溝端淳平「もっと早く30歳になりたか
った」 宮崎駿オリジナル作品を舞台
化した『最貧前線』に出演

2019年夏、宮崎駿によるオリジナル作品が国内で初めて舞台化されることになった。宮崎の雑誌連載「宮崎駿の雑想ノート」の中で描かれた『最貧前線』という物語だ。この舞台に出演する溝端淳平に、原作への思いのほか、30歳を迎える心境などを聞いた。 
【舞台版『最貧前線』のストーリーとは...?】
太平洋戦争末期、小さな漁船・吉祥丸に徴用の知らせが届く。ほとんどの軍艦が沈められた日本海軍は、来襲するアメリカ軍の動静をなんとか探ろうと漁船を駆り出して、海上で見張りをさせようとしたのだ。
特別監視艇となった吉祥丸に乗り込んだのは、元々の漁船の船長と漁師たち、そして艇長とその副官などの将兵たち。航海経験に乏しい軍人たちは、鯨を敵潜水艦と間違えたり、嵐の予兆を察知できなかったり、海の職人である漁師たちと事あるごとに対立してしまう。やがて軍人たちは、漁師たちの知識や行動力に一目置くようになり、徐々にお互いに信頼感を芽生えさせていく。しかし戦況は厳しく吉祥丸は最前線ともいうべき南方の海域に、わずかな武器を携えて急きょ派遣されることになってしまう。果たして、吉祥丸は帰って来られるのだろうか...。

原作はわずか5ページだけれど
−−原作『最貧前線』は、宮崎さんが1980~90年代に模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」で不定期連載していた「宮崎駿の雑想ノート」の中の一つの物語です。わずか5ページの小品ながら、宮崎さんらしいユーモアとスペクタクルを併せ持った作品ですが、溝端さんが原作をお読みになった時の感想を教えてください。
 
宮崎さんの漫画原作があるということを知らなかったのですが、宮崎さんの絵は本当に飽きないし、どこか惹かれる不思議な魅力があります。すごく短い作品ではあるのだと思いますが、その分1コマ1コマにこだわりや思いが詰まっているからこそ、“膨らましがい”がある。原作はわずか5ページですが、そこからインスピレーションを受けて、脚本の井上さん(※井上桂)が「これでもか!」というぐらいたくさん膨らませて、台本を作ってくださいました。
溝端淳平
ーー宮崎駿さんの作品やジブリ作品について、何か思い出などはございますか?

僕の家族は『となりのトトロ』が大好きです。小さい頃に、トトロのぬいぐるみやネコバスのマットと一緒に撮った写真があります。姉が2人いて、僕は3番目の子どもなのですが、もし女の子に生まれていたらメイちゃんと名付けられていたそうです(笑)
 
誰もが一度はジブリ作品を見たことがあると思うんです。テレビでも何十回と放送されていて、長く愛されている作品ばかりだと思いますし、結末が分かっていてもついつい見てしまいます。どの作品にも人を魅了する力があると思います。 
ーースタジオジブリ作品は過去に『おもひでぽろぽろ』(高畑勲監督作品)が2011年にわらび座(栗山民也演出)で、『もののけ姫』が2013年英国ホール・ホグ・シアターで舞台化されていますが、宮崎駿さんのオリジナル作品の国内カンパニーでの舞台化ということでは、今回が初めてだそうです。宮崎さんのオリジナル作品の舞台に出るということについて、どのようなお気持ちですか?
いわゆる“戦争もの”なので、殺伐としてシリアスなイメージがあったのですが、宮崎さんの世界観を脚本の井上さんが引き継いでくださいました。表現が難しいですが、ただ殺伐としたものではなく、登場人物たちそれぞれの思いや温もりを描いてくださっているので、戦争ものを見るのがあまり得意ではない方も観やすい作品なのではないかなと思います。
 
映像ではなく舞台化されるというのも面白いですよね。船の上の話ですから、舞台セットもすごいことになるのでしょうか。まだ想像つかないですが。
全国8箇所公演「旨いものと本番前に入る銭湯が楽しみ」
ーー溝端さんは吉祥丸に乗り込んだ副官を演じられます。役作りはどの辺りから入ろうと?
戦争ものに以前出演させていただいた事があるので、戦争ものの映画をたくさん見た時期がありましたし、別のお仕事で沖縄の地上戦を経験した方に話を聞く機会もありました。今回の僕の役は漁師と軍人たちとの潤滑油の役割を担うと、脚本の井上さんが仰っていました。共演者の方々がどういう切り口のお芝居をするかによって、臨機応変に対応していければと思います。
ーー元々の漁船の船長を演じられる、内野聖陽さんとの共演はいかがでしょう?
役に関しても作品に関しても、とても真摯に向き合っていらっしゃる大先輩の役者さんだと思っています。以前、舞台上で袖から出てくるときに、どちらの足から出ればいいかということを演出家に尋ねると聞いたことがあります。役に対してのアプローチや役作りも内野さんならではの独特な感性でされると思うので、それを間近で見られるのでは、と今からとても楽しみです。
ーーそして、艇長を演じられるのは、風間俊介さんです。風間さんについてはいかがですか? 風間さんの印象などを教えてください。
風間さんとの共演は初めてです。ちょっと廊下ですれ違ったり、何かの番組でお会いしたりしたぐらいで、まだちゃんとお会いしてお話ししたことがないんです。
 
