【インタビュー】トム・ウォーカー、
初アルバムを携えまもなく来日「より
ロックでパワフルに」

2019年にブレイクしたUK発の新鋭アーティストの1人、トム・ウォーカーが間もなく、<SUMMER SONIC 2019>で初来日を果たす。
ウォーカーは今年2月、英国最大の音楽アワード<Brit Awards 2019>でエラ・メイ、IDLES、ジョルジャ・スミス、メイベルといった才能溢れるニュー・アーティストが出揃った候補の中から、見事、ブリティッシュ・ブレイクスルー・アクト賞に選ばれ、翌月発表したデビュー・アルバム『What A Time To Be Alive』が初登場で全英1位を獲得。11週間トップ10に留まり続け、「Leave A Light On」「Just You And I」などのヒット・シングルが誕生した。

スコットランドで生まれ、マンチェスターで育った彼は、父に連れられ観に行ったAC/DCのコンサートで衝撃を受け、小学生のときにミュージシャンになろうと決意。中学のときから独学で作曲、プロデュースを始め、音楽学校で学び、バスキングをしながら経験を積んできた。

リアルな歌詞と切ないメロディーでリスナーの心に触れ、近年隆盛な英国人の男性シンガー・ソングライターの1人に挙がる、<SUMMER SONIC 2019>でのパフォーマンスが待ちわびられる彼に、来日を前に話を聞いた。

   ◆   ◆   ◆

──1stアルバム『What A Time To Be Alive』の全英NO.1、そして昨年夏、婚約もされたとか、おめでとうございます。

トム・ウォーカー:ありがとう!

──お父さんと一緒にAC/DCのコンサートに行ったのがきっかけで、音楽にのめり込むようになったそうですが、それならば、子供のとき聴いていたのは今あなたが作っている音楽よりハードなものだったのでは?

トム・ウォーカー:そうだね、ギター・ロックの大ファンなんだ。僕は早くからギターを弾き始めていたから、AC/DCやガンズ・アンド・ローゼズ、フー・ファイターズ、ミューズみたいなギター・ロック・バンドをよく聴いてた。ギタリストとしては、それが自然な流れなんじゃないかな。

──ミュージシャンになりたいと思ったのは、いくつのときですか?

トム・ウォーカー:10歳くらいだったと思う。

──サッカーではなく、音楽を選んだのですね?

トム・ウォーカー:サッカーは好きじゃないんだよ(笑)。マンチェスター出身だから、いつも最初にマンチェスター・シティとマンチェスター・ユナイテッド、どっちのサポーターなのかって訊かれるけど、サッカーには興味持ったことないんだ(笑)。

──13歳のとき、ギターを買ってもらったとのことですが、作曲を始めたのはいくつのとき?

トム・ウォーカー:15歳くらいだね。自分で曲を作り始め、自分で歌おうと思ったんだ。歌は下手だったんだけど(笑)。というのも僕のシスターは、シンガーとして素晴らしい才能に恵まれていて、そんな彼女を見てると「僕は違うな」って意識していたところもある。とにかく、僕はギタリストなんだとずっと思い込んでいたんだ。ギターに専念するべきだと。今思うと、ものすごくヘンな話なんだけどね(笑)。

──ロンドンの音楽学校でソングライティングを専攻するまで、まともに歌ったことはなかったそうですね。自分に歌という表現手段があることを知った時、どんな感慨を抱きましたか?

トム・ウォーカー:そりゃ嬉しかったよ。そもそもなぜ歌い始めたかというと、当時の僕はたくさん曲を書いていて、デモをレコーディングしなくちゃいけなかったんだけど、シンガーの知り合いがいなくて、自分で歌うしかなかったんだ。だから音楽学校に通っていた3年間に、シンガーとして表現を磨いた。本当に、どこからともなく突如こういう展開になったって感じなんだ。

──家に機材を設置し、自分でプロデュースもしていたとか。

トム・ウォーカー:15、6歳のとき、8トラックのレコーダーを手に入れ、自己流でレコーディングの仕方を学び始めたんだ。僕はギターがメインだけど、ベース、ドラム、ピアノもプレイする。作曲するときは、たまにピアノも使うけど、大体がギターだね。

──バスキングの体験もあるそうですね。ストリートで歌うことでどんなことを学びましたか?

