U2来日記念スペシャルコラム連載vol
.2 - 【ロックバンド史上初!記録か
ら見るU2のキャリア】

U2は2017年に発表した14枚目となるアルバム『Songs Of Experience』でアメリカのビルボードチャート「ビルボード200」で1位を獲得した。
このアルバムが1位を獲得したことにより、U2は1980年代、1990年代、2000年代、2010年代の全てにおいてチャートの1位を獲得したアルバムを生んだ、初のロックバンドになったと大きく報じられた。ソロ・アーティストとしては、バーブラ・ストライサンド、ブルース・スプリングスティーン、ジャネット・ジャクソンの3人が同じ内容の記録を持つとのことだが、バンドとしては史上初の快挙とのこと。
この記録は、とても大きな意味を持つものとして報道された当初からずっと記憶に残っており、U2というバンドを語る上でとても重要な意味を持つエピソードでもあり、また、彼らを象徴するようなストーリーに思えるのだ。
バンドというものには解散や脱退というものがつきものだが、U2は一度のメンバーチェンジをすることも、活動休止をすることもなく、ずっと同じ4人で、常に第一線で音楽を作り続けてきた稀有なバンドだ。そして、”このずっと音楽を作り続けている”という点は、とても重要な事実だと思う。
ベテランのバンドやアーティストは、ヒットを重ねると、その後、創作のペースが落ちて行き、新譜を作ってリリースすることをしなくなってしまうケースが多い。特に超のつく大物にその傾向は顕著だ。ローリング・ストーンズだってそうだし、先日来日公演が発表されたKISSだってそうだ。ライブは行えどもそこで演奏するための楽曲には事欠かないベテラン勢は、過去のヒット曲をベスト・ヒット・ライブと称して演奏していさえすればオーディエンスは大満足するはずだし、ややもすると新曲なんて望んでいないオーディエンスの方が多いかもしれない。
だが、U2は、違う。一度も歩みを止めることなく、アルバムを作り、新譜として発表し、そのアルバムを引っ提げてのワールドツアーを敢行するという、ロックバンドのルーティンをキッチリとこなし続けている。常に新たなフィールドに挑み続けていると言っていいだろう。
U2のアルバムで全米1位を記録したのは順に『The Joshua Tree / ヨシュア・トゥリー』(1987年)、『Rattle and Hum(邦題:魂の叫び)』(1988年)、『Achtung Baby / アクトン・ベイビー』(1991年)、『Zooropa / ズーロッパ』(1993年)、『Pop / ポップ』(1997年)、『How To Dismantle An Atomic Bomb / ハウ・トゥ・ディスマントル・アン・アトミック・ボム』(2004年)、『No Line On The Horizon / ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン 』(2009年)、『Songs Of Experience / ソングス・オブ・エクスペリエンス 』(2017年)の8枚。U2のアルバムは全部で14枚だから、そのうちの8枚が1位というだけで、これはとんでもない記録だし、やはりとんでもなく優れたバンドと言えるのだが、90年代には世に放ったアルバムのすべてを1位に送り込むという偉業を達成していたりもする。
U2が初めてビルボードチャートの1位になったのは、もちろん1987年に発表された『ヨシュア・トゥリー』だ。今回の来日公演で完全再現がなされるこの歴史的名盤以降、U2は10枚のアルバムを発表し、全米トップの座に8枚も送り込んでいる。
1位にならなかったアルバムはたったの2枚で、その1つである『Songs of Innocence』(2014年)はアップルがiTunesユーザー全員にサプライズで無償配布したものの、突然このアルバムがライブラリに追加されるという手法であったため、大きな話題となったがユーザーの強い反発も買うことにもなった。もちろん何億というユーザーに配布されたのだから、この『Songs of Innocence』はCDとして発売されてもさほどの売上は記録することはなく、ビルボードチャートも9位に終わった(でも、9位まで上がったともいえるが)。
もう一つの1位にならなかったアルバムは2000年に発表された『All That You Can’ t Leave Behind』だが、このアルバムは90年代にエレクトロニクス要素を大幅に取り入れ、音楽性を大きく変化させた時期を経て、再びU2がシンプルなバンドサウンドに戻ってきたといわれるアルバムだ。このアルバムからは、「Beautiful Day」をはじめとした多くのシングルが切られ、結果的には全米で400万枚を売る大ヒットとなっている。ただ、アルバムチャートでは3位止まりとなった。3位という結果に甘んじることとなりはしたが、このアルバムはその完成度や、シングルヒット曲の多さ、前述のバンドサウンドへの回帰という点からもU2のキャリアからするととても重要なアルバムとして位置づけられている。
そう考えてみると、初めて1位となった87年の『ヨシュア・トゥリー』以降、ほぼすべてが1位になったと考えていいだろう。何と言っても、ベテランアーティストによくある、いわゆる失敗作というものが1枚もないのだから。もちろん、低迷期と言われる時期もない。初めて1位となった87年の『ヨシュア・トゥリー』以降がすべてずっと全盛期と言ってもいいだろう。これは、驚愕すべき事実だ。
今回決定した来日公演は「ヨシュア・トゥリー・ツアー2019」と題されたもので、タイトル通り、前述の87年に発表されバンドが初めて全米1位を獲得したアルバム『ヨシュア・トゥリー』を1曲目から曲順通りに再現するものだ。2017年にワールドツアーとして行われた「ヨシュア・トゥリー・ツアー2017」の構成では、まず最初に『ヨシュア・トゥリー』より前の楽曲を何曲か演奏し、その後でアルバム『ヨシュア・トゥリー』を丸ごと演奏して、一旦終了。その後にアンコールとしてアルバム『ヨシュア・トゥリー』以降の彼らの代表曲を何曲も演奏するという、まるでU2というバンドの歴史を順を追って見つめ直すような構成になっていた。
2017年のツアー当時は最新のシングルとしてまさにヒット中だった(もしくはヒット前だった)「You Are The Best Thing About Me」も演奏されており、まさに、バンドの初期から、バンドのブレイクスルーとなったアルバムの再現、そしてそれ以降の代表曲とバンドの今のモードがわかる最新曲までが演奏されるという、バンドのすべてを網羅した内容だった。
今回の「ヨシュア・トゥリー・ツアー2019」は、このコラムで取り上げた記録のように、80年代から、90年代、2000年代、2010年代の彼らの代表曲が演奏されることになるだろう。各時代を彩った代表曲は沢山あるので、実際どの曲がライブで聴けるかは分からない(2017年のツアーと同じセットリストであれば、想像はつくが)。
各時代には、多くの代表曲があるが、それらを総じて振り返るような大予習大会は次回のコラムに譲るとして、今回は、彼らの最新のモードの楽曲「You Are The Best Thing About Me」をチェックして終わりにしたい。この最新シングルを聴いて、いまだにみずみずしさを失わない彼らに、驚きすら感じることができるだろう。そして、U2は『ヨシュア・トゥリー』を振り返るツアーで来日をするが、バンドは過去を振り返るどころか、いまだに先を見据え続けていることがわかるだろう。
12月の来日公演で、バンドの今を目撃したい。
You are the best thing about me

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