フラメンコの快男児SIROCOに聞く~ス
ペインの貴公子JUAN DE JUANと『舞台
フラメンコ~私の地 アンダルシア』
で夢の共演!

2017年にスペインで行われた国際コンクールにて日本人男性として初優勝し、2018年7月にドキュメンタリー番組「情熱大陸」(MBS製作著作/TBS系全国ネット)にも登場したフラメンコダンサーのSIROCO(シロコ)。注目の名手がフラメンコの貴公子と呼ばれるJUAN DE JUAN(ファン・デ・ファン)と共に創り上げる『舞台フラメンコ~私の地アンダルシア』が、2019年11月9日(土)、10日(日)東京国際フォーラム・ホールC、11月11日(月) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される。SIROCOにフラメンコへの思いや公演への抱負を聞いた。

SIROCO(シロコ)

フラメンコとの運命の出会い
――中学生の頃ダンスに出会ってストリートダンスに夢中になり、高校卒業後モダンダンスやコンテンポラリーダンスに挑まれたとか。そんな中、カルロス・サウラ監督の映画「フラメンコ」(1995年)で踊るホアキン・コルテスを見てフラメンコを志されたそうですね?
ホアキンはあの映画の中で北スペイン ガリシアの男を描く、ファルーカという曲を踊りました。美しくもあり力強くもある大人の男の色気みたいなものを振りまいている彼を見て衝撃を受けました。それまでやっていたダンスは、教科書がないというかステップやリズムが合っている、間違っているという規則性があるような世界ではなかったんですね。そうではないものを探していた時にフラメンコに出会いました。それにフラメンコだったら40歳になり家族を持っていても踊っている姿が想像できたんです。「これだ!」と思ってスペイン留学を決意しました。
――日本で学んでからスペインで学ぶ場合が多いと思いますが、いきなり留学されたのですね。
向こうで始めたんです。「2年くらいでプロになって踊る」という根拠のない自信がありました。でも最初は何もできませんでした。2年くらいして帰国しましたが、勉強はしてきたものの自分が今何をやっているのかをあまり分かっていなかったです。日本人にも教わってみればという勧めもあったので、広島の先生の所に通って一から勉強し直したりもしました。その後、日本とスペインを行き来するうちに、初めに住んだグラナダからセビリアに移りました。日本で夏に行われるコンクールで入賞し、日本で一応プロとしてやっていけるようになったのは28歳の頃でした。

SIROCO(シロコ)

本場で学んだフラメンコの精神
――アンダルシア州のセビリアで“皇帝”と称されるファルキート、そして親交を深めていくJUAN DE JUANというバイラオール(男性の踊り手)に出会います。彼らからどのような刺激を受けましたか?
フラメンコの精神を勉強しました。僕が今やっている表現は彼らの流派というか、男らしさ・力強い男の魅力が入っています。スペインでトップに君臨する人たちの精神論はものすごくタフで紳士的です。そういった彼らの美学を経験したことによって今の僕が作られています。
――本場スペインの舞台に立って踊り、感じるのはどんなことですか?
タブラオ(食事をしながらフラメンコの舞台を楽しめる場所)で踊るのと、ペーニャ(愛好家たちの集会所)で踊るのは違います。でも向こうで踊ることは日本で踊るのとは180度違う。ペーニャなどで踊る際は、見に来る人がフラメンコをよく知っています。掛け声がどんどん掛かるので、こちらも追い込まれたり、テンションが上がってきたりしますね。日本で踊ることはそれとはまた違った価値と緊張感があって、日本で成功することも難しいハードルです。
面白いのは、向こうでは自分が日本に比べてあまり知られていないことです。以前、布袋寅泰さんがテレビ番組に出ておられ、「イギリスに住んで、ライブハウスで100人の観客を相手にしていると、そこでしか感じられないものがある」というようなことをおっしゃられていて、生き方がカッコいいと思いました。布袋さんは日本ではドーム球場を一杯にするような大スターですが、ハングリー精神やミュージシャンとしての魂がある。僕がスペインで踊るのも、それに通じます。挑戦、ずっと挑戦です。

SIROCO(シロコ)

