世界へと向かうソウル界の新星・Naz
。確固たる音楽観に迫る

未来を掴むに相応しい才能だ。シンガーとして優れているだけではない、Nazはアーティストとしての「姿勢」にこそ魅力がある。冨田ラボと江﨑文武(WONK)のプロデュースでデビューを果たす、沖縄出身の19歳・Naz。まだデビュー前の新人ではあるが、イギリスでの活動も決めている彼女には、求める音楽の形があり、世界の舞台で歌うヴィジョンがある。

BTSのビルボードチャート1位獲得や、躍進を見せる88rising、さらにはPerfumeやBLACKPINKのコーチェラ・フェスティバル出演など、アジアの音楽シーンの気運が変わってきているのは周知の通り。そうした状況において、これからは海外の音楽へとコミットする気概やスタンスを持つことは、アーティストとして益々重要なファクターのひとつになるだろう。もちろん、いきなり海外のシーンで活躍することは容易ではないはずだが、世界のどんな場所であれ、臨めば届き得ることを彼女は自然体で知っているのだろう。

洗練された音を聴かせる、モダンなR&Bやフューチャーソウル、ジャズからの反響も聴こえてくるEP『JUQCY』。その奥にある彼女の音楽観と美意識を紐解いた。

Photograph_Hiroaki Noguchi
Interview&Text_ Ryutaro Kuroda
Edit_Miwo Tsuji

魅せられるのは、人工的な美しさ

Naz-「White Lie」 Music Video

――『JUQCY』はNazさんにとってどんな作品になりましたか。

Naz : 学生の頃に歌を始めて、今年は高校を卒業するタイミングだったので『JUQCY』は私にとって一つのけじめであり、新しいスタートの作品になりました。

――これまでの自分ができなかった表現が、この作品で達成できたところはありますか。

Naz : 自分の心境が歌に出てきたと思います。これまでは言葉で自分の気持ちを伝えることは必要としてこなかったのですが、今回の制作ではそういうことも大事なんだと実感していて。どうしても言葉を使って相手に伝えなきゃいけない場面もあり、音楽に限らず色んなところで成長できました。それが歌にも出ていて、『JUQCY』は私の中にあるものを全部晒している作品になっています。

――プロデューサーのおふたりとは、どういうコミュニケーションを取っていきましたか。

Naz : 冨田さんとは、去年『M-P-C』というアルバムの「OCEAN」でご一緒させていただいたんですけど。その際にも私の昔のオーディション映像とかを見ていただいていて、私の歌を理解してくれていました。それで今回も私が知らなかった自分の魅力を引き出してくれるような楽曲を提供してくれたと思います。なので制作前のコミュニケーションっていうのはそんなに取らず、デモをいただいてから、自分の中にあるイメージを伝えて歌詞を書いていただきました。

――なるほど。

Naz : 逆に江﨑さんは今回初めてお会いする方だったので、スタジオで私が好きなものや、どんな歌を歌いたいのかっていうのを話してから制作していきました。

――江﨑さんにNazさんの新作について伺うインタヴューをした際に、「最初は共通言語があるかと思っていたけど、意外とそんなことはなかった(笑)」と言われていて。H.E.R. をはじめとして、Nazさんの声からイメージした音楽を色々勧めてみたても、イマイチNazさんに刺さらなかったみたいですね。

Naz : そうなんです(笑)。
――つまり、Nazさんの声から想起する音楽とは、異なるところにルーツがあったということだと思うんですけど。歌に目覚めたきっかけはなんですか。

Naz : 親が好きだったのがUKロックやオルタナティヴロックだったので、シンガーだったり、いわゆる歌唱力のある音楽を小さい頃はあまり聴いてこなかったんです。でも、映画『バーレスク』が公開された時に(クリスティーナ・)アギレラを見て凄く衝撃を受けて。私もこうなりたい!と思って歌い始めたのがきっかけです。それまでヴォーカルとトラックというものを区別せずに聴いていた自分が、初めてヴォーカルというものに魅力を感じた瞬間でしたね。

――ビョークの『Volumen』もルーツのひとつに上げられていましたね。

Naz : そちらはもう、言葉を覚える前から親に見せてもらっていて。『Volumen』は映像が面白いなと思って見ていました。

――彼女は相当な自然児ですよね。Nazさんも自然が豊かな場所で育ったとお聞きしたんですけど、ビョークと自分に何か重なるところはありますか?

Naz : いや、ないです。私は自然がそんなに好きじゃないというか、昼間も外に出ないので(笑)。
――(笑)。それで言うと、江﨑さんが「Nazさんにはアーバンなものへの憧れがあるんじゃないか」って言われていたんですけど。そういうところはありますか?

Naz : ああ、それはあると思います。離れたら恋しくなるかもしれないですけど、あんまり沖縄にずっといたいという執着心はなくて。幼い頃から映画や音楽に親しんでいたっていうのもあるかもしれないですが、私はずっとロンドンのカルチャーに憧れています。5歳の時に初めて連れて行ってもらって、そこで凄く好きになって「またここに来るんだろうな」って思ったんです。ブリティッシュイングリッシュも好きですし、寒いのが好きだったのでテンション上がっちゃいました。

――実際音楽的にも、スタイリッシュに仕上げられていると思います。冨田さんと江﨑さんによるアレンジが大きいとは思うんですけど、非常に洗練された作品ですよね。こういう方向で完成させたいっていうビジョンがご自身の中にあったんですか?

