『みんなのレオ・レオーニ展』レポー
ト 絵本『スイミー』の原画を含む約
200点を一挙公開!

絵本『スイミー』の作者として知られるレオ・レオーニ(1910-1999)の幅広い制作活動を紹介する展覧会『みんなのレオ・レオーニ展』(会期:〜2019年9月29日)が、東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館にて開催中だ。
会場エントランス
『ぼくのだ! わたしのよ!』原画 1985年 アニー・レオーニ氏所蔵

本展は、生涯で40冊近くの絵本を制作したレオーニの絵本原画を中心に、ポスターのグラフィック・デザインや、絵画、彫刻など約200点を展示するもの。その中には、世界中で愛されている絵本『スイミー』の原画5点や、生前のレオーニが自身の作品について語る、貴重なインタビュー映像なども含まれている。さらに会場には、絵本原画と絵本を比較しながら鑑賞できる読書スペースも設置されている。
原画と見比べながら絵本が読める読書スペース
アニメ「スイミー」作画素材によるコラージュ 1967年 アントネッラ・アッバティエッロ氏所蔵

1910年にオランダのアムステルダムに生まれたレオーニは、15歳の時に、イタリアに移り住む。その後、第二次世界大戦中にアメリカに亡命し、戦後はアメリカに帰化した。生涯の前半はアメリカを中心にグラフィック・デザインの世界で活躍し、絵本の世界に足を踏み入れたのは50代の頃。絵本制作と並行して、絵画や彫刻などの芸術作品も手がけていたという。
展示風景
「想像肖像」シリーズ 展示風景

レオーニの孫にあたるアニー・レオーニ氏は、以下のようにコメントした。
「レオの絵本の中で扱っているテーマは文化を超えて理解されるものであり、世代を渡って魅力的な作品だと思います。私たちの孫やひ孫たちも、レオの本を読むと思いますし、彼らは好奇心があるので、それをきっかけとしてレオのほかの作品も見つけていくでしょう。そして、時を超えてこれが続いていくと思います」
アニー・レオーニ氏
レオ・レオーニのオリジナルグッズ

一般公開に先立ち催された内覧会より、本展の見どころを紹介しよう。
幼い頃から芸術家を夢見たレオーニ
本展は、レオーニの人生をめぐる4つのキーワードから構成され、第1章「レオとアート」では、アートをテーマにした絵本3冊と、レオ自身が描いた絵画を紹介している。
母親がソプラノのオペラ歌手であり、建築家の叔父やモダンアートのコレクターだった叔父がいたこともあり、「アートに囲まれた環境と恵まれた才能によって、アーティストとしての素地を形成していった」と話すのは、損保ジャパン日本興亜美術館・主任学芸員の江川均氏。文化的な環境の中で育つことで、自然と芸術家になりたいという夢を抱くようになっていたという。
20代の頃から油絵を描きはじめたレオーニは、1947年にニューヨークで初の個展を開催する。《ジプシー》は、その個展に出品された作品のひとつ。
右:《ジプシー》 1945年 アニー・レオーニ氏所蔵 左:《ヨーリオの娘(オイディプス王)》 1946年 アニー・レオーニ氏所蔵
また、80歳の頃に描いた《黒いテーブル》シリーズは、少年時代の思い出の品々や記憶を閉じ込めた作品。レオ自身が、本作について「これは私の秘密の日記です」という言葉を残しているそうだ。
左:「黒いテーブル」シリーズより女王万歳 1991年、中央:同シリーズより遊びの時間 1992年頃、右:同シリーズより月に憑かれたピエロ 1992年 いずれもアニー・レオーニ氏所蔵
作者の分身である主人公が活躍する絵本たち
第1章で紹介される3冊の絵本『フレデリック』、『おんがくねずみ ジェラルディン』、『マシューのゆめ』に登場するキャラクターは、すべてネズミが主人公になっている。詩人や音楽家、画家に扮するネズミたちは「芸術家としてのレオが投影されていて、作者の分身として描かれている」と江川氏。
『フレデリック』原画 1967年 アニー・レオーニ氏所蔵
『おんがくねずみ ジェラルディン』原画 1979年 アニー・レオーニ氏所蔵
『マシューのゆめ』原画 1991年 アニー・レオーニ氏所蔵

