(C)2019「天気の子」製作委員会

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【アニメコラム】『天気の子』 新海
誠監督が今描く「セカイ系」の物語

 2016年に『君の名は。』で歴史的大ヒットを記録した新海誠監督の最新作『天気の子』が公開された。
 本作は、天候の調和が狂っていく時代の東京を舞台に、離島から上京した家出少年・帆高と不思議な力を持つ少女・陽菜が出会い、運命に翻弄されながらも自らの生き方を「選択」する物語。
 鑑賞後、筆者は、新海監督作では『言の葉の庭』(13)でも描かれた緻密な雨の描写や、『君の名は。』で作品を一層美しく見せる相乗効果をもたらしたRADWIMPSの曲とのコラボレーションが、本作でも輝いていると感じた。
 それに加えて、挑戦的とも言える都会の猥雑な描写や、天気を操る少女などの舞台装置も面白く、予備知識がなくとも、面白く見られる作品に仕上がっているのではないだろうか。ただ、設定の掘り下げ方が駆け足気味だったことや、主人公たちの「選択」については、賛否が分かれるところがあるかもしれないと思った。
 そして、本作を見て最初に頭に浮かんだのは、これは新海監督による新たな「セカイ系」の物語だということだ。「セカイ系」とは何かというと、大きくはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(95~97)の強い影響を感じられる作品群のことで、思想家の東浩紀の著作『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』(07)によれば、「主人公と恋愛相手(きみとぼく)の小さく感情的な人間関係を、社会や国家のような中間項を挟むことなく、『世界の危機』『この世の終わり』などといった大きな存在論的な問題に直結させる」作品群のことを指す。
 代表的な作品としては、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』(01~03)、高橋しんの漫画『最終兵器彼女』(01~02)、そして新海監督の短編アニメ映画『ほしのこえ』(02)などが挙げられる。アニメファンの間では、よく知られているジャンルの一つであり、新海監督はこの文脈の中で語られることが多いクリエーターの一人でもあった。
 セカイ系作品では多くの場合、物語の終盤で、世界の平和とヒロインのどちらを選ぶかの「選択」を迫られるときがくる。そういう意味で、本作はそれに連なるものだと言えるし、この「選択」の結果には賛否が分かれると思われる。
 セカイ系は、おもに2000年代に隆盛を極めたジャンルであり、2010年代も終わる今になって、これほど濃密な「セカイ系」に再び相まみえるとは…と驚いたファンも多いはずだ。筆者は、本作の源流の一つとも言えそうな新海監督の『雲のむこう、約束の場所』(04)も含めて、改めてセカイ系の諸作を見返してみたくなった。
 いずれにせよ、製作発表会見でRADWIMPSの野田洋次郎が、本作について「(前作の大ヒットを受けて今回は)分かりやすくマス(大衆)に向けた物語を描くと思っていたが、攻めていて新海節がさく裂している。賛否を巻き起こすんだろうな」と語ったように、大ヒット作の後を、あえてこういう作風にした、新海監督の心意気が感じられる映画だったといえるだろう。
 最後に、劇中で最も印象に残ったあるキャラクターの言葉を紹介したい。「世界なんてどうせ、もともと狂っているんだからさ」。バブル崩壊後に生まれ、現在も将来にも閉塞感しか抱けない世代に属す筆者には、自分の思いを代弁してくれているかのような、深く胸に突き刺さる言葉だった。(江風葵)

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