サザンオールスターズがなぜ国民的バ
ンドであり続けられるのか? その答
えを見た東京ドーム公演を回顧する

“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!

2019年6月16日東京ドーム
音楽の万華鏡。そう表現したくなるほど、カラフルで多彩で自在なコンサートだった。サザンオールスターズというバンドの懐の深さ、奥の深さ、幅の広さ、自由度の高さを堪能した。50万人以上を動員した6大ドームを含む11か所、22公演のツアーのファイナル公演となる6月16日の東京ドーム。昭和、平成、令和という時代を通じて、国民的ロックバンドであり続けている彼らの40年間の音楽活動のエッセンスを凝縮したような濃密なライブだった。36曲、3時間半に及ぶステージ。彼らの音楽の全体像を楽しむには、少なくてもこれくらいの曲数と時間が必要だ。
オープニングナンバーの「東京VICTORY」は桑田の雄叫びのような歌声で始まった。まるで旗印のような声のもと、コーラスとバンドの演奏が加わり、観客のハンドクラップが加わり、数多くのこぶしが天井に向かって突き出されて、5万人のパワーが結集していく。サザンオールスターズの音楽には理屈抜きで人を集わせるパワーが宿っている。東京ドームで「東京VICTORY」を聴くのは格別な体験となった。いや、「東京VICTORY」だけじゃない。どの曲も客席から熱狂的な反応が返ってきた。どの曲も熱烈に待ち望まれていた。彼らの音楽はなぜこんなにも長きに渡って、こんなにも多くの人々に愛され続けてきているのだろうか。
サザンオールスターズ 撮影=西槇太一
その問いに対する最もシンプルな答えは、彼らが40年間普遍的な名曲の数々を作り続けているから、というものだ。彼らの楽曲には音楽への愛と情熱と意欲と好奇心が詰まっている。独特なのは大衆性と革新性とが両立していること。実験的なことに挑んだり、マニアックな要素を取り入れたりしながらも、ポピュラリティーをおろそかにしていない。ドーム公演のセットリストは久々の曲、知る人ぞ知る曲も数多く入れた“攻め”の選曲になっていて、彼らの音楽探求の軌跡の一端も見えてきた。沖縄音楽とセカンドラインの要素を取り入れた、開放感と躍動感あふれる演奏が気持ち良かった「神の島遥か国」、シュールでありながら、スリリングなアンサンブルが見事だった「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」、ポップス、R&B、ジャズなどの要素を融合して、コーラスも駆使して、独特の浮遊感のある世界観を作り出していた「女神達への情歌 (報道されないY型[ケイ]の彼方へ)」、ラフでタフでファンキーな歌と演奏に血沸き肉躍った「ゆけ!!力道山」、エモーショナルな歌とディープなグルーヴに体ごと揺さぶられた「CRY哀CRY」などなど、バンドの底力をまざまざと感じた。サポートメンバーも含めた音楽集団としての彼らのバンドサウンドは音楽的で人間的だ。自由でありながら、結束力の強固さもうかがえる。ミュージシャンが集って、音楽を奏でることの楽しさ、素晴らしさ、かけがえのなさまでもが伝わってきた。
彼らの歌が愛されている要因はたくさんあるが、もうひとつ挙げておきたいのは歌の根底にヒューマニズムがあるということ。どの歌も人間味にあふれていて、人間くさい。しかも人間の光の部分だけでなく、闇も分け隔てなく描いている。喜怒哀楽、無常観、反骨精神、ユーモア、ナンセンス、色気、毒気などなど、胸の中に渦巻く感情や衝動のすべてが歌に変換されていく。その中でも最もサザンをサザンたらしめているのは郷愁、つまり故郷への思い、家族への思い、自分という人間を形成した日々や人々や場所や物への思い。彼らの音楽がこんなにも深く人々の生活に根付いたり、人生に入り込んでいるのは、歌の根底に郷愁の思いが存在しているからなのではないだろうか。東京ドームでもそんな歌がたくさん演奏された。
サザンオールスターズ 撮影=西槇太一
アンコールで演奏された「勝手にシンドバッド」も<砂まじりの茅ヶ崎>が舞台となっている。彼らは始まりの瞬間から故郷を描くバンドだったのだ。オープニング曲の「東京VICTORY」は<二度と戻れぬ故郷>と歌われていて、変わり続けるホームタウンが背景となっている。「希望の轍」、「SAUDADE~真冬の蜃気楼~」、「彩~Aja~」、「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」、「慕情」、「わすれじのレイド・バック」などなど、原風景が見えてくる歌がたくさん披露された。原由子の歌声と、桑田とコーラス隊のハーモニーが素晴らしかった「北鎌倉の思い出」では、はるか昔へとルーツを遡っていくような不思議な感覚を味わった。アイドルがモチーフとなっている「壮年JUMP」、力道山について歌われている「ゆけ!!力道山」、長嶋茂雄の引退シーンが描かれた「栄光の男」などの歌にも昭和という時代への郷愁が色濃く漂っていた。
この日、披露された新曲「愛はスローにちょっとずつ(仮)」は失恋ソングという解釈も出来そうだが、ルーツ的な存在への思慕の思いが染みてくる歌だ。桑田の慈しみにも通じる温かな歌声が素晴らしかった。サザンオールスターズの歌う郷愁が独特なのは、ただ単に悲しい、せつない、寂しい、懐かしいという感情に浸るだけで終わらないところにある。形はなくなっても、いつまでも胸の中で存在していて、生きる力を与えてくれたり、未来に向かって進んでいく糧となることを示している。彼らが描く郷愁の歌は未来への希望の歌でもあるのだ。
サザンオールスターズ 撮影=西槇太一
音楽への愛、人間への愛。彼らが特別な存在であり続けているのは、彼らの音楽にはそのふたつの核があるからだろう。特にライブ空間では彼らのすべての曲がラブソングと言いたくなる。観客全員を楽しませたい。笑顔にしたい。盛り上げたい。そんな思いがどの曲にも詰まっている。「わすれじのレイド・バック」や「I AM YOUR SINGER」など、ドームで歌われることで、一人ひとりの観客への愛と感謝の歌としてダイレクトに響いてきた。猥雑なパワーがほとばしる「マンピーのG★SPOT」だって、熱烈かつ強引なラブソングと言えなくもない。アンコール・ラストの「旅姿四十周年」は原曲の「旅姿六人衆」から歌詞が更新されている部分があり、中でも曲のエンディングでは<東京ドームで また逢おうね みんな元気で ありがとうね>と観客への思いが率直に歌われていた。愛を歌い、そのエネルギーを勇気や元気に変換していくバンド、それがサザンオールスターズ。40年活動しているから、いるのが当たり前のようになっているけれど、これはとても奇跡的なことだ。しかもラッキーなことに、この奇跡は今も、そしてもちろんこれからも継続していく。
取材・文=長谷川 誠 撮影=西槇太一
サザンオールスターズ 撮影=西槇太一

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