波乃久里子×山村紅葉×中村梅雀イン
タビュー 八月新派公演 山村美紗サス
ペンス『京都都大路謎の花くらべ』~
新派ならではのミステリーに意気込む

八月新派公演 山村美紗サスペンス『京都 都大路謎の花くらべ』が、8月3日(土)より新橋演舞場で上演される。
原作は、ミステリー界の女王・山村美紗の傑作小説「京都西大路通り殺人事件」。“山村美紗没後十年追悼”として2006年に京都南座で初演され、2015年にリニューアル上演された作品が、新派公演として初めて東京にお目見えするのである。近年、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』、横溝正史の『犬神家の一族』を舞台化し、“新派ミステリー”とも言える新たなジャンルを切り拓いている劇団新派。第3弾となる今作も、人間を色濃く描ける新派にしかできない作品が誕生しそうである。
出演者には、波乃久里子、喜多村緑郎、河合雪之丞の劇団新派の面々に、中村梅雀、山村紅葉、長谷川純という豪華ゲストが揃う。長年の顔なじみでもある久里子、紅葉、梅雀に、作品への意気込みと芝居への思いを語り合ってもらった。
新派と馴染みの深い梅雀と紅葉
──まずは、ゲストとして今作に出演される中村梅雀さん、山村紅葉さんが、新派や久里子さんとこれまでどんなつながりがおありだったのか、お聞かせいただけますか。
中村梅雀(以下、梅雀) 実は、松竹新喜劇・新派の合同公演には出たことがありますが、劇団新派の公演に出るのは初めてなんです。
波乃久里子(以下、久里子) 初めてなんて信じられない。おじい様(三世中村翫右衛門)が新派に出てくださっていましたし、私も梅雀さんとたくさん共演していますから。
梅雀 夫婦、恋人、それから母息子役と、もう何でもござれで(笑)。『闇の狩人』という僕の時代劇ドラマにも出ていただきました。
久里子 梅雀さんは弟(十八世中村勘三郎)と同い年ということもあって、弟に似たところも感じるんですよね。守りに入らず攻めていく姿勢とか。だから、生き方がカッコいい。大好きです。
梅雀 昭和30年生まれって、何か色濃いものがあるんですよね。でも、久里子さんにも同じ血を感じるといいますか。細かいところをよく見てよくわかってらっしゃるんだけど、表に出てくる芝居は奔放なんです。何でも出てくる。
久里子 買いかぶりすぎですよ(笑)。そして紅葉さんは、六月花形新派公演『夜の蝶』にも出ていただいていて、もう半分新派の劇団員みたいな気持ちなんですけど、私、最初に新派に出てくださったときの役が忘れられないんです。
山村紅葉(以下、紅葉) 『戀女房─吉原火事─』(泉鏡花作 水谷八重子演出 1979年上演)の樫子役ですね。ありがとうございます!
久里子 あのとき私「新派に入ってもらいましょうよ」と言ったくらい。それから、北條秀司先生作の『片恋』も素敵でした。あれはあなたのライフワークになりますね。
紅葉 そうできれば本当にうれしいです。私は小さい頃から当たり前のように南座で歌舞伎と新派を観ていて、それがお芝居というものだと思っていたくらいだったので、その憧れの舞台に立たせていただけるだけで夢のようなんです。
久里子 私、紅葉さんの芝居を拝見していて、いつもあなたのなかに感謝を感じるんです。役を与えてもらったという感謝。そういう気持ちを持って演じてらっしゃるのは素敵なことですし、だからどんな役でも本気で演じられるんでしょうね。本気で舞台の上で生きていないと、やっぱりお客様にはバレますから。
メイクしないで舞台に立つ!?
──梅雀さんと紅葉さんのこれまでの共演経験も教えてください。
梅雀 僕たちはサスペンスドラマでけっこうご一緒してますよね。
紅葉 『温泉若おかみの殺人推理』シリーズでご一緒させていただいて、いろんな温泉地を巡りましたし、いろんな断崖絶壁に行きました(笑)。梅雀さんは普段から気さくな方でお兄ちゃまみたいな感じなので、いてくださると安心するんです。
梅雀 そう思っていただけたらうれしいです。
──それぞれ古くからお知り合いのお三方ということですが、3人で共演された経験は?