トム・ウォーカー:う~ん……バラードはやらないほうがいいってことかな(笑)。バスキングで成功するには、アップテンポな曲を歌わないと、道行く人たちの興味を引くことができない。でもだからこそ、どういう曲が人々にウケるのかテストするには、すごく役に立つ。僕がバスキングしていた頃は、どっちかっていうとオリジナル曲を主に歌っていたんだ。たまにカヴァーを挿むこともあったけどね。だから自分の曲を歌っていて、誰かが足を止めてちゃんと耳を傾けてくれたとしたら、それは、その曲に可能性があるという兆しだ。

──ときによっては誰も聴いていないように見える環境でプレイするのは難しいのでは?

トム・ウォーカー:そうなんだよ(笑)。聴いてるくせに、金払いたくないから聴いてないフリする人たちもいる(笑)。経験を積むって考えてた。

──27歳でメジャー・デビューしたことを、下積みが長かった、苦労人と考える人もいますが、あなた自身はレコード契約を交わす前の時代をどう見ていますか?

トム・ウォーカー:そうは思っていなかったな。自分のしたいことをしてたからね。自分のやってることを楽しんでた。もちろん、最終的には契約を交わしてアルバムを作りたいとは考えていたけど、音楽を作ってる──それだけで楽しかった。僕にとっては、そこが重要だった。

──では、あきらめようと思ったことはなかった?

トム・ウォーカー:あったよ、シェフになろうとしたこともあった。でも、音楽以外の仕事は向いてなかったんだよね(笑)。音楽を作るほうが僕には簡単だった。

──それに、当時のガールフレンド、いまの婚約者がとても支援的だったとか。

トム・ウォーカー:そうなんだ、彼女は素晴らしいよ。知り合ったとき、僕は無職だったんだ。彼女は、この旅の始まりからそこにいた。彼女は売れるまで時間がかかるって理解していたし、いまに至るまですごく支援的なんだ。

──いまミュージシャンを目指していて、苦労しているかもしれない人たちにアドバイスを送るとしたら?

トム・ウォーカー:人それぞれ状況や経験してきたことが違うだろうから何とも言えないけど、自分の好きなことに挑戦し続ける価値はあると思う。やるだけやったほうがいい。そして、クリエイティブであり続けて欲しい。
──あなたの音楽はよりパワフルでドラマチックな要素もあるので、ちょっと違う気はしますが、よくエド・シーランと比較されていますよね。あなた自身は比べられて嬉しいと思うアーティストは?

トム・ウォーカー:うーん、アデルかな……。エド・シーランと比べられる理由はわかるよ。アコースティック・ギター弾いて歌ってるし、どちらもジンジャー・ヘアで……、まあ、僕のほうは“やや”って感じだけど(笑)。シーランのことは好きだから、彼と比較されるのは構わないよ。

──最近の英国ではエド・シーランを筆頭にジョージ・エズラ、あなた、ルイス・キャパルディと、男性シンガー・ソングライターが大活躍しています。しかもみんな飾らないキャラだという共通項がありますが、あなたたちの声が求められている理由が何かあると思いますか?

トム・ウォーカー:う~ん、なぜなのか僕にはうまく説明できないけど、今の時代、何かしらちゃんと意味があるもの、実体のあるものを、人々が求めているのかもしれない。最近活躍している男性シンガー・ソングライターたちはみんな、日々の生活の中で直面する、すごくリアルなことを曲の題材にしているよね。ファンタジーの世界の話をしているわけじゃないし、金持ちになりたくて活動しているタイプでもない。とにかくいい曲を書いていると思うんだ。

──デビュー・アルバム『What A Time To Be Alive』を聴くと、ラテンのリズムだったりR&B、ソウル、ロックなどあなたが様々なジャンルの音楽の影響を受けているのがわかります。曲によってヴォーカル・スタイルも変えているようですが、この作品の中で、最も自分の本質をとらえていると思う曲は?

