そういったミュージカルで培ってきたであろうスキルが存分にこのアルバムで発揮されている。
一曲一曲への解釈の豊かさが山崎育三郎の強みだ。
今、その歌手がその曲を“カバーをする意味”があるのかどうか。
そこで納得させる事ができる山崎育三郎の自信と表現力のたくましさは、カバーアルバムかくあるべきという見本になるともに、当然このくらいの熱量を持って作らねばならないのだよ、という、カバーアルバムブームへの挑戦状だ。
TEXT:阿璃守

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