――現在日本に拠点を置いて活動されています。舞台出演・プロデュースをされたり、スタジオを開設して後進を育てたりしてフラメンコに身を捧げられていますが、あらためてフラメンコの魅力はどこにあると考えていますか?
フラメンコというものは、日々自分に何かを思わせてくれます。たくさんの人たちが多くの時間を費やして継承しているので奥深い魅力があります。それは生きるヒントであったり、目標であったり、社会性であったりしますが、人を育ててくれる。だから単なる踊りや音楽ではなく、やっぱり芸術だと思うんですね。もし僕があの時ホアキンを見ていなかったら、フラメンコをやっていなかったはずです。あの瞬間はホアキンじゃなければ駄目だったし、その瞬間はファルキートじゃなければ駄目だった。全ては出会いです。
――芸名のSIROCOとはスペイン語で「熱風」という意味です。命名の理由は?
グラナダで初めて習った先生が付けてくれたあだ名です。スペイン語を話せなかったので、紙に自分の名前をアルファベットで「HIROTO」と書くと、彼は「IROTO」と言うんです。向こうではHを発音しませんから。それで「違う!」と言うと、パコ・デ・ルシア(スペインの伝説的な名ギタリスト)のCDアルバムを出してきて、「お前の名前をSIROCOにしよう。似ているじゃないか!」となりました。「パコ・デ・ルシアから!?カッコイイ!」となりました。スペインでは皆覚えてくれてSIROCOとしか呼ばれませんので、ステージネームもそれで通しています。それに本名の苗字が黒田なので、白黒はっきりしていていい(笑)。
盟友と共に育んできた夢が実現!
――『舞台フラメンコ~私の地アンダルシア』でJUAN DE JUANと共演します。
僕とJUANの夢だったので喜んでいます。彼と出会ったのが7年前くらいで、2013年に初めて日本に招聘しました。個人規模としては大きな舞台でしたが、それからなかなか日本に呼ぶことができずにいました。2017年にスペインの国際コンクール「第23回アニージャ・ラ・ヒターナ・デ・ロンダ」で優勝し、翌年「情熱大陸」に出ました。向こうで凱旋公演をやることになりJUANをゲストに招いたのですが、その番組をキョードー東京の方が見てくれていました。キョードー東京はホアキン・コルテスの次にアントニオ・カナーレスを呼んでいて、その舞踊団のエースだったのがJUANでした。山崎芳人社長がJUANのことを覚えていらっしゃって、僕とJUANで踊ってみないかとお話をいただきました。
JUANとは2013年からの6年間毎年会っていましたが、日本に招聘できず心苦しく、向こうも寂しかったと思います。やっぱりフラメンコの舞台でしか通じ合えない部分もありますから。今回の公演タイトルは、JUANが作曲した曲名です。5年前くらいに彼の家でレッスンをして、ご飯を食べて遊んでいる時にできた曲なんですよ。僕たちの歩んできた夢が今の形として描かれます。
――JUAN DE JUANの魅力はどこにありますか?
JUANは踊りが男らしい。躍動感があり、カッコよく、真摯で、大人の色気があります。即興性は奇想天外で、何をしてくるのか分からない。男性フラメンコダンサーが持っていなければいけないものを全部持っているので、だから“フラメンコ界の貴公子”なんです。そして、ダンサーとしても素晴らしいですが、ギターを弾いたり詞を書いたり、作曲能力もある芸術家です。その天才が描く芸術を受け止めて冷静に具現化させていくのが僕のやるべきことだと思います。
SIROCO(シロコ)
――お二人による即興の場面があるそうですね?
中盤に設けられています。僕はこれから約半年間、何百時間では収まらない時間を費やして、その3分、4分に悔いが残らないように賭けていく。公演は4回(東京3回、大阪1回)ありますが全て表情が違うと思います。プログラムは一緒でも感じるものが変わってくるので、同じ舞台は絶対に存在しません。
――JOSÉ VALENCIA (ホセ・バレンシア)、SIMÓN ROMÁN(シモン・ロマン)、MARA RAY(マラ・レイ)というカンテ(歌)をはじめとするミュージシャン、バイレ(群舞)も入っての舞台です。
カンテ(歌)のこの3人が集まることは向こうでもまず無いので、本物のカンテである彼らの魂の叫びを堪能していただければ。ギターも今日本で若手トップの徳永健太郎くんとEL PERLA(エル・ペルラ)がコラボレーションするという挑戦がありますし、バイレ(群舞)の5人も日本のトップの女性陣です。モダンな要素と古典の要素の両面を持った舞台なので、迫力のある14名が起こす渦と躍動に興奮していただきたいです。
――今一度公演に向けての抱負をお願いします。
キョードー東京の山崎社長に「日本人が応援したくなるようなスターになってください」と言っていただきました。今回の公演が僕にとってスタートで、ターニングポイントにもなるんじゃないかなと。僕は未開の地を掘り続けていきます。怖いけれど頑張ってやっていきたいです。11月に向けて、もう一つ大きくなって変わった自分をお見せしたいので、全力で命を賭けて情熱を燃やしたい。本場の、本物の奴らの中で踊れる喜びは大きいし、またそれを劇場という僕らにとって神聖な場所で踊るという夢が叶います。このメンバーでしかできない空気、そこに来ていただいたお客さんとしか共有できないものがあるので、ワクワクする気持ちしかありません。

SIROCO(シロコ)

取材・文=高橋森彦 撮影=安西美樹

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