高良健吾×西川可奈子『アンダー・ユ
ア・ベッド』インタビュー 人を傷つ
けるかもしれない表現に何を覚悟し、
どう理解して役に臨むのか

7月19日(金)から、映画『アンダー・ユア・ベッド』が公開中だ。KADOKAWA とハピネットの共同製作する『ハイテンション・ムービー・プロジェクト』第二弾として公開される本作は、4月12日公開の第一弾『殺⼈⻤を飼う⼥』と同様、大石圭氏の同名小説を映画化したものだ。メガホンをとったのは、『氷菓』などで知られる安里麻里監督。劇中で描かれるのは、誰からも必要とされず、存在を無視されてきた男・三井の物語。三井は、学生時代に初めて名前を呼んでくれた女性・千尋と11年ぶりに再会し、別人のように変わっていた彼女に執着するように。やがて彼は千尋の住居に侵入し、ベッドの下から彼女を監視し続けるようになる。現実ばなれした三井の異常な行動を描きつつも、社会から孤立した人々の心情や、目を覆いたくなるほどの陰惨なDV・性暴力など、生々しい描写で観るものの心をえぐる本作。三井役の高良健吾と千尋役の西川可奈子は、何を思いそれぞれの役柄を演じたのか。役づくりから、R18+(18歳未満の入場・鑑賞禁止)となった激しい映像表現、作品が観客に与える影響まで、じっくりと語ってもらった。
共感ではなく「理解する」アプローチ
高良健吾 撮影=早川里美
――とても生々しいのに、非現実的な状況で物語が展開する、不思議な映画だと思いました。“誰にも気づかれずに生きてきた”という、三井の特異な人物像については、理解できましたか?
高良:ぼくは“共感”はできなくても、“理解”はできます。何かの役を演じるときに、自分にとって共感することはあまり重要ではなくて、理解できるかできないかが大事だと思っているので。そういう意味では、どんな役でも、どんな人間であっても、一応の理解は出来ます。その役が自分の好みであるか、実際にやるかどうかとなると、それはまた別の話になりますが。その上で、“誰からも忘れ去られた”三井という人物については、確かにそういう人もいるのかな、という気がするんです。誰からも認められず、自分でも自分のことを認められない。忘れ去られて、気づいてもらうことすらない。そういう人が「誰かに認めてもらいたい」と願う気持ちは理解できます。演じる上では、そこに自分を落とし込んでいくというか。
――三井のような男性は、身の周りにもいる?
高良:「認められたい」と願う人は、たくさんいると思いますよ。今は自分をアピールできる場所が多いぶん、そういう欲求もあると思います。だから、「三井のような人が周りにいるからわかる」というよりは、そこに至るまでの“原因”が理解できるということですね。
左から、西川可奈子、高良健吾 撮影=早川里美
西川:私は、(三井のような人物になるかどうかは)紙一重だと思っています。ひょっとしたら、わたしもそうなっていたかもしれない。私は家族や周りの人たちが支えてくれる環境があったから、そうはならなかったけど、誰もがなりうるというか……誰からも無視され続けて、生きることを選ばない人もいるじゃないですか。三井くんはそうならず、もう一度名前を呼ばれることが、生きる目的になった。何かに生きがいを見いだす人は沢山いると思うので、あり得ないとは思わないです。
――大学時代に一度だけ名前を呼ばれた相手に執着する、という部分については、どう思われますか?
高良:誰からも認められず、親からも無視されてきた人間が、「三井くん」と呼ばれたことで、自分の存在が初めて輝くことになるので、そこに執着して、囚われるというのは理解できます。だから、その時に飲んでいたコーヒー(マンデリン)も忘れられない。「三井くん」と呼ばれるのは、自分が存在してこそのことだから、その一言で今まで認められなかった自分が変わる。三井は、それだけの純粋さを持っているんです。三井が育てているグッピーも同じで、彼の存在が無ければ成り立たない。何かを育てるということは、そういうことですよね。グッピーが生きていくには、三井が必要。だから、共感というよりは、理解できるんです。西川さんが言ったように、紙一重ですよね。
(c)2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会
――三井と千尋の間にあったものは、愛なんでしょうか?