梅雀 一昨年の新橋演舞場の『二月喜劇名作公演』が初めてだったんですけど。
紅葉 二本立てでそれぞれ別の芝居に出ていたので、3人揃っては共演していないんです。でも、あのときもうれしくて、舞台袖から張り付くように観ていました(笑)。
久里子 芝居は一緒にしていないですけど、楽屋が楽しかったですよね。また紅葉さんの部屋が楽しいんです。全部キティちゃんでまとめていて。
紅葉 タンスから絨毯から全部キティちゃんで揃えていて、京都の家から運んで来るんです。トラックを借りて、引っ越しみたいな感じで(笑)。
久里子 片や梅雀さんの楽屋は…。
梅雀 非常に簡素です。なるべく荷物は少なくしたいんですね。下手するとここ数年、現代劇はメイクもしてないんですよ。テレビと時代劇はしますけど。
久里子 私もそういうふうにしたいと思うんですよね。劇団の先生方は「いい役者ほどスッピンだ」とおっしゃっていたんです。化粧する私たちはズボラだと。
梅雀 要は、人間から作ってしまえばメイクなんかする必要はないっていうことなんですよね。そこに存在していれば。それと、遠くから見ればいくらメイクしてもわからなくなっちゃいますし。あんまりごちゃごちゃ顔を描いたら、相手役の方がびっくりしちゃいますからね(笑)。
久里子 でも、今度は私、年齢の若いクラブのママの役ですから、描かせてもらいますよ(笑)。
役者の良さを出させる脚本
──今回の舞台では、久里子さんが京都祇園のクラブ「牡丹」のママ美保子を、紅葉さんが芸妓小春を、梅雀さんが京都府警の狩矢警部を演じて、次々に起こる密室殺人の謎を解いていくことになります。刑事役のイメージが強い梅雀さんですが、意外にも、山村美紗作品に出演されるのは初めてだそうですね。
梅雀 そうなんです。刑事役が多いからこそ、ほかの方が刑事を演じておられる作品に入ることがなかなかなくて。山村美紗さんの作品も、狩矢警部といえば若林豪さんという印象が強いので、やっとご縁ができたという感じなんです。ただ、僕が豪さんのような感じでやろうとしてもカッコよくならないですし(笑)。脚色・演出の齋藤雅文さんが僕に合わせた狩矢警部に書いてくださっていて、僕を呼んだからには完全に梅雀色にしてやろうという意図が読み取れるので、自分なりの狩矢警部になればと思っています。また、狩矢警部に限らず、稽古をしていくなかで役者次第で流れを変えられるような余白を持ったホンなんです。
紅葉 ある程度役者に任せて、それぞれの役者の良さを出してほしいということですね。
梅雀 だから、何を引っ張り出されるかわからないなというワクワク感がありますね。
紅葉 私も、小春という役は南座で一度やらせていただいているんですけど、周りが全員違う方になるので、前とは違う私が出て、また違う小春になったらいいなと思います。
普遍的なトリックと人間ドラマ
──山村美紗さんの作品については、まず娘である紅葉さんからご覧になってどんな魅力があると思われますか。
紅葉 やっぱりトリックの面白さが第一だと思います。観た人全員が「そういうことだったのか」と納得できる解明の仕方をしたり、時代が変わってどんなに新しい技術が登場しても時代を超えた説得力を持つ、普遍性のあるトリックなんです。またその事件の背景にも、愛憎や嫉妬という普遍的な人間のドラマがあって。さらに母は、殺人という陰湿なことが起きるからこそ、舞台設定は明るく華やかにしたいと思っていたんですけど、そこも多くの人に面白いと思ってもらえる点なのではないかなと思います。そういう意味では、華やかにダイナミックに展開していく今回の舞台は、まさしく母の大好きな世界になるんじゃないかなと思うんです。
梅雀 山村さんの作品には、独特の湿り気がありますよね。情緒にもなるし陰湿にもなるというような、いろんな度合いの湿気を感じるんです。犯罪自体も、日本人独特の精神構造が導き出されたり、日本人らしい世界だなと思いますね。
今の新派のエネルギーを
──その意味では、日本を描き続けている劇団新派だからこそできる作品が、またひとつ生まれそうです。
久里子 こういうものが新派ですということではなくて、新派役者がやれば何でも新派になると思うんです。歌舞伎を知っていて、基礎があって、叙情もリアリズムも表現できる。そういう新派役者が演じれば、決して古いという意味ではなく、現代劇をやっても新派役者にしか作れない独特の世界になるんです。だから、観ていただいたら絶対面白いと思うんですよ。
梅雀 本当にそう思います。若い世代は、「これ、なんか新しいかも」と思うような、ほかとは違う空気感が味わえるでしょうし、真ん中の世代なんかは、「ようやく私もこういう世界がわかるようになってきた」と思うんじゃないでしょうか。
紅葉 新派や歌舞伎は難しいという先入観を持っている人ももしかしたらいらっしゃるかもしれないですけど、少なくとも今回上演する作品は、面白くわかりやすくなっていると思うので。お芝居が好きな方はもちろんですけど、劇場に行くのが初めてという方も、観ていただければ絶対に期待を裏切らないと思います。
久里子 そうですよね。ましてや今の新派は、喜多村緑郎さん、河合雪之丞さんが引っ張って、みんなを本気にしてくれていますから。そのエネルギーを観に来てくださった皆様にも差し上げることができたらいいなと思っております。
取材・文=大内弓子  写真提供=松竹

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