第2章「自分探し」では、少年時代、両親の仕事の都合で欧米諸国を転々としてきたレオーニが、行く先々で社会に適応していく一方で、「自分は一体何者なのか?」という疑問をきっかけにして生まれた絵本の原画を紹介している。江川氏は、「いずれも主人公が人とは違った自分を肯定して、前向きに生きようという姿が描かれている。これは、人と同じであることを求めなかったレオ自身の姿でもある」と説明した。
コーネリアス』原画 1983年 アニー・レオーニ氏所蔵
本章では、生まれながらに立って歩けるワニの『コーネリアス』や、モザイクのような断片が主人公の『ペツェッティーノ』など、5冊の絵本原画が展示されている。
『ペツェッティーノ』原画 1975年 アニー・レオーニ氏所蔵
レオーニの絵本には、紙を貼り付けるコラージュの手法が多く用いられる。ネズミの毛は、紙を手でちぎることで表現し、植物の葉などのすっきりした線はナイフやハサミを使って貼り付けられているとのこと。『アレクサンダとぜんまいねずみ』には、日本の千代紙が切り取って使われている。モチーフに応じて表現手段を使い分けているレオーニの技法にも注目したい。
『アレクサンダとぜんまいねずみ』原画 1969年 アニー・レオーニ氏所蔵
幻の原画とされた『スイミー』の原画5点が来日!
本展では、赤い色をした兄弟たちの中で、唯一黒い色の魚であるスイミーを主人公にした絵本の原画が展示される。スロバキア共和国の首都で、隔年開催される絵本原画コンクール「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」の第1回展で金のりんご賞(第2席)を受賞した本作は、スロバキア国立美術館に原画が収蔵された。
『スイミー』原画 1963年 スロバキア国立美術館蔵
ところが、この原画は実際の絵本に使われたイラストとは異なり、どのような経緯でこうした原画が作られ、収蔵されるに至ったのかは明確な答えが出ていない。本展では、原画の隣に絵本に掲載されたイラストのパネルが展示されることで、両者の違いを見比べられるようになっている。江川氏は、「いずれにしてもレオの原画に変わりないので、印刷物とは違うみずみずしい原画の魅力を、来館者の方に味わっていただきたい」とコメントした。
『スイミー』原画 1963年 スロバキア国立美術館蔵
『スイミー』原画 1963年 スロバキア国立美術館蔵

グラフィック・デザインの仕事から、
アニメーションの作画素材を使ったコラージュまで
第3章「平和を求めて」では、平和の大切さを表した絵本を紹介している。
『ひとあし ひとあし』原画 1960年 アニー・レオーニ氏所蔵
ベトナム戦争に対する反戦の意識から、平和への思いを込めた『あいうえおの き』では、スタンピング(型押し)の技法を使って、葉っぱを描いている。
『あいうえの き』原画 1968年 アニー・レオーニ氏所蔵
仮面を手に入れたネズミたちを主人公にした『みどりの しっぽの ねずみ』の原画は、「絵本としては珍しく油絵で描かれている。油絵の濃厚な雰囲気が物語の内容に合っているのではないか」と江川氏。
『みどりの しっぽの ねずみ』原画 1973年 アニー・レオーニ氏所蔵
本章では、レオーニのグラフィック・デザインの世界も併せて展示。25歳の頃にイタリアでデザインを手がけた初期の作品から、アメリカでアート・ディレクターを務めていた時代の作品まで、「20年以上にも及ぶデザイナーとしての活動や経験が、その後の50歳頃からはじまる絵本制作や絵画、彫刻作品の創作に活かされている」と江川氏は解説する。
右:羊毛繊維工業会社ロッシ広告ポスター 1935年 アニー・レオーニ氏所蔵
展示風景

たとえば、レオーニが70歳代の頃に描いた《空気》シリーズは、油絵の中でもグラフィック的な要素が強い作品群となっている。
右:「空気」シリーズより出会い 1986年頃、中央:同シリーズより浄液その1 1986年頃、左:同シリーズより橋 1986年頃 いずれもアニー・レオーニ氏所蔵
第4章「リアル?フィクション?」では、現実とフィクションが入り混じったようなレオーニの絵本や絵画、彫刻が並ぶ。少年時代に、ガラス容器に植物を入れて、カエルやカタツムリなどの小動物を飼う「テラリウム」を持っていたレオーニ。その経験が元になり、『せかい いち おおきな うち』といった、動植物をリアルに描いた作品が生まれていく。
『せかい いち おおきな うち』原画 1968年 アニー・レオーニ氏所蔵
『うざぎを つくろう』原画 1982年 アニー・レオーニ氏所蔵

さらに、レオーニが作り出した架空の植物群「平行植物」シリーズの油絵や彫刻作品も紹介。1969年にイタリア中部のトスカーナ地方に移住したレオーニは、周囲の自然にインスピレーションを受けながらイメージを膨らませ、想像上の植物を生み出したという。
「平行植物」シリーズ 展示風景
展覧会終盤では、レオーニの絵本をもとに制作されたアニメーションの作画素材を使ったコラージュ作品も見られるので、こちらも併せて楽しみたい。
アニメ「フレデリック」作画素材によるコラージュ 1967年 アントネッラ・アッバティエッロ氏所蔵
『みんなのレオ・レオーニ展』は2019年9月29日(日)まで。レオーニの魅力を多角的に紹介する機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

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