西川:千尋は、「誰かが見ていてくれている」ということが救いになっていて、生きてこれたんです。それまでは、いつ殺されるかわからない状況で辛うじて生きていて。親にも、友達にも、誰にも言えない日々の中で、「誰かが私を見ていてくれている」と気づく。三井くんの存在自体が、千尋にとっての唯一の“救い”なんです。だから、それが愛かどうかは、正直わからないですね。何か言葉を交わすわけでもないですし……対象が見えない愛というのも、存在するのもかもしれないですけど。
高良:「認められたい」と思っている登場人物ばかりだよね。
高良健吾 撮影=早川里美
――三井は、警察や知人に相談することも出来たのに、あえて千尋を監視し続けることを選びます。彼の行動について、疑問を持ちませんでしたか?
高良:簡単に答えてしまうと、台本に書いてあることなので、やらなければいけないということだと思います。やらなきゃいけない、というのがスタートなので。
――「こいつ、おかしいだろ」と思いながら、最後になって三井に少しだけ共感する……そんな複雑な気持ちで観ていました。
高良:たぶん、その気持ちは間違いではないと思いますよ。共感することは、難しいと思います。ぼくたちも、共感してもらおうと思って作っているわけではなくて。役を演じるにあたって、共感を大事にする方もいらっしゃいます。でも、それがなくてもできるんじゃないかな、と。ぼくは最近、ひょっとしたらそのくらいのほうが面白いかもしれないな、という気がしているんです。自分ではっきり白黒つけてしまうより、もう少しグレーゾーンがあったほうがいい。それが、「共感よりも理解」ということなんじゃないかな、と思います。この現場では、そう思うことが多かったですね。
高良健吾 撮影=早川里美
DVや性暴力を描くということ
西川可奈子 撮影=早川里美
――西川さんの演じられた千尋は、夫から暴力や性的虐待を受けます。あまりにも陰惨なシーンが多かったのですが……どこまでやる覚悟だったのでしょう?
西川:もう、どこまでも、という気持ちでしたよ。それが作品に必要な画であれば。安里監督の中には、「この画はこのために必要」という、緻密な画のイメージがきちんとありました。もしそれが無駄な画だったら、私も演じていなかったです。今回の場合は「この表現がないと、次に響かない」ということがわかったので、躊躇することはありませんでした。
――高良さんから見て、現場での西川さんは、いかがでした?
高良:「今日のシーンは大変だろうな」と思うような撮影で、一番明るかったのは西川さんでしたよ。
西川:(笑)
高良:それが西川さんの居方というか、その先に何かがあるんだろうと思うんですけど。この作品をやると決めたところで、みんなが腹をくくっていたので、そういう(陰惨な)シーンでも変に遠慮はなかったですし、西川さんも“遠慮されないように”そこに居ました。だから、みんなイケイケで。
西川:熱量のある現場でしたね(笑)。
(c)2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会
――暴力的なシーンについては、人を選ぶのではないか、と思いました。リアルすぎて、例えば実際にDVや性暴力の被害にあったような方には薦めにくい。作品が与える影響について、気にすることはありますか?
