『フローズン・ビーチ』公開稽古レポ
ート&囲み会見 演出家・鈴木裕美「
とにかくこの4人の女優を見て欲しい

ケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲を、さまざまな演出家が新しい息吹を吹き込み、連続上演する新シリーズ「KERA CROSS」の第一弾『フローズン・ビーチ』の公開稽古と会見が、2019年7月2日(火)東京都内で行われた。稽古場には鈴木杏、今作が舞台初挑戦のブルゾンちえみ、そして花乃まりあ、シルビア・グラブの4人の女優陣と、同作を演出する鈴木裕美らが登場。プレビュー公演を数日後に控えた面々は、「稽古するたびに、芝居が深まって充実している」と充実した表情で語った。
『フローズン・ビーチ』は1998年にKERAが主宰する劇団「ナイロン100℃」が初演。5人の女たちの間に起こる事件を、1987年から2003年まで、8年ごとに追いかけたサスペンス・コメディで、98年の「第43回岸田國士戯曲賞選評」に輝いている。
「初演のファンだった」という演出家の鈴木裕美は「この間、通し稽古を終えて、ようやく初演の呪縛から解かれて、私たちの『フローズン・ビーチ』になりつつある」と手応えをつかんでいるよう。鈴木杏も「いくら稽古しても、稽古できちゃう。いくらでも詰め込める」と変化していく2019年度版の『フローズン・ビーチ』の深化を楽しんでいる様子だった。
(上段)鈴木杏、(下段)ブルゾンちえみ
15分ほど行われた公開稽古は、太平洋とカリブ海の間に浮かぶ島に建つ別荘の一室で、島を開発している資産家の娘・愛(花乃)のところに、遊びに来た幼なじみの千津(鈴木)と友人の市子(ブルゾン)。愛の病弱な双子の姉・萌(花乃が二役)と、その別荘に旅行先から予定よりも早く戻った愛の父の後妻・咲恵(シルビア)が顔を合わせた1987年の夏の日からスタート。咲恵のせいで母が自殺したと思っている愛は、盲目の咲恵に「早く帰宅したのは、何か裏があるんじゃないか」とせまるなど、シビアなやり取りに緊張が走った。
(左から)シルビア・グラブ、花乃まりあ
体全身で笑い、絶叫し、ぶつかり合う女優陣。公開まで間もなくだが、息はぴったりだ。稽古では疑問点を互いにぶつけ合い、演出家の鈴木裕美も交えて、共に解決していくという。鈴木裕美は「お互いが尊敬し合って、役を愛している感じがいい。4人はとても頭が良くて、他人を受け入れるところが似ている。面白くするならば、何でもやりますという姿勢が、男らしい。『私、できません』と言う人がいないんです」と“男らしさ”に魅了されているよう。ブルゾンは「演出家は、同時に大音量で鳴っている楽器の、一つひとつを聴き分けているところがすごい」と圧倒されていた。
(左から)ブルゾンちえみ、シルビア・グラブ、鈴木杏
稽古後の会見では4人が自身が演じる役どころについて説明。鈴木杏は「とにかく小者。若いというのもあるけれど、もっと器が大きかったらと感じるいじらしい一面もある」。ブルゾンは「論理的ではなく、本能で動いている。私には理解できないと感じたけれど、稽古をしている中で結構かわいい性格なのかもと分かってきた。いまは市子に愛着が湧いてきている」。花乃は「萌は体が弱い設定なので、だからこそ開き直りの強さがある。愛は全ての人に対して、自分が優位に立とうとする。けれど、自分のペースで運べずに、逆に巻き込まれてしまう惜しい人」。シルビアは「楽観主義。常に笑っている。何でも明るい方向に持って行こうとする、おとぼけキャラ」とそれぞれ、自分の中でキャラクターを育てているようだった。
(左から)シルビア・グラブ、鈴木杏
中でもはっきりとした眉に、跳ね上げたアイラインのメークが印象的なブルゾンは、市子として立つために薄めのメークで臨むことを決めた。鈴木裕美も「稽古場にブルゾンで来て、(スッピンの)ちえみで帰って行くことがある」と告白。ブルゾンは「まだメークは探り中。ブルゾン感を残しつつブルゾンでもいけない」と苦笑いしていた。
初挑戦の舞台についてブルゾンは「できないことが日々できるようになる楽しさを感じています」と意気込みは十分。現状での出来栄えについて問われると、「35億と言いたいところですけれど、結果的に35億点って言ってもらえるように、頑張ります」と誓った。
(左から)ブルゾンちえみ、シルビア・グラブ
見どころについて、鈴木裕美は「(劇では)殺したり、殺されたり、殺されそうになったりする。その中で、救ったり、救われたりもする。とにかくこの4人の女優を見て欲しい」とPR。鈴木杏は「傷だらけになりながらも、離れられないでる女たちの姿をぜひ、観に来て欲しい」と呼びかけた。

(上段)鈴木裕美、(下段左から)鈴木杏、ブルゾンちえみ、花乃まりあ、シルビア・グラブ
本公演は7月12日(金)から14日(日)まで、杜のホールはしもと・ホール(神奈川県相模原市)でプレビュー公演を実施。その後、新潟、福島などをめぐり、31日(水)から8月11日(日)まで、シアタークリエ(東京都千代田区)、8月16日(金)から18日(日)までサンケイホールブリーゼ(大阪府大阪市)など各地で上演される。

取材・文・撮影=Ayano Nishimura

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