村上春樹の強い思いが込められた『神
の子どもたちはみな踊る after the
quake』とは~1995年、世界が震撼し
た2つの出来事の狭間で起きた物語
この日、兵庫県の明石海峡を震源とする阪神・淡路大震災が起こり、震源に近い神戸市を中心にその被害は甚大で、死者の数は6000人を超えた。
あのとき感じた自然の脅威と人間の無力さは、24年経った今でも心に張り付いたままである。
村上春樹はなぜ時間設定を2月に限定したのか。それは、同年3月20日に地下鉄サリン事件が起きたことが大きな理由である。
『アンダーグラウンド』に収録されている解題(著者による解説)によれば、村上は長い期間にわたって日本を離れ外国で生活しており、1995年当時はアメリカ在住だった。長い海外生活の中で徐々に「日本についてより深く知りたい」という思いを強くし、「そろそろ日本に帰ろう」と思っていた矢先、世界中に衝撃を与える二つの大事が立て続けに起きたのだという。この二つの出来事を、村上は「『それらを通過する前とあととでは、日本人の意識のあり方が大きく違ってしまった』といっても言い過ぎではない」としている。それぞれの大きさはもちろんのこと、短期間の間に続けて起きてしまったことへの驚きと恐れを強く抱いていることが伝わってくる。天災と犯罪という違いはあるが、一方は地震、もう一方は地下鉄が現場となり、どちらも「地下」から「悪夢」が吹き出してきたというつながりを村上は感じていた。村上は「地下の世界は私にとって、一貫して重要な小説のモチーフであり舞台であった」として、特に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年、新潮社)と『ねじまき鳥クロニクル』(1994年~1995年、新潮社)において「地下」が中心的な役割を果たしていることにも言及している。
「かえるくん~」は、これから東京を襲う大地震を未然に食い止めたいという蛙が、片桐という普通の青年に協力を求めにやってくる、という奇想天外な冒険活劇の要素もある物語だが、その一方で「蜂蜜パイ」は、小説家の淳平、淳平の大学時代の同級生でシングルマザーの小夜子、小夜子の元夫・高槻といった登場人物たちの過去と現在の心の動きと、小夜子と高槻の娘・沙羅があの地震以降、悪夢にうなされるようになったことで少しずつ変わっていく彼らの関係性を繊細に描いた作品だ。
原作ではそれぞれ独立した繋がりのない作品だが、「蜂蜜パイ」の淳平が「かえるくん、東京を救う」を書いている小説家という設定で、「かえるくん~」が劇中劇のような形となり、2つの作品が同時に進行する。
沙羅は悪夢に登場する「地震男」に悩まされ、かえるくんは地震を止めるべく東京の地下に潜る。「地下」「地震」というキーワードを介在すると、関連性がないように見える二つの物語が繋がってくる。
内閣府 防災情報ページ
村上春樹著書『アンダーグラウンド』
SPICE
SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。