トム・ウォーカー:そう、全ての曲が違う。ジャンルも違うし、ヴォーカルでも実験している。でも、どの曲、どのジャンルが僕らしいってことを言うのは難しいな。このコレクション全体で僕、僕のスタイルなんだと思う。

──では、これまでに書いた曲から選び抜いた、ベスト・アルバムみたいな感じですか?

トム・ウォーカー:ああ、それは間違いないね。何しろ事実上、僕は27年を費やしてこれらの曲を書いたわけだから(笑)。ここまでに至る全人生の体験が反映されたアルバムだし、現時点での“ベスト・オブ・トム・ウォーカー”だと言って差し支えないよ。
▲デビュー・アルバム『What A Time To Be Alive』

──全英1位を獲得したときは、どう祝いましたか?

トム・ウォーカー:友人たちといっぱいビールを飲んだ(笑)。

──アルバムのタイトル『What A Time To Be Alive』に込められた意味は? ポジティブに“なんて素晴らしい時代に生きているんだ!”なんでしょうか、それとも“なんて時代なんだ……”という懸念がある?

トム・ウォーカー:両方だね。ポジティブに取る人もいれば、ネガティブに取る人もいて、そこを僕は気に入ってる。僕にとっては両方だ。素晴らしい時代だなって思うし、テレビやニュースを見てると、世界ではなんて酷いことが起きてるんだ、クレイジーだとも思う。

──アートワークも素敵です。2000もの小さな人物像で、あなたの肖像画ができている。

トム・ウォーカー:そうそう、Craig Alanっていうアーティストが描いてくれたんだ。僕の友人や家族の写真を送ってアートワークにしてもらった。すごくユニークで面白いものになったと思う。彼らみんなと一緒にこのアルバムを作ったようなものだからね。このアルバムは、僕が彼ら──家族、友人、同僚らと経験したことを基に作られた。だから、みんなで作ったように感じてるんだ。

──あなたは様々な楽器をプレイしプロデュースもできるので、長い間1人で全てやっていたわけですが、このアルバムでは他のライターとも共作していますよね。それによって変わったことは?

トム・ウォーカー:曲作り、レコーディング、プロデュース、ミキシング、マスタリングなんか全てを1人でやるのは大変なんだ。プロデューサーが入り、サウンドスケープ全体に目を配ってくれる人がいたのは大きな違いだった。曲を作りながら、自分でそれをやるのは難しいからね。それに、この1年間は130回近く公演をやっていて、そんな中でプロダクションやマスタリングを自分でやるのは無理だった。

──歌詞のインスピレーションは? あなたの実体験? それとも想像上の人物の物語?

トム・ウォーカー:どちらもあるね。自分の体験に基づいたものもあるし、家族や友人の話にインスパイアされたものもある。

──あなたの歌詞はリスナーの共感を呼ぶところが大きいので、英語圏でない場所、例えばヨーロッパや日本のオーディエンスがすぐに理解できないのは残念です。

トム・ウォーカー:そうだね、英国でパフォーマンスするときとリアクションが違うって思うことはある。でも、それはいっときだけで、全体的には言葉の壁を感じることはないかな。

──2017年のシングル「Leave A Light On」がブレイクスルー・ソングになったわけですが、あれほど多くの人とコネクトできた理由はどこにあると思いますか?

トム・ウォーカー:やっぱり、多くの人が共感できるメッセージを含んでいたからなんだろうね。世の中には、例えばアルコール依存やメンタルヘルスの問題を抱えて、苦しんでいる人たちが大勢いる。決して珍しいことじゃないんだよ。なのに、そういうことを題材にした曲を日常的に耳にすることって、あまりないよね。チャートの上位に入っている曲と言えば、相変わらず、クラブに行ってパっと楽しむこととか、高級車を乗り回すこととかを歌っているわけで、なかなかこういうメッセージには出会えない。人々は、こういう言葉を聴きたがっていたんじゃないかな。
──オープニング・トラックの「Angels」は、「天使はいるに違いない」と、アルバム・タイトル同様、ポジティブにも取れるし、悲壮感が漂っているようにも取れます。

トム・ウォーカー:あれは、助けを必要としている人たちがたくさんいるのに、英国の人たち、いや世界中でかな、人々が自分のことだけを考えていたり、キム・カーダシアンとかどうでもいいことばかり(笑)が話題になっているのにフラストレーションを感じて作った曲なんだ。

──「Just You And I」(オリジナルは2017年リリース)を2019年に再リリースしたことにまつわる素敵な話がありますよね?

