ビッケブランカ「音楽を作る楽しさを
もう1回感じたかった」――胸躍るミ
クスチャーポップ「Ca Va?」が導いた
転機

ドラマ『獣になれない私たち』の挿入歌として一躍注目を浴びた切なきバラード「まっしろ」から一転、世界最大手の音楽ストリーミングサービスSpotifyのCM #音楽さえあればいい「飛行機」編及び「部屋」編で大量オンエアされ、強烈なインパクトを放ったビッケブランカの最新シングル「Ca Va?(サヴァ)」。カップリングには、全世界コミックス発行累計3000万部を誇る、大人気少女漫画『フルーツバスケット』のアニメエンディングテーマ「Lucky Ending」等も収録するなど、シーンがビッケブランカを求める活況の中、彼が迎えていた音楽人生の転機とは――? この夏は、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019』『SUMMER SONIC 2019』『WILD BUNCH FEST. 2019』etc、全国各地の大型フェスに続々出演。10月には過去最大規模にしてキャリア初の東名阪Zeppツアー『Vickeblanka Ca Va Tour』も控えるなど、トップスピードで突き進むポップマエストロが語った、本当の気持ち。ビッケブランカ、インタビュー。
ビッケブランカ
●どこに行っても「俺たちで頑張って行こう!」っていう仲間が、味方が、すごい増えた●
――「まっしろ」以降は特にでしょうけど、ステップアップしてる実感はあります?
そうですね……フフ(笑)。まぁでも、世間を見てそう思うというよりは、周りを見てそう思うというか。自分のために新しいチームを作ってもらったり、どこに行っても「俺たちで頑張って行こう!」っていう仲間が、味方が、すごい増えたなって思う。「Ca Va?」のタイアップにしてもそうだし、その熱量を感じたときに、ビッケブランカがちょっとずつ大きくなってるのかなって思いました。
――リスナーやオーディエンスからの反応自体はどうですか?
この前の東京・新木場STUDIO COASTでのライブ『Voom Voom Room』は、1曲目から「Ca Va?」で始まって、最後も「Ca Va?」で締めた「Ca Va?」サンドみたいな感じで(笑)、新曲なのに「Ca Va?」を2回やったんですよ。今までが四つ打ちとか速いテンポの曲で盛り上がっていたとしたら、また違ったライブのアッパーさが表現できたというか。今までにないアガり方を会場全体でできたのが面白かったですね。
――1本のライブの間に瞬時に新曲を理解して、楽しんでくれた。そういう意味では、お客さんも頼もしいですね。
いろんなライブを観に行ってる関係者の方にも、「ビッケのお客さんは品がよくて、マナーもよくて、本当にいい人たちが集まってる」と言われたんですよ。あとは、「殺伐とした感じがゼロ」だと(笑)。ライブが終わってもダラダラせず、アナウンスがかかったらみんなサーっと帰っていく。「サバサバ」してるんですよ(笑)。「本当に音楽自体を楽しんでる人たちだね」と言ってもらえるので、それを僕は誇りに思いますね。
――それこそ、今は世間のムード的にも殺伐としがちな世の中だからこそ、よりビッケの音楽が求められているのかもしれない。音楽でハッピーになりたいというか。
そうなれたらもう最高ですね。ありがたいっす!
ビッケブランカ
――「Ca Va?」の元ネタ自体はもうだいぶ前からあって、4年前、大失恋をしてフランスに1人旅に行った頃には書いていたと(笑)。
まさにあの時期です(笑)。本当に20~30秒ぐらいですけど、「Ca Va?」ってサビで言う感じとかテンポ感は出来上がっていましたね。
――やっぱり海外に行くと気分が変わりますよね、国内で何をするよりも一瞬で。
あの「全能感」は何なんですかね? 本当にタガが外れて(笑)、いろんなところに行きました。ポールっていう友達に、「ベルサイユ宮殿とかノートルダム大聖堂に行く?」って聞かれましたけど、僕は「2週間みんなと同じ生活をさせてくれ」と言って、アジア人なんて1人もいないようなスラム街のクラブにも行ったりして。誰も自分を知らないし、今からみんなに新しい自分を伝えていける場所というか。
――そこで行き交う人々が「Ca Va?」=「元気?」としきりに挨拶するのが耳に残って。
本当にどの年代もみんなそう言ってましたね。それが面白くて帰国してすぐ曲を作ったんですけど、そのときはイマイチ伸びなかったんですよ。でも、伸びないことなんてしょっちゅうあるんで、そのままほったらかして(笑)。結局、ネタ1つが1曲に育つことはほぼなくて、5つが1曲とかになるんで。例えば、100ぐらいネタがあるとしたら、実質20曲ぐらいにしかならないんで、実はストックはそんなに多くないんですよね。
――でも、「Ca Va?」しかり、ビッケの楽曲のハイブリッドさは、そういう組み合わせの妙からきているのかもしれないですね。
そうですね。そのネタをパズルみたいに、組曲みたいに組み合わせる。しかも、「これとこれは組み合わせたらダメでしょ」というハードルが、めっちゃ低いんですよ(笑)。ただ、取って付けたように並べるのはイヤなんで、同じ曲内で展開して「はぁ?」ってならないラインで音楽的にジョイントさせるのが得意なのかも。
――1曲を1アイデアで終わらせない構成もそうですけど、ビッケって本当に飽き性ですよね。割とそれが人生を動かしているぐらい(笑)。
