【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.11
4「子連れでゆくライブ・コンサート
にはイヤーマフの用意を」

先日某バンドの横浜アリーナ公演を観に行ったときのこと。開演前、5歳くらいの女の子がそのお母さんとおぼしき人に連れられて数列前に着席した。ライブが大音量で幕開けした途端、その女の子は顔を歪ませ、両手で耳をふさいで激しく泣き始めた。それでもその子を抱えた女性は彼女を抱えたまま、外に出ることなく座ってライブを観ていた。次第に女の子は泣き止んだけれど、それは耳が麻痺してしまったからなのではないかと気になって仕方が無かったが、その場で私に出来ることは何もなかった。

推測の域だが、そのお母さんであろう女性や、子どもの耳を守る対策をせずに大音量のコンサートへ子どもを連れて行っている大人に悪気はなく、単に知識の有無が問題なのだろうと思う。

たとえば、筆者の場合は音楽現場で仕事をしてきたので大きな音が耳に悪影響を及ぼすことについては、実際に傷めた人たちが身近にいたし、耳を防護するためのイヤーマフや耳栓の存在も子を持つ前から知っていた。だから、幼子を初めてライブへ連れて行こうと考えた時に、イヤーマフや耳栓を購入することに抵抗もなかったし当たり前だと思っていた。けれど、実際にインターネット上をくまなく探したものの、ライブやコンサート、フェスへ子連れで参加する場合の防音イヤーマフや耳栓の使用を含めた子どもの耳の防護についての日本語で記載された情報はほとんどなくて、結局はアメリカとイギリスの大手通販サイトの英語レビューを参考にして購入するに至った。今から5年前のことだ。
その翌年から、フジロックに子連れでやってくる来場者向けの情報発信プロジェクト【こどもフジロック】に関わることになったので、渡りに船とばかりに自分が子連れでフジロックやそれ以外の音楽の場に参加する上で知っておきたいことを中心に取材をして記事にしているのだが、そこでも音楽が与える子どもの耳への影響をテーマのひとつに据えて、昨年はフジロック通の耳鼻咽喉科医院の院長に、そして今年はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏にご協力いただき、実際にアジカンのライブで起きた出来事について伺うことができた。それらの記事への反響が、これまで取り上げてきたテーマの中で過去最大となったことに加えて、知り合いの音楽ギョーカイ関係者から「あの記事を受けて、うちの現場でもイヤーマフのレンタル導入について検討され始めそうだよ」といった声を聞いて書いて良かったと思えたし、やはり皆が“気にしていたこと” なのだと実感した。

後藤さんのような問題解決への気概や多様な客層に対して心を配るアーティストの言葉と、西嶋医師のようなその道の専門家の言葉などを多角的に紹介できたことで、「子どもを守るためには道具を使おうよ」ということと、「その行為が巡り巡ってアーティストを含めた他者への配慮にもつながる」ということを、フジロック来場者だけではなく、音楽に関連するすべての人に知ってもらえたら本望だ。今後も為になる話を訊ける機会があればどこへでも行くし、子連れで音楽空間を楽しもうとする人たちと情報シェアをしていきたい。
文・写真◎早乙女‘dorami’ゆうこ

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