climbgrow、Hump Backを迎えた自主企
画『No Guard』で見せたさらなる変化
と頑ななバンドの芯

climbgrow主催『No Guard』

2019.6.11 TSUTAYA O-WEST
4月10日に渋谷WWWでライブを観たとき、バンドが変わり始めたように感じたが、この日、観たclimbgrowはそこからさらに変わっていた。
もっともメンバー全員が22歳の若いバンドだ。順調にリリースを重ねてきた作品からも窺えるとおり、彼らが伸び盛りであることを考えれば、ライブを観るたび、成長も含めた変化が感じられるのは当たり前。他の、どのバンドにも負けないくらい精力的にライブを行いながら、意識的に、いろいろ試してもいるようだ。​
だからって、その若さとはちょっと不釣合いなブルース感覚も感じられる硬派なガレージロック(でも、ギターは意外に技巧派)や、誰にも媚びないアティテュード、そしてエネルギッシュなライブというバンドの芯まで変わってしまったわけではない。その意味では、climbgrowは不変。むしろ頑なと言ってもいいかもしれない。
じゃあ、何が変わったように感じられたのか。それは音楽や、その音楽に込めた思いを伝えるやり方だ。以前は、それこそ観客に向けて、全力で投げつけるように演奏していた彼らはいつしか、しっかりと届けようという気持ちを、曲によっては持つようになったんじゃないか――。
相手を自分の懐に誘いこみ、肉を斬らせて骨を断つ、という意味を込めたイベントのタイトル通り、対バンと本気の勝負を繰り広げるclimbgrowの自主企画イベント『No Guard』。
Hump Back 撮影=知衿
その第4弾となるこの日、climbgrowが勝負の相手に選んだのは、大阪の3ピースガールズバンド、Hump Backだ。“最初から全力です!”と林萌々子(Vo, Gt)が言いながら、直球のロックナンバー「拝啓、少年よ」でライブはスタート。早速、手拍子で応える観客に“手拍子よりもかっこいい拳を見せてくれ!”と林が言い放つ。そこからたっぷり60分、“見た目の治安が悪いんですよ(笑)。でも、めっちゃええ奴ら。音楽もかっこいい。そんなclimbgrowが好きだから、ここに立ってます”(林)とclimbgrowにエールを送りながら、Hum Backは新旧の代表曲の数々を、観客の気持ちを掻き立てるようにぶつけていった。
Hump Back 撮影=知衿
Hump Back 撮影=知衿
Hump Back 撮影=知衿
対バンに60分という、対バンイベントにしては長めの持ち時間を用意したところに“全力でかかってこい!”というclimbgrowの思いが窺えたが、この日、Hump Backが披露したリリース前の新曲3曲は、彼女たちの本気の表れだったんじゃないか。
Hump Back 撮影=知衿
そんな彼女たちに発破をかけられたのか、自分たちと同じ匂いのする彼女たちに負けてたまるかと闘志を燃やしたのか。“かかってこい、東京!”と1曲目の「RAIN」から杉野泰誠(Vo,Gt)がいきなり客席にダイブして、やる気を見せたclimbgrowは、そこからアップテンポの曲を矢継ぎ早につなげ、それに対して、ステージにぐわーっと押し寄せ、ダイブ、突き上げた拳、モッシュで応える血気盛んな観客たちと序盤から大きな盛り上がりを作っていった。
気がつけば、2階席の観客も拳を突き上げている。この日、600人キャパの渋谷TSUTAYA O-WESTは、バンドの注目度アップを物語るように見事ソールドアウトとなった。
climbgrow 撮影=浜野カズシ
“どんな最低の奴でも感謝の気持ちは表さないと。ありがとうございました”と人一倍照れ屋の杉野は、“まさかソールドアウトすると思ってなかった”と若干、驚きながら感謝の気持ちを言葉にしたが、もちろん、ここがゴールじゃない。むしろ、“自分たちのイベントで渋谷TSUTAYA O-WESTをソールドアウトにできたなら……”という気持ちが芽生えたに違いない。
“まだまだ負けてられねえ!”と杉野は宣言。愛犬のレクイエムとして作った「POODLE」の歌詞を一部、即興で変え、“生きようぜ!”と観客に訴えかけるメッセージソングとして生まれ変わらせると、“ずっとライブでやりたかった。俺たちのバラードを聴いてくれ!”と、今や入手が難しい14年リリースの『EL-CAMINO』から「街へ」を披露。
climbgrow 撮影=浜野カズシ
そして、彼らが持つキャッチーな魅力が凝縮された「BABY BABY BABY」では、“歌えますか!?”と杉野がシンガロングを求めたからちょっとびっくり。
「ラスガノ」や前述の「POODLE」、スローブルースの「ROCK’ N’ ROLL IS NOT DEAD」では声を上げる観客もさすがにそれには面食らったようで、“あんまりやな(笑)”と杉野も思わず苦笑い。いや、次回は大丈夫。きっとみんな歌えるようになっているはずだ。
climbgrow 撮影=浜野カズシ
ともあれ、そんなところからもバンドの変化が窺えたが、この日、筆者が一番、それを感じたのはライブのクライマックスで演奏することが多いアンセム「極彩色の夜へ」だった。前回、渋谷WWWでこの曲が生まれた背景を杉野が語った時もびっくりさせられたが、この日、彼は“誰にもわかってもらえないなら、俺がわかってやる。死にそうな奴がいるなら、困っている奴がいるなら、目の前に行って、汚い声で、俺と一緒にロックンロールしようぜと言ってやる”と、爆音の演奏や迸る激情にかき消されてしまうかもしれない曲に込めた思いを語って、再び筆者を驚かせたのだった。「極彩色の夜へ」に込めた思いを、わざわざ語るようになったのは、曲を作った時と現在では、その思いが持つ意味の大きさが変わってきたことを意識しているからだろう。
climbgrow 撮影=浜野カズシ
“どこからでもかかって来い!”“ロックンロールは好きですか? 俺のほうが好きだからナメんじゃねえぞ!”“そっちのロックンロールは、もう終わったんですか!?”と、まるでケンカを売るように終始、客席を煽りながら、彼らは自分たちのロックンロールがもっともっと多くの人たちに届き、突き刺さる可能性を持っていることに気づき始めている。
近藤和嗣(Gt)、田中仁太(Ba)、谷口宗夢(Dr)と渾身の演奏を繰り広げながら 観客がシンガロングの声を上げる中、杉野が叫ぶ<俺はこんな所で終わらせるつもりは無い>という決意とも覚悟とも取れる言葉も、それを思った時よりも何倍も強いものに、そして現実味あるものなっているに違いない。
climbgrow 撮影=浜野カズシ
5月22日にリリースした最新シングルの表題曲「ハローグッバイ」で仲間たちにエールを送って、爽やかに本編を締めくくった彼らが全19曲90分の熱演の最後に選んだのは、「風夜更け」。自分たちを、まだまだ認めない周囲に対する改めての宣戦布告。“わらかねえなら、わからせてやる! 俺たちが日本のロックンロールバンドだ。またやろうぜ、東京!”
バンド自身も、バンドを取り囲む状況も劇的に変わり始めている。climbgrowがこれからどうやって自分たちの存在を周囲にわからせていくのか楽しみだ。“ライブが良いんだってね(だから、観にきた)”なんて高みの見物を決め込んでいたら、間違いなく置いていかれるぜ。
取材・文=山口智男
climbgrow 撮影=浜野カズシ

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