西山友貴&飯森沙百合の「Atachitac
hi」が「3日満月」とコラボ~小説「
悪童日記」に着想を得たダンス『Pee
pHole』を上演

Co.山田うんの中では背丈は小さいけれど、よく弾むボールのように動き回る二人のダンサー、西山友貴と飯森沙百合。二人で結成したユニットがAtachitachiだ。この夏、長野県松本市の北東部、自然に囲まれたのどかな四賀地区で、アゴタ・クリストフの小説「悪童日記」にインスパイアを受けた新作『PeepHole』を滞在制作していた。滞在先は権頭真由&佐藤公哉が2年前に東京から移り住んだ古民家。権頭はインバル・ピント&アブシャロム・ポラック演出の『100万回生きたねこ』、インバル・ピント&アブシャロム・ポラックダンスカンパニーの『WALLFLOWER』などで演奏。佐藤は東京藝術大学音楽環境創造科卒業後に声、ヴァイオリン、ヴィオラ、ハルモニウム、ホーメイなどを駆使して作曲、演奏活動をしている。3日満月というデュオとしても映画や舞台の音楽を多数手がけている彼らにAtachitachiは音楽を依頼したのだ。その新作について聞いた。
アゴタ・クリストフはハンガリー出身で、この「悪童日記」が処女作。戦争が激しさを増し、双子の兄弟が小さな町の祖母の家に疎開してくる。その日から、彼らの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理、非情な現実を目にするたび、それを克明に日記に書きつける彼ら。戦争が暗い影を落とすなか、二人はしたたかに生き抜いていく――。
西山 私たちは山田うんさんのカンパニーで活動しているんですけど、同い年ということで仲が良く、2015年くらいから独自の作品をつくり始めたんです。もともと私は真由ちゃんと、沙百合ちゃんは佐藤くんと別々に知り合いだったんです。
飯森 佐藤くんとはどこで出会ったんだろう。
佐藤 ミュージシャンに共通の知り合いが多いんだよね。それとランドフェス(街をツアーしながら、ダンサーとミュージシャンによるライブセッションを体験するウォーキング形式のパフォーマンスイベント)で、共演はないけれど、同じタイミングで出演していたり。知り合って3、4年くらいかな。
西山 真由ちゃんと私は『100万回生きたねこ』の再演で。 
真由 まだ20代だったね、お互い(笑)。
西山 真由ちゃんとはその後もやはりインバル・ピント&アブシャロム・ポラック演出の『羅生門』でご一緒しました。沙百合ちゃんと私はずっと個人名で作品をつくっていたんですけど、2018年にユニットを組もうということで、私たちの処女作の『Attachment』という作品からとって「Atachitachi」と名付けました。
飯森 ユニット立ち上げ時に音楽とダンスの即興ライブを企画して、そのときにお二人にお声がけしたんです。YouTubeで二人の曲を流して、即興の練習をさせてもらっていたので。
西山 その公演の後で改めて新作の音楽を、と求愛したんです。
飯森 私たちなんかがお二人にお願いしていいんだろうかって不安だったよね。
佐藤 素晴らしいミュージシャンの知り合いがたくさんいる中で、僕らを選んでくれてありがとうございます。
西山友貴
西山 そんな経緯で去年の夏にワーク・イン・プログレス版をつくろうと8日間ぐらい二人のお家に滞在させていただきました。その作品は東京で5日くらいとある企画で上演したんです。そして今回は完成版のために滞在制作させていただきました。3日満月の音楽は、世界観が美しいのに、独特のヘンなニュアンスがあるところが好き。クセになるし、私たちのダンスにも似ているんです。お二人はほかにもユニットをやっているけれど、それは3日満月独特な気がする。
飯森 私たちも少し変わった愛情表現などをテーマにしているので、合いそうだなと思ったんです。それに私たちは音楽もないまま動き先行で作品をつくることが多いから、世界観が足りない部分があって、二人だったら助けてくださるかなって気持ちがありました。
西山 そうだね。こういうのどうと提案されたときに、動きだけのときとは違うものが見える。私たちが動いているところで、こういう音が欲しいとか、こういうシーンですと説明しなくても感じ取って音にしてくれるクリエイション力が二人にはあって、去年ご一緒したときにすごく信頼ができたんです。
飯森 音楽を聴いて、私たちももう少しこうしてみようかとか、より豊かなものになっていく可能性を感じられるのがうれしかったですね。
権頭真由
真由 よかった、こちらこそありがとうございます。私が二人とクリエイションしていていいなと思うのは、ちゃんと言葉にして、納得して身体に落とし込む作業をしているところなんです。例えば「憎しみ」「愛情」と言ったときに、なんとなく共有するものはあるけれど、実際にイメージするのは4人ばらばらじゃないですか。そういうところを突き詰めて考えている。でも強制するわけでもないし、こういうふうにやるって決めるわけではないけれど、一つずつ確かめながら尊重し合って踊っているのが信頼できますね。
飯森 それは二人でやっているところが大きいのかなあ。
西山 私たちはまったくタイプの違うダンサーだとお互いに思っているんですけど、そこがいい面とそうじゃない面があって、だからこそ擦り合せを稽古でしっかりするのが重要だと思っています。
――そもそもアゴタ・クリストフの「悪童日記」を選んだのはなぜですか?