Naz : 私の中にヴィジョンがあったかと言えば、わからないですね。ただ、江﨑さんも言われていた通り、汚れた音やヨレたビートで良いものもあるとは思うんですけど、私は洗練されたものに惹かれています。

――それは何故ですか?

Naz : 聴いていてそちらの方が魅力的なんですよね。ファッションとしても、私はナチュラル系のスタイルが苦手で、ちょっと都会的な感じが好きなんです。親もインドアだったのもあり、涼しい室内が好きなのと同じなのかなと自分では思います。

――人の手で作られたものが好きなんですね?

Naz : あ、まさにそうです。人工的なものが綺麗に見えて、そこに魅力を感じています。

綺麗でいること

――ルーツとは別に、ここ最近のNazさんに影響を与えたものも伺えたらと思います。どんな音楽を聴いていますか?

Naz : ダイ・アントワードが凄く好きです。

――めちゃくちゃいいですね。どこに惹かれていますか?

Naz : なんか過激じゃないですか?(笑)。最初はMVとかも見れないくらいだったんですけど、あの音楽はとても強くて、不安になった時とか自信なくなっちゃった時に聴いたら凄く助けになりました。

――あと、以前メールで取材させていただいた際には、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドのようなブリストルの音楽も聴かれていと言われていましたよね。

Naz : そうですね。ブラック・アイド・ピーズやゴリラズとかも身近にはあって、作曲する時には私も打ち込みの音で作りたいなと思っていたんですけど。iPhoneのアプリを使って作曲した時、普段音楽の話をしている知人に聴いてもらったら「トリップホップっぽいね」って言われて。聴いてみたらほんとだ!って(笑)。私はこの感じがやりたかったんだと思って、そこからトリップホップを聴くようになって、ザ・プロディジーとかに繋がっていきました。

――なんで作りたい音楽のイメージと、トリップホップの音楽性が重なったんだと思いますか?

Naz : 音楽が持つ空気感、その音楽の冷たさにしっくりきました。私は曲にはそれぞれ色があると思っているんですけど、オレンジっぽいものとか赤っぽいものはあんまり自分には合わなくて。青とかグレー、黒いものが歌っていてしっくりくるんですよね。性格にダークな部分が多いからだと思うんですけど。

――『JUQCY』では不安な感情もそのまま歌っていると思いますし、歌の質感はやっぱりアンニュイだと思います。そうした歌には、ご自分の何が表れていると思いますか。
Naz-「Fare」 Music Video

Naz : 歌詞はやっぱり、自分の性格が出ていると思います。私は自分に自信がなくて、歌が楽しいって思えるようになったのも実は最近なんです。以前は声が良いって言ってもらってもそう? って感じだった中、私が尊敬している方から「歌凄くいいね」って言ってもらえたことで自信が持てるようになったんですけど。元々は全然そんなことは思えなかったんです。

――逆に言うと、自信がないままでも歌ってこれた原動力があったってことですよね?

Naz : 楽しかったんだと思います。思っていることを言葉にするのが苦手だけど、歌うことで感情を表現することができたから。そこに幸せを感じていました。そしてその歌からアンニュイなものを受け取ってもらえたとしたら、それは私がシンガーに感じていた魅力を、自分の曲で出そうとしている結果だと思います。

――アンニュイな歌が好きな理由は?

Naz : そうですね。たとえば、話している姿がかわいい人っているじゃないですか。

――はい。

Naz : 歌もそれと一緒だと思っていて。歌を歌っている時でも、人と会話をしているでも、女性らしさや綺麗でいることは大切にした方がいいと私は思っています。そして、歌う時も話す時も、歌詞を考える時でも、私は優しくありたいから。何故アンニュイな歌に惹かれるのか? って言われたら、そういうところが理由なのかなと思います。

自然体で捉える世界の音

――メールでインタヴューさせていただいた際、昔は「地球のために何かできればいな」と思っていたと言われていましたよね。

Naz : そうですね。動物が好きだったので始めは獣医になりたいと思っていました。でも、そうすると動物を助ける毎日になるじゃないですか。それよりも環境とかを改善する活動にも興味があったので、まずは自分が影響力のある人間にならなきゃいけないなと思ったんです。それで発言に力を持つために歌い始めて、今は音楽に夢中になったという感じです。
――今も影響力を持てるくらいの存在になったら、そういうことにも目を向けていきたい?

