『jupiter』で教えられた実直さーー
個人的BUMP OF CHICKEN回想録

藤原基央が書く歌詞の特徴

これは『jupiter』収録曲に限った話ではないと思うが、BUMPの楽曲はA→B→サビという構成を持つ、所謂J-POP、J-ROCKに分類されるものだ(A→A´→B→サビが多い気がする)。大サビ(Cメロ)があることも多い。その歌がメロディアスであることは言うまでもなく、サビは概ね…いや、どの曲もキャッチーだ。繰り返し口ずさみたくなるような、親しみやすい抑揚を有している。

ただ、そこに乗る言葉、歌詞は特に難しい言葉を使うわけでもないし、英語詞も皆無なのだが、単純なリフレインがほぼないのだ。歌詞カードに“※繰り返し”や“◇Repeat”を見かけない(彼らの全ての作品の歌詞カードに目を通してわけではないので、それがあったとしたらごめんなさい、と先に謝っておきます)。1番と2番とでサビの歌詞が違うとか、後半のサビを2回繰り返す時に歌詞が違ったりとか、そういうことは他のアーティストでもわりとあるのだが、BUMPの場合、楽曲に存在するサビメロ、その全てにおいてほぼ歌詞が異なる。『jupiter』収録のシングル曲で見てみる。

《見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ/静寂を切り裂いて いくつも声が生まれたよ》→《知らないモノを知ろうとして 望遠鏡を覗き込んだ/暗闇を照らす様な 微かな光 探したよ》→《見えているモノを 見落として 望遠鏡をまた担いで/静寂と暗闇の帰り道を 駆け抜けた》→《もう一度君に会おうとして 望遠鏡をまた担いで/前と同じ 午前二時 フミキリまで駆けてくよ》(M2「天体観測」)。

《生きていく意味を 失くした時/自分の価値を 忘れた時/ほら 見える 揺れる白い花/ただひとつ 思い出せる 折れる事なく 揺れる》→《夢なら どこかに 落としてきた/希望と 遙かな距離を置いた/ほら 今も 揺れる白い花/僕は気付かなかった 色も位置も知っていた》→《生きていく意味と また 出会えた/自分の価値が 今 生まれた》《枯れても 枯れない花が咲く/僕の中に深く 根を張る/ほら ここに 揺れる白い花/僕は気付かなかった 忘れられていた名前》(M5「ハルジオン」)。

《ひとつだけ ひとつだけ その腕でギュッと抱えて離すな/血が叫び教えてる 「君は生きてる」という言葉だけは》→《ひとつずつ ひとつずつ 何かを落っことしてここまで来た/ひとつずつ拾うタメ 道を引き返すのは間違いじゃない》→《ひとつだけ ひとつだけ/その腕でギュッと抱えて離すな/世の中にひとつだけ かけがえのない生きてる自分》(M9「ダイヤモンド」)。

せいぜい4小節、概ね2小節分の歌詞が同じくらいで、サビの歌詞が丸ごと同じものはほぼない。これは藤原基央(Vo&Gu)が作る楽曲の大きな特徴だとは言える。どうしてこういう作風なのか。本人から言質を得たわけではないので、これは想像でしかないけれども、おそらく歌詞から作っているから、所謂“詞先”であるからであろう。しかも、それが物語にせよ、心象風景にせよ、必ず時間軸を伴っているものだからだと想像する。

要するに、瞬間を切り取るタイプではなく、過去から現在へ、あるいは現在から未来へ、時間が不可逆であることを意識させるものが多い。特定の時間帯を切り取ったものもあるにはあるが、それにしてもわずかに時が経過していたり、その比較対象としての過去や未来が描かれていたりする。前者がM4「キャッチボール」で、後者がM6「ベンチとコーヒー」だろうか。それゆえに、言葉も増えるし、サビで同じ歌詞をリフレインすることもできなくなるのだろう。《僕の事なんか ひとつも知らないくせに/僕の事なんか 明日は 忘れるくせに》とサビの歌詞がリフレインされるM8「ベル」は『jupiter』の中では唯一の例外だが、「ベル」はメロディーが先にできたものだそうで、だからこそ、決め台詞のようにフレーズを強調できたのではないかと推測する。そして、その例外である「ベル」が“曲先”であると知ったことで、藤原の作風をこんなふうに推理してみた。

まぁ、その仮説が正しいかどうかはともかく、『jupiter』収録曲は“※繰り返し”や“◇Repeat”がほぼないことは事実であって、それによって何が起こるかと言えば──以下、筆者の経験なので正確には“何が起こったか”と言えば、聴き方が洋楽的になるのである。メロディーと言葉をワンセットでとらえづらいので、楽曲の主題が頭に残りづらい。感性が豊かな人は別にしても、“とりあえず聴くか…”くらいで臨むとそういうことになる。そこに加齢という条件が付けばなおさらだ(俺のことだ)。先に書いた通り、BUMPの楽曲は親しみやすい抑揚を有しているのは間違いないので、そこは認識できたにしても、歌詞に関しては全体をとらえないと何を伝えようとしているのかが把握しづらいのである。よって、ボーッと聴いているだけだと“今の若い人はこういうのが好きなのね”といった呆けた感想しか持てないことになる。

OKMusic編集部

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