飯森 いつも自分たちの身体から出てきたアイデアをもとに作品をつくるんですけど、新しいことに挑戦してみたかったんですよ。それがきっかけ。
西山 私たちはゼロから1を立ち上げるよりも、振付家が持っているものに対して自分たちがどう解釈できるかを考えるのが好きなこともあり、小説などから作品を生み出すことができたら面白いんじゃないかと。
飯森 それで演劇をやってる知り合いに紹介してもらったのが「悪童日記」でした。実はアルトーの詩を翻訳している詩人の管啓次郎さんと私たちで、アルトーの詩を朗読して踊るパフォーマンスをしたことがあったんですが、そのときに私たちが踊っている姿を見た菅さんが「悪童日記みたいだね」っておっしゃってくれたんですよ。
佐藤・真由 へえええ!
西山 そのときに私たちもメモってはいたんですよ。
飯森 小説のことは知らなくて、あとで調べるつもりだったんですけど、その数年後に改めて紹介してもらって、「なんか聞いたことがあったぞ」ってノートを見返した(笑)。
西山 運命的と言うと大げさだけど、菅さんも言ってたやつじゃんって。初めはそういうところから始まったんですけど、読んでみるとものすごく衝撃的で、面白かった。
佐藤 二人とも身長が同じくらいなのも面白いよね。
飯森 そうそう、私たちよく似ているって言われるんです。
西山 旅行していても、姉妹なの?って言われることが多いんです。
飯森 なんでだろうね。
佐藤 でも「悪童日記」をやるうえではすごくいい。
西山 双子の男の子が出てくる物語なので、ビジュアル的な部分でビビッと来たのは理由の一つでもあります。
真由 「悪童日記」は私たちもかなり前から読んでいたよね。
佐藤公哉
佐藤 二人とも共通のフェイバリットな小説です。
真由 「悪童日記」をきっかけに、ほかの作品も読んだけれど、演劇や映画、ダンスなどつくる人の興味を引く力、引っかかりのある文章を書く作家だと思った。だから私たちは私たちで二人がどんなふうに踊るかイメージして。去年のクリエイションは少し見せてもらったところで割とポンポンと曲ができたんですよ。
佐藤 もちろん制作に集中していたと思うんですけど、二人の創作テンポがすごく活発で。どんどんつくって、どんどん精査して、カットして振りまとめていくので、僕らも迷わなかった。そのときに作品の重要なポジションを占めるであろうオープニングのテーマ曲も、すぐにいいものができたんです。
西山 本当にその場で歌いながら弾いて、もうできちゃったの?みたいな。ミュージシャン的には普通のことなのかもしれないけど、私たちとしては驚きだった。
真由 去年は小説を象徴するシーンばかりだったから、喚起されるものがあったんだよね。
飯森沙百合
――「悪童日記」はどのようにダンスに置き換わっていくんですか。
西山 小説自体が日記になっているんです。例えば精神を鍛えるとか、身体を鍛えるとか、章ごとに分かれている。私たちはそこからそれぞれ気になっているシーンや言葉、感覚などを書き出して、そこからさらにキーワードを抽出して、これがやりたいと煮詰めていきました。それをシーンとしてダンスにしていくという作業ですね。
飯森 身体的な小説というか、胸をグッとつかまれたり、感覚的に共感できるような生々しさがあったり、そういうところが私たちがやりたいダンスとつながるんです。
西山 作家自身が慣れないフランス語で書いているから、小学生の日記みたいなんです。感情より事実だけをぶっきらぼうに書いている。それが逆に人間の痛みとか残酷さ、愛情、欲望を滲み出させているような感覚があって、それをダンスにできないかということを一番に考えました。
佐藤 直接的に物語と対応していないシーンもあるんですよね。
西山 小説そのままというより、インスパイアを得て、私たちの解釈として出したいです。共感できるものが小説にあったので、それを私たちのダンスを通してお客さんとシェアできないか、ということに挑戦しています。
――3日満月さんのつくられた音楽はどんなイメージですか?