風間さんはたくさん素晴らしい作品に出演されていて、僕の中では「3年B組金八先生の第5シリーズ」での衝撃が強いです。僕はまだ小学生でしたが、いつの間にか風間さんの演技に引き込まれていたのを覚えています。とにかくお芝居が素晴らしい方だなという印象があるので、共演できるのがすごく楽しみです。
舞台で共演すると、映像以上にお互いのことがよく分かるんです。長い稽古期間や本番もあって、芝居のキャッチボールをする回数が映像よりも圧倒的に多いですから。その辺りも舞台ならではの楽しみだと思うので、内野さんや風間さんと共演できるのはなおさらうれしいです。
溝端淳平
ーー本公演は東京公演を含め8箇所で上演されます。地方公演などで楽しみされていることはございますか?
劇場によってお客さんの反応も全然違いますし、いろいろな劇場でやらせて頂けるのは嬉しいですね。ウェルカムな雰囲気で迎えていただけると、本当にそれだけで嬉しいです。普段あまり演劇に触れていない方々にも、「こういうものがあるんですよ〜」とお見せしたいですし、この公演をきっかけに芝居や演劇を好きになってほしいなと思う気持ちもあります。
 
あとは食事ですかね(笑)。地方の旨いもの​を食べることが好きです。あと僕、銭湯も好きなので、地方に行く時にはご飯よりも先に銭湯を探しますし、本番前に風呂に入ったりします。サウナと水風呂が好きで、温冷浴をして、自分を整えます。目覚めもいいし、体もほぐされる。みんなは疲れるからやめた方がいいと言うのですが、僕は逆に風呂に入った方が調子が良いんです。
ーー行動的ですね。  
そうですね。地方に行っても、結構行動的かもしれない。共演者の方と飲みにも行きますが、一人で銭湯に行ったり、行きつけのお店があったらそこに行ったり、ニンニク注射を打ちに行ったりもします(笑)。万全の状態で舞台に立ちたいので、何となく僕なりのルーティーンがあるのかもしれないです。
溝端淳平
達者な役者と芝居合戦できるような俳優になりたい
ーー6月14日に30歳になられます。おめでとうございます! 30歳ということで、何か心境変化ありますか?(※取材は誕生日前)
ありがとうございます。30歳になったから急に何かが変わったということはないと思いますけど……どうだろうなぁ、何か変わったのかなぁ。ここ4、5年は舞台に立たせてもらうことが多くて、年々お芝居への欲や熱量、そういうものは深まっていっているとは思います。
蜷川さん(※蜷川幸雄)はもちろんですし、濃く、熱く、演劇と日々向き合っている方々とお芝居ができたこと。それが30歳になる自分の今を一番形成しているなと思います。
僕は17歳まで地元・和歌山にいました。悪ガキで育ってきて、上京して、背伸びして、周りにチヤホヤされて、勘違いをしていたところもあったと思うんですが、24,25歳の時に蜷川さんに叩きのめされ、そこからいろいろなものが、違う見え方をしてきて……。正直でいること、背伸びしないこと。遠回りのように見えて、最近はこれが一番成長するための近道なのかなと思うんです。
 
何かフィルターをつくると、根っこでは何も吸収しない。でも、むき出しでいると、毒も吸収するかもしれないし、枯れるかもしれないけれど、吸収するスピードは早いですよね。何かにぶち当たって、怒られて、失敗して、恥をかいて、人に迷惑をかけて、ときには人に助けられて。平面的ではなくて、立体的にいろいろな物事を考えられるようになった気がします。
ーーなるほど。逆にあまり年齢は意識していなかったわけですか。
そうですね。40歳になったらこういう役、45歳になったらこういう役をやりたいというのはありましたけど。25歳ぐらいの時に高校生のような若い役ができなくなり、かといって大人のドラマに出るには若すぎるということで、正直とても中途半端な気持ちはありました。
 
だから、今やっと30歳になれて。もっと早く30歳になりたかったと思うぐらいです(笑)
ーーちなみにその40歳の時にはどういう役者になりたいというヴィジョンを教えてください。
そうですね。堪能な役者さんたちが芝居合戦をするようなところに入っていける人。50〜60代で名優の方々がたくさんいらっしゃいますけど、その中に30代代表、40代代表として呼ばれるような俳優になりたいです。
 
ーー最後に、この『最貧前線』をどんな方に観てほしいか、メッセージをお願いします!
もともと“戦争もの”の作品が好きという人はもちろんですが、人間ドラマが描かれていますので、あまりそういうものに触れてこなかった人にもぜひ見て頂きたいです。
 
宮崎駿さんの作品を舞台化するというのは、とてもハードルが高いと思うのですが、ぜひ肌で感じに来てほしい。特にこの舞台は、セットもすごいことになると思います。内野さんや風間さんをはじめとする素晴らしい役者さんたちのお芝居を生で見られる良い機会でもありますし、この舞台が演劇を好きになるきっかけになったら嬉しいです。
溝端淳平
■スタイリスト
黑田領(ViVid)
■ヘアメイク
菅野綾香(ENISHI)
取材・文=五月女菜穂 撮影=敷地沙織

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