Sadsの2ndアルバム
『BABYLON』から考える
アーティスト・清春の
指向性とバンドとの相性
SEに挟まれた独自の世界観
オリエンタルというか、エキゾチックというか、独特の浮遊感を持ったM1「Welcome to my BABYLON(SE)」もそうだが、気怠い雰囲気のミディアムナンバー、M2「PRAYER」がそれに続くことで、このアルバム『BABYLON』が前作とは明らかに異なるベクトルを持った作品であることを明白に示している。ディストーションが効いたルーズなギターから入るのでR&Rベースのバンドサウンドであることは分かるのだが、全体にはどこか初期黒夢のような、おどろおどろしさを内包。サビは辛うじてキャッチーではあるのだが、ポピュラリティという意味でのポップさは皆無と言っていい。
軽快なギターリフとビートが引っ張るM3「アジト」と、シャッフルのリズムがスリリングなM4「Feeling High & Satisfied」とは、いかにもR&Rバンドといった感じなので、本作が『SAD BLOOD ROCK'N'ROLL』の延長線上にあるアルバムであることに気付くのだが、そのあとのM5「ストロベリー」がこれまたポップさが薄い。清春のヴォーカルパフォーマンスと、妖艶なサウンドが全体を支配している。「ストロベリー」は「忘却の空」と同時発売されたシングル曲なのだが、間奏やアウトロのギターにはオールドスクールなロックの匂いがするのでバンドらしさは残しているものの、今でもよくこれをシングルにしたなと思うほどである(もしかすると、この辺にはタイアップだけに頼りたくないといった、清春の意地みたいなものがあったのかもしれないが…)。
どこぞの民族音楽っぽいパーカッションも印象的なM6「What Can I Do」も同様だ。M5よりもアップテンポであるのでまったく大衆性がないとは言わないが、ビジュアル系時代の黒夢の未発表曲を当時のメンバーで形にしたような感じだ。演奏のダイナミズムがある一方で、これもまた、ある方向の清春らしさが発揮されていると言える。M7「Liberation」はイントロのギターのかき鳴らしからも激しいナンバーであることが分かる楽曲ではあるが、M5「ストロベリー」からM7でなく、M6「What Can I Do」を挟んでM7というところで、それほど違和感なくアルバムに収められているとは思う。
続く、M8「忘却の空」はアコギ+歌から入ってバンドサウンドに移行していく、ファンならば黒夢時代の「少年」を思い出すこと請け合いのナンバーで、清春がここぞというところで出す必殺技といったイメージは強い。しかしながら、「少年」から2年以上が経っている上、もちろんバンド自体も変わっているので、サウンドの成り立ちが異なっているところにも注目したい。そのイントロのアコギのストロークもそうだし、どことなくThe Clashを彷彿させるエレキのカッティングも、黒夢より洗練されている印象だ(個人の感想です)。この辺はアレンジャーである土方隆行氏のセンスもあったのだろうか。
ベースリフから入って、後半にはヴォボーカルとギターの掛け合い的なパートもあるR&R、M9「LATE SHOW」。のちに清春のソロアルバム『エレジー』(2017年)でもセルフカバーされたミディアムナンバー、M10「GENTLE DARKNESS」。いずれもざらついた音がカッコ良いロックチューンから、M11「DARLIN'」とM12「STUCK LIFE」というライヴで盛り上がること必至のナンバーを挟んで(「STUCK LIFE」は復活後のSadsのアルバム『erosion』(2014年)でセルフカバーしているほど)、アルバムは再びミディアムのM13「SAD PAIN」へ。そして、M14「Conclusion of my BABYLON(SE)」で、アルバム『BABYLON』は実質的にフィナーレを迎える。
SEからのM2「PRAYER」で幕を開けて、M5「ストロベリー」やM6「What Can I Do」、M9「LATE SHOW」やM10「GENTLE DARKNESS」を経て、M13「SAD PAIN」からSEに戻るという構造だけ見ても、『BABYLON』がライヴハウスで発散するような縦乗り(死語)のカタルシスだけでない、どちらかと言えばそれらとは真逆の方向性を求めていたことが分かる。いや、アップチューンもしっかり入れ込んでいたのだから、真逆の方向性“も”求めていたと言った方がいいだろう。
少なくとも黒夢からSadsへとつながっていく時期に、清春にバンドへの憧憬があったことはおそらく間違いないだろう。が、かと言って、自身が好む音楽性は所謂バンドサウンドに支えられるかたちでのロックナンバーだけではなかったことも、これまた間違いない。それは前述の通り、「STUCK LIFE」を復活後のSadsがカバーする一方で、「GENTLE DARKNESS」をソロでカバーと、スタイルに応じて棲み分けしていることからもよく分かる。彼の中には黒夢後期でのパンキッシュな方向性、Sadsの次作3rdアルバム『The Rose God Gave Me』(2001年)で見せたようなヘヴィかつラウドなサウンドを好む面がある一方で、「PRAYER」や「ストロベリー」、「SAD PAIN」のような、ミディアム~スローへの指向が確実にある。それは、決してポピュラリティーがあるとは言い難いものだが、少なくともメジャーシーンにおいて当時から清春以外のアーティストがなかなか表現してこなかった独自のものだ。『BABYLON』において、清春はそれを取り入れた。その時点で彼はSads自体に虚無感を抱いていたというから、余計にそちらへ傾倒していったのだろう。