シンプルかつエッジの効いた
AC/DCサウンドが炸裂する
『地獄のハイウェイ』
映画『スクール・オブ・ロック』
映画の内容についてはここでは記さないので、もし、この映画を観ていないAC/DCファンがいるなら観ることをお勧めする。少なくとも主役のジャック・ブラックは、アンガス・ヤングそのものの姿(短パンでギブソンSGを弾く)で出ているし、AC/DCをはじめ、ザ・フーやジミヘンなどの映像が少しではあるが登場するのだ。最後のバンドコンテスト(実際にキャストの子供たちが演奏している)では、映画のオリジナル曲「スクール・オブ・ロック」に加え、AC/DCの「ロング・ウェイ・トゥ・ザ・トップ」(『T.N.T.』に収録)の2曲を演奏している。
この映画、全編にわたって、ロックファン(ハードロック系)が喜ぶ会話ばかりで、「MTVがロックを殺した」とか「ジミー・ペイジを知っているか?」「ブラック・サバスは?」などの台詞が次々に出てくる。中級編のモーターヘッドとか、スティーヴィ・ニックスやアレサ・フランクリンなど、一般的にハードロックとは関係ない名前も挙がるが、これぐらいは知って(聴いて)おかないと、という製作者サイドからの楽屋落ちネタなどもあって、音楽好きなら観ておいて損はない。
メンバー交代でグループは
鉄壁の布陣に!
しかし、ベースのマーク・エヴァンスがアンガスと意見の相違から脱退することになり、代わりにアレクシス・コーナーのバックを務めたこともあるイギリスのセッションプレーヤー、クリフ・ウィリアムズが参加、エヴァンスには申し訳ないが、結果的にバンドの強化が図られることになる。この時点でボン・スコットのヴォーカル、マルコム&アンガスのギター、クリフ・ウィリアムズのベース、フィル・ラッドのドラムというメンバーで、これまでで最強の布陣となった。
翌78年、このメンツで5thアルバム『パワーエイジ』をリリース。クリフ・ウィリアムズの参加によって、これまでよりサウンドが重厚になったと言えるだろう。この作品でAC/DCのサウンドはほぼ完成したと言っても過言ではない。信頼できるリズムセクションを得たからか、アンガスのギターは短距離ランナーのようなスピード感に満ちている。
彼らの勢いは止まらず、同年待望のライヴ盤『ギター殺人事件 AC/DC流血ライヴ(原題:If You Want Blood You’ve Got It)』をリリース、全10曲で収録時間は53分、LP時代では最長尺の作品となった。ライヴならではの臨場感とスリリングな緊張感に満ちたアルバムに仕上がっており、ライヴ盤としてロック史に残るアルバムだと思う。
本作『地獄のハイウェイ』について
グループを取り巻く環境の大きな変化があった上で、79年にリリースされたのが7thアルバムとなる本作『地獄のハイウェイ』である。レーベルの要望で何が変わったのか。ランジが得意とするのはアメリカ西海岸の明るいサウンドであり、確かにさわやかさが本作にプラスされているように思う。もちろん、AC/DCの本質はまったく変わらず、『パワーエイジ』で完成された彼らのサウンドはそのままに、すっきり感が少し増した程度である。この少しの違いがセールス面(特にアメリカで)を左右したようで、これまであまり冴えなかった全米チャートで17位に食い込んでいる(イギリスでは8位)。
収録曲は全部で10曲、ハードロックの代表ナンバーとされる「地獄のハイウェイ」をはじめ、最初から最後までAC/DC節が全開の快作となった。余談だが、エドワード・ヴァン・ヘイレンは、影響を受けたAC/DCの作品として『パワーエイジ』と『地獄のハイウェイ』の2枚を挙げている。
このアルバムのリリース後、リードヴォーカルのボン・スコットが不慮の事故で亡くなり、新たにブライアン・ジョンソンを迎え入れることになる。そして、リリースした『バック・イン・ブラック』(‘80)が爆発的に大ヒット、5000万枚を超えるセールスとなった。マイケル・ジャクソンの『スリラー』、イーグルスの『グレイテスト・ヒッツ 1971-1975』に次いで世界第3位の売り上げは、まだ破られていない。ここから世界トップのハードロックグループとして、AC/DCの大躍進がスタートするのである。
TEXT:河崎直人