Naz : はい。私が考えるよりもずっと広い視野でその分野で活動している団体があると思うので、そういうところと一緒に話をしていきたいです。

――僕はそういう発想自体がNazさんの資質なんじゃないかと思っています。音楽的なことだけじゃなく、色んな意味で世界というものを凄く身近なものとして捉えていると思うんです。

Naz : はい。

――だからNazさんは、イギリスで音楽をやるということも凄くナチュラルに考えられているんじゃないかと思うんです。

Naz : 海外の映画や音楽に触れてきたっていうこともあると思うんですけど、幼い頃から親が日本の音楽をあまり聴かなかったこともあって。音楽と言えば海外の曲、というのが自分の中にありました。なので日本の歌詞を歌おうっていう発想が私の頭にはなくて、音楽をするんだったら海外かなっていうのは最初から思っていました

――留学するイギリスでは、具体的にどんな活動をしていこうというヴィジョンは持っていますか?

Naz : 現地に行ったことがないので、今あの国のシーンでどんな事が起こっているのか、どういう状況なのかがわからないんですけど。向こうの音楽やカルチャーに沢山触れて、音楽をやっている人達と繋がっていきたい。そこで教わっていく中で見えてくるものがあるんじゃないかと思います。

――何かコミュニティを築きたい?

Naz : 私が実力を磨いてからの話だと思うんですけど、一緒に何かできたら嬉しいことですね。でも、それはイギリスに限ったことではなくて。アメリカのシンガーだったり、私の出身の沖縄のアーティスト、ダイ・アントワードを輩出した南アフリカのアーティストも含めて、世界で何かできたらいです。

――最初に言葉にして伝えるのが得意じゃないと言われていました。音楽や歌は、海外でもコミュニケーションツールになると思いますか。

Naz : そうかもしれないですね。音楽と映画は世界共通語じゃないですか。コミュニケーションも、音楽や映画を見ているのと見ていなのとでは違うと思います。
――イギリスで音楽をやっていくということに関して、どのくらい野心を持っていますか?

Naz : あんまり、やるぞ! っていう感じではないです。「世界に行きたい」というよりも、「日本だけでやる必要はない」っていう感覚ですね。そして自分が一番気持ちいいと思えるものや、一番カッコいいと思えるものものを追及して作品にしていって、それを聴いてくれた人にいいと思ってもらえたら嬉しいです。完璧なものができて評価してもらえなかった時は、これ以上できないと思えるはずだし、自分が違うと思うもので評価されても嫌だから。あくまでも自分が良いと思えるものを追及していきたいと思っています。

Naz 新譜情報

「JUQCY」 ※読み:ジュクシ
発売日:2019/07/24(水)
収録曲:5曲
価格:¥1,800(税抜)
NCS-10232
4988002788279
Label:SENT
Distributor:SPACE SHOWER MUSIC

01 White Lie ※6/7(金)先行配信・MV公開 Music:Ayatake Ezaki(WONK) Words:Kento NAGATSUKA(WONK) Produce & Arrange:Ayatake Ezaki(WONK) Arrange:Kan Inoue(WONK) 02 Clear Skies Music:Keiichi Tomita(TOMITA LAB) Words:Lori Fine Produce & Arrange:Keiichi Tomita(TOMITA LAB) 03 Rain Wash Music:Naz Words:Naz Produce & Arrange:Keiichi Tomita(TOMITA LAB) 04 Fare ※5/10(金)先行配信・MV公開 Music:Naz Words:Naz Produce & Arrange:Ayatake Ezaki(WONK) Chorus:Kento Nagatsuka(WONK) Arrange:Kan Inoue(WONK) 05 These Boots Are Made for Walkin’(Nancy Sinatra Cover) Music:Lee Hazlewood Words:Lee Hazlewood Sound Produce & Arrange:Ayatake Ezaki(WONK)

「White Lie」が、ストリーミングサービスおよびiTunes Store、レコチョク、moraなど主要ダウンロードサービスにて6/7より先行配信スタート!
※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music
※ミュージックビデオはApple Music、YouTube Music、RecMusic、dTVでご覧いただけます。
https://jvcmusic.lnk.to/White_Lie

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Youtubeチャンネル
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イベント情報

■SENT presents JUQCY NIGHT
8/2(fri)20:00 START at hotel koé

-ACT-
冨田恵一(TOMITA LAB / Music Selector)
江﨑文武(WONK / Music Selector)
※入場無料のイベントになります。フードドリンクは通常通りの営業となります。
http://hotelkoe.com/culture/8-2%EF%BC%88fri%EF%BC%89sent-presents-juqcy-night/

■東京・代官山 蔦屋書店
Naz “JUQCY“リリース記念インストア ミニライブ&サイン会
開催日時:2019年8月5日(月) 20:00~
場所:蔦屋書店3号館 2階 音楽フロア
*観覧フリー
イベントに関するお問い合わせ:代官山 蔦屋書店 TEL:03-3770-2525

■沖縄・タワーレコード那覇リウボウ店
Naz “JUQCY“リリース記念インストア ミニライブ&サイン会
開催日時:2019年8 月24日(土) 14:00~
場所:タワーレコード那覇リウボウ店 店内イベントスペース
*観覧フリー
イベントに関するお問い合わせ:タワーレコード那覇リウボウ店 098-941-3331

世界へと向かうソウル界の新星・Naz。確固たる音楽観に迫るはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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