高良:台本を読んで演じているときは、「お客さんにどう伝わるんだろう?」といったことは、あまり考えないです。やると決めて現場に居るときは、カメラの向こう側はあまり意識していないですね。確かにこの作品には、DVや性被害にあった人には薦めにくい、という部分もあるとは思います。でも、映画づくりは“そこ”じゃないと思うんです。やると決めた時点で、そこも込み込みだったというか。こういう題材だからといって、説明的になったり、自分からお客さんに寄り添い過ぎてしまったりすることは、作品にとってはマイナスだと思うので。だから、現場では極力考えないようにしています。宣伝が始まった段階で、「これは言っちゃだめだ」といったことを、考えたりはしますが。
西川:私は、逆に逃げちゃいけない表現だと思っています。DVや性暴力の被害というのは、発信していかなければいけない問題じゃないですか。日本だけじゃなくて、世界的に見ても、DVや性犯罪は存在していて。実際に、私も千尋を演じなければ、気づかないことがかなりありました。例えば、女性にも問題があるから、男性がそうなったんじゃないか、とか。そういう、上っ面しか見ていなかったところもあって。千尋を演じてみて、こんな環境に置かれて、コントロールされていたら、人間は通常の判断は出来ないんじゃないかと思いました。
左から、西川可奈子、高良健吾 撮影=早川里美
――DVや性的虐待を描く作品の場合、シェルターや警察が描かれないこともありますが、本作では、千尋がコントロールされているから登場しない、という理由付けがありますよね。
西川:そうですね。「逃げればいいじゃないか」と言う方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな余裕があったら、逃げていると思うんです。子どもを守らなきゃいけないんですけど、「何のために生きているの?」と聞かれて、「子どもを守るため」とだけ言える人は、まだ余裕がある人なんじゃないかな、と。「この人に殺されないように生きている」と思うくらい張り詰めた環境で生きている人って、「怒られるのは自分のせいだ」とマインドコントロールされている状態だったりするんじゃないか。そういうことは、演じてみなければわからなかったことでした。だから、こういうシーンのある作品は、むしろぶつけていくべきものなんじゃないかな、と思います。
西川可奈子 撮影=早川里美
高良:これは、ぼく個人の経験に基づいた話になるんですけど……映画に傷つけられたり、トラウマになったりすることもあるじゃないですか。ただ、ぼくはそこから初めて感じたことや学んだこと、映画を通して初めて向き合うことが多かったんです。この映画にはDVや性暴力が、描こうとしたわけではないですが、存在はしています。それによって何かを考えなければいけなかったり、何かが始まったりするのであれば、この作品が映像になったことに意味があると思います。描かれている内容の細かい部分は、映画の中の物語だとは思っていますが。
西川:きっかけになればいいですよね。シェルターや警察については、描けばキリがないですけど。この作品をきっかけに知ることがあったり、意識改革があったりすればいいな、とは思います。ただ、これを観ることでDVが減るか?と言われれば、そういう作品ではないな、と。DVや性暴力を全面に描いたものではなくて、三井くんという“もう一度名前を呼ばれたい男”のお話なので。
西川可奈子 撮影=早川里美
――最後に、この作品を通して得た一番大きなものを教えてください。
高良:役の問題を、自分のものにしすぎちゃうとダメだな、と思いました。10代後半から20代中盤くらいまでは、こういったヒリヒリとした役の問題を、自分のものとして考えすぎていた部分があったんです。「役にならなければいけない」と。実際には、「なりきれない」と、今は思っています。役として居るということは、「なりきる」こととは別のところでやれる気がしていて……そういうことに挑戦させてもらえる、30代最初の作品でした。そこで、色々と思うことが多かったというのが、この現場で得たことですね。これは、自分の中では大きな問題なんです。
西川:この現場はとても熱量があって、とにかくキャスト、監督、スタッフのみなさんが勝負しているな、ということが、言葉がなくても感じ取れました。そういう環境で、2週間ずっと缶詰め状態でやらせていただいたことは、すごく大きな経験でした。そういう現場に毎回出会えるわけではないので……とてもありがたかったです。
左から、西川可奈子、高良健吾 撮影=早川里美
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映画『アンダー・ユア・ベッド』は公開中。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=早川里美 スタイリスト=渡辺 慎也(Koa Hole inc) SHINYA WATANABE (コアホール) ヘアメイク=高桑里圭 タカクワ リカ

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