シネマ歌舞伎『天守物語』、2人の画
家・宇野亞喜良と山本タカトが泉鏡花
の世界を語る

毎月話題の歌舞伎作品を映画館で楽しめる、「月イチ歌舞伎」。7月は2019年に没後80年を迎える明治の文豪・泉鏡花の戯曲『天守物語』を上映する。それに伴い、このほど東劇で画家の宇野亞喜良と山本タカトのトークイベントが開催された。この両名は2017年、『天守物語』の成立100年を記念して刊行された限定書籍『天守物語』に、共同で挿絵を描きおろしている。
原作を発展させ和洋折衷のファンタジー世界を思わせる宇野亞喜良。そして原作に沿ったイメージで、日本画のような味わいも醸す山本タカトと、それぞれに画風が全く異なる両画家の絵をスクリーンに映し出しながら、物語の世界観が語られた。(文章中敬称略)

■原作に忠実な美を醸す玉三郎。白鷺城を舞台に紡がれる幻想的世界
『天守物語』は1917年(大正6)に執筆された戯曲だ。物語は白鷺城(姫路城)の最上階にある異界の主・富姫(坂東玉三郎)と藩主播磨守の鷹匠・姫川図書之助(市川海老蔵)の、いわば異界の住人と人間との、「千年に一度の恋物語」だ。その耽美で幻想的な世界感は舞台のみならず、歌舞伎、映画、漫画など、様々なメディアによる創作がなされている。
山本タカト(左)と宇野亞喜良(右)
トークショーではまず両画家が『天守物語』にはじめてふれたときの思い出を語った。宇野はすべて男性出演者による演劇でこの物語にふれたという。山本は「小説が先だったか、玉三郎さんが主演された映画が先だったか定かではないが、玉三郎さんが非常に原作に忠実に、美しい世界を醸していたことが印象に残っている」と振り返った。
(C)福田尚武
続いて2人の画家が描いた物語の名場面を見ながら、創作時の意図が語られた。富姫の侍女が花を釣る場面について、「鏡花の原作世界と自分との共通点を探しながら描いた」と山本。また、富姫が蓑を纏って登場するシーンでは、山本は「玉三郎をイメージした」という。
一方宇野の富姫登場の挿画には河童や小鬼など、様々な物の怪が描かれている。これについて宇野は「舞台が姫路の白鷺城。『鳥獣戯画』で知られる高山寺にも寄ってきたのかもしれないと思った。蓑は田んぼの案山子のものをイメージした」と説明。それを聞いた山本が「宇野さん、自由ですね(笑)」と返すと、会場からは思わず笑いが起こる一幕も。その山本も真っ赤な妖怪・朱の盤坊については「原作に描かれていない部分では、自由に造詣を想像し、一つ目の妖怪にした」という。シネマ歌舞伎ではこの妖怪・朱の盤坊を中村獅童が演じているので、ぜひ楽しみにしていただきたい。
宇野亞喜良
■美青年・図書之助とあの世とこの世を結ぶ桃六の存在
富姫と恋に落ちる人間・図書之助だが、山本の描く図書之助はやはり実直な美青年。繊細で、しかしどこか艶っぽい画風を見ていると、そのまま物語世界へ誘われそうだ。一方宇野の図書之助は美しいながらも、腕が樹木へ変わっているなど、半人半妖の体をなしている。これについて「富姫の世界は、人が人でいられなくなる空間」という宇野の説明を聞くと、これもなるほどと納得する。シネマ歌舞伎を見る際は、心に留めておくと、物語が一層味わい深くなるかもしれない。
山本タカト
それぞれ独自のアプローチで『天守物語』の世界を描き出した宇野と山本。最後にシネマ歌舞伎を見て印象に残った場面として挙げられたのは、近江之丞桃六が獅子頭の目を開けるシーンだ。山本は「呪術師的存在」と語り、宇野は「桃六が富姫の世界を作っているのかもしれない」と語り、トークショーを締めくくった。
2人の画家によってそれぞれに描き出された『天守物語』の世界。東劇では7月11日まで、両画家の原画を展示しているので、こちらもご覧いただきたい。
なお『天守物語』に続き、8月23日から「泉鏡花没後80周年」として、『日本橋』を上映予定だ。泉鏡花独特の浪漫あふれる耽美な世界は、日本の伝統芸能である歌舞伎との親和性がとても高く、実に見応えがある。
(C)松竹株式会社
文=西原朋未

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