トム・ウォーカー:そう、あれはガールフレンドのために作った曲なんだ。当時、2年くらい、僕らは遠距離交際中だった。それで、2人が会うときは“君と僕だけ”って想いがあったんだよね。それが時を経て、僕らがカップルとしてどれほど成長したのかってことに想いを馳せ、記念の意味も込め、このアルバムで再リリースすることにしたんだ。

──ではこの先、その続編的な曲も?

トム・ウォーカー:どうかな(笑)。あるかもしれないね(笑)。
──もし、このアルバムが他の誰かが作ったもので、あなたが気に入り、友達に薦めるとしたら、なんて表しますか?

トム・ウォーカー:難しいね、もしこのアルバムについて話すとしたら、ブルースとポップの間のサウンドで、ブルージーでソウルなヴォーカルに、モダンだけどクラシックな要素があるって言うかな。難しいな。自分のアルバムだから(笑)。

──あなたのミュージック・ビデオはストーリー性があって素敵ですね。演技しなくてはいけないのは、どんな気分ですか? 楽しい? それとも恥ずかしい?

トム・ウォーカー:ああ(笑)、ミュージック・ビデオに出るの嫌いなんだ(笑)。すっごく嫌い(笑)。歌うのが自分の役目って思ってるから、演技するのは……、できなくはないけど、イヤだな(笑)。

──ブレイク後、最も大きな変化は?

トム・ウォーカー:家にいられないってことかな。友達や家族と一緒に過ごすのが大好きだから、そこがちょっとね……。でも、今のところはいい感じだよ。というのも、僕は一夜にして成功を収めたわけじゃなくて、長い時間をかけてここまで来たからね。一生懸命努力して、地道な積み重ねがあって、変化のスピードとしては、十分に対処できるものだった。もちろん、過去1年間は多少クレイジーだったけど、あくまでもいい意味だ(笑)。信じられないような素晴らしい体験を、たくさんさせてもらえた。自分が作る音楽を通して。思いもよらなかったことだし、本当に最高だよ。
──デビュー作が1位に輝き、次のアルバムを作るにあたりプレッシャーは感じますか?

トム・ウォーカー:そうでもないね。自分の音楽、やってることをすごく楽しんでるから、セカンド・アルバムについて、いまは心配してない。

──もうすぐ<SUMMER SONIC>で来日ですね。日本は初めてですか?

トム・ウォーカー:そう、だからスーパー・エキサイティングなんだ。寿司が大好きで、本場の味を楽しみにしてる。英国で食べられるものとは大違いなんだろうな(笑)。もう少ししたら、日本で何をしようか計画を立てようと思ってるんだ。

──どんなパフォーマンスが期待できるのでしょう? また、あなたは日本のオーディエンスから何を期待していますか?

トム・ウォーカー:何を期待したらいいか、正直言って、わからないんだ。日本でプレイするのは初めてだからね。だから、実際にプレイしてみてどうなるか、すごく楽しみなんだよ。僕のライブは、アルバムよりエキサイティングだよ。素晴らしいバンドと一緒で、よりロックでパワフルになっている。

Text by Ako Suzuki
取材協力◎新谷洋子

デビュー・アルバム『What A Time To Be Alive』

2019年3月1日(金)発売
【収録曲】
1. Angels
2. Leave a Light On
3. Not Giving In
4. How Can You Sleep at Night?
5. Now You're Gone(feat. Zara Larsson)
6. My Way
7. Blessings
8. Cry Out
9. Dominoes
10. Fade Away
11. Just You and I (Acoustic)
12. The Show
13. Walk Alone (ルディメンタル feat.Tom Walker

試聴&購入リンク:
https://lnk.to/TomWalkerWTTBA

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