佐藤 テーマ曲は古楽っぽくて、ちょっとストレンジなバロック調の曲です。でも単に綺麗なというよりは奇妙な印象が残るようになっている。また彼女も歌うんですけど、僕も裏声で女性的な音域で歌う。それも双子の少年の物語という設定と、本当に二人いるかどうかもわからない、もしかしたら想像上の兄弟かもしれないということともリンクしているんです。あと僕らがかつてつくったけれど、あまり演奏していない曲の中にもすごくフィットするものもあって使っています。僕ら音楽的なベースは違うんですけど、東欧が二人の共通点なんです。
真由 チェコとか東欧の文化の雰囲気みたいなのも好きだよね。
佐藤 だから今回に関していえば僕らがやりたいこと、自然に自分たちの中から出てくるものが作品の世界観に合致する感覚がある。ついこの間も、二人でヨーロッパに行ってきましたが、その旅の中で得たインスピレーションもまた新たに使えるかなと。僕らはハンガリーではまだ活動していないんですけど、チェコには毎年のように行っていて、プラハだけでなく地方都市でも演奏する機会があったり、舞台芸術に触れたりしています。今回はモラヴィア地方の民謡の生演奏も聞けたんですけど、東欧のフォークロア独特のリズムや身体性にも触れることができて、この作品のためにも良かった。目立つのはツィンバロンという打弦楽器ですけど、コントラバスとかヴィオラ、ヴァイオリンなど弦楽器も伝統的に使われていて、弓で不思議なグルーブ感を醸し出したりするんです。僕は弦楽器をやるので新たなヒントをもらいましたね。だから僕らに声をかけてくださった理由が、僕ら的には腑に落ちる(笑)。
真由 私たちは作曲と演奏という役割ですが舞台上にもいる。今回の旅でいろんなタイプの音楽家とも出会えて、その身体の在り方みたいなものも学びました。日本でダンサーとミュージシャンのコラボというとミュージシャンは動かなくてただ音楽を添える人になりがちだけど、一緒に空間を醸していく立場としての居方、演奏する以外の存在の仕方を考えながらできそうで、面白いんですよね。グルーブ感もそうですが、私たちが演奏しながらそこにいるだけでお客さんには録音とは違うものが伝わるし、私たちの目線一つで印象も変わってしまうから、そういうところも楽しみですね。
西山 もしかしたら動いてってお願いするかもしれませんよ。今回のクリエイションでは、昨年よりシーンも増えて、イメージもかなり変わってきました。小説を読み直すうちに、同じことをやっているんですけど、実はもっとこういう解釈があったかもねということで、視線の送り方、その場での居方とか変わってきているんですよ。
――四賀でのクリエーションについてはいかがでしたか?
西山 やっぱり集中できることが一番です。山の中で、お二人の家に泊めてもらって、
飯森 真由ちゃんのつくる美味しいご飯をいただいて、はかどり具合が全然違います。
西山 東京にいると、ダンサー以外の仕事があったり、いろんなものを抱えて疲れ果ててリハに向かったりする。自分たちのことが一番後回しになりがちなんですよ。さまざまな予定を入れた後に、ここのスケジュールなら自分たちがやりたいことができるという感じでやっていたので、合宿で新作のことだけに集中できるのはすごくうれしい。
飯森 ありがたいよね。
真由 でも東京にいるとやっぱり忙しいんだよ。2年前は私たちもそうだった。
佐藤 みんなそうだから忙しいのが普通になってしまうからね。
真由 そうしていないと、みたいなところもあるし。私たち四賀に引っ越して2年になるんですけど、住んでみてわかることもいっぱいある。その一方で、町会長さんも大家さんもすごく良くしてくださるんですよ。人に恵まれている。
佐藤 こっちは東京と違って四季がはっきりしているから、季節ごとに暮らし方が変わってくるんですよね。
真由 食べ物も違ってくるしね。
佐藤 大家さんや町会長さんがやっている畑の一角を借りているんですけど、僕らが仕事でいないときも多いから、世話もやってくださったりするんです。そこには音楽だけやっているのとはまた違う充実感がありますね。
真由 ようやく帰ってくる場所になってきましたね。それが音楽にどう影響が出ているかはわかりませんけど(笑)。
西山 二人のお家に行くと、ちゃんと生活もして音楽と関わっているのがすごく伝わるんですよね。朝起きて、味わいながら朝ごはんを食べて、夜も稽古して帰ってきてご飯を味わって食べて。
飯森 その後もおしゃべりする時間やボーッとする時間がある。東京だとなかなか考えられないですよね。
西山 そういう意味では、とてもクリエイションにも集中できました。そうやって作った作品だから、多くの方に見ていただきたいですね。
佐藤 僕らもこの作品をいろんなところに持っていきたいなあって話しているんですよ。長野でももちろんやりたいですし。海外にも持っていかれるようにしたいですね。
取材・文=いまいこういち

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