めちゃくちゃ飽き性ですよ。この服もさっき買ってきたんですけど、ちょっと飽きてきてますもん(笑)
――アハハ!(笑) そう考えたら、この服装はここでしか見られないかもしれない、貴重なカットです(笑)。
●自分もビッケブランカにはぶっ飛んでいてほしかった●
――「Ca Va?」はジャンルのみならず言語も飛び越え、英語・フランス語・日本語が入り乱れても違和感なく聴けます。
まずはフランス語から始まり、サビは「Ca Va?」で入ってノリと勢いと発声のリズムで聴かせる。Aメロで意味を持たせて、Bメロで広げて……ブロック分けをしっかりして、全部のバースに完璧な役割があるんですよ。場面が変わったことが伝わりやすいから、難なく聴けるのかなと思いますね。それがぐちゃぐちゃだと、さすがに聴いていられないと思うので。
――ビートを乗りこなす、言わばミクスチャーロックならぬ「ミクスチャーポップ」というか。Spotifyというグローバルな企業とのタイアップだからこそ、とことん遊んだ曲にしようと。
世界のSpotifyですから、いかにもJ-POPっぽい曲を作ってもしょうがないかなと思って。ちょうど曲が書けなくてゲームばっかりしてた時期でもあったんで(笑)、そのリハビリも兼ねて、いろいろ考えずに音楽を作る楽しさをもう1回感じたかったというか、気分的にも遊び倒したいモードだったんですよね。きっと、はちゃめちゃな曲が出来上がるだろうけど、「ちょっとやり過ぎ」って言われたら、「ですよね!」って言おうぐらいの気持ちで作って(笑)。でも、いざ提案してみたら、「、こういうぶっ飛んだ曲を作ってほしかったんです」という感じで採用してもらえたんで。全ての思惑が一致して最高でしたね。
――ビッケの音楽の味方が増えてきていることを、そういうところからも実感しますね。
本当にそう思います。フランスに行ったときの全能感、「言葉は通じないけど、ルールも分からないけど、このまま行っちゃえ!」みたいな思い切りのよさが、今の自分の気持ちとリンクしたからこそ、この曲を選んだのかもしれない。ここ最近はずっと「どんな曲を作ろうかな?」って頭で考えてたんですけど、「そんなことを考えずに好きに作るのが自分だったはずだ」と気付かされるという意味でも、転機だったというか。もう1回、そこに戻ってこれました。
――そのせいか、「Ca Va?」には「音楽を聴いてワクワクする」という、ビッケの音楽の根本にある衝動が詰まっているなと思いました。
嬉しいです! あと、「まっしろ」っていういわゆるドラマライクな王道のバラードの後に、「もっと分かりやすいポップスで当てにいってよ」じゃなくて、「Ca Va?」みたいな曲を「いいじゃん、面白そうじゃん!」って言ってくれたチームが、何よりもすごいなと思うし。
――ビッケをあまり知らない人からしたら、この落差は多重人格かなと思いますよね(笑)。
そうそう!(笑) でも、このタイミングで中途半端にアップテンポなJ-POPを作っても、「あ、それぐらいの人か」って思われる気がしたんですよ。自分もビッケブランカにはぶっ飛んでいてほしかったんで。あと、いろんなジャンルの音楽をやるなら、それぞれのジャンルの一線の曲と並べても遜色がないクオリティまで持っていかないと、ただの器用貧乏になっちゃうから。僕が徹底的に責任を持つのはそこだけですね。作る曲を「本物」にすればいいだけなんです。
●朗読よりも音楽に乗った方が伝わる、本当にあるべき歌詞の姿●
――カップリングの「Lucky Ending」は、人気アニメ『フルーツバスケット』のエンディングテーマですが、この曲を聴いた原作のファンの知人からも、「これは作品をちゃんと知ってないと書けない詞だ。作品に新しい、あたたかい風を送り込んでくれた」と言われました。
嬉しいですね。だいたい漫画をアニメ化すると、声優が違う、作画が違う、主題歌が違う、世界観が違う、みたいな感じで、賛否両論の否が多くなることもあるじゃないですか。でも、このお話をいただいたとき、「僕が書けばとりあえず間違いない。ナイスチョイス!」って思いました(笑)。それぐらい好きな作品だったし、「やるやん、製作委員会」って(笑)。
――アハハ!(笑) 元々は妹がその漫画を読んでいたことから知ったと。
そうですそうです。実家のトイレに積んであってね(笑)。本当に大名作で、もう少女漫画という枠組なんかじゃ収まらない。全人類に刺さりますから! あの『ハリー・ポッター』シリーズのファンタジー感、伏線の回収、最終的に残るメッセージ……友情も恋愛も描くバランスも含めて、『フルーツバスケット』は全く見劣りしない作品です。マジで読んだ方がいいですよ!
――この曲は「Ca Va?」からは一転、「まっしろ」同様のバラードをオーダーされつつ、3拍子にすることで異なるニュアンスを出す工夫もしていて。
バラードは割とオーソドックスに書いていくんですよ。ゆっくり1つ1つの音を選んでいって、無駄を削ぐ。「Lucky Ending」も、少ない音数の中で確実に行くべき場所に行けてるなと思うし。
――ビッケがタイアップ曲を書くときは、物語の世界観に沿うことが最優先事項で、自分の主張がどうこうではないと言ってましたけど、この曲に関してはちゃんと自分の気持ちも。
何だか自然と乗っていった感じですね。やっぱり元々の漫画の歴史が深過ぎて……湧き出るぐらいの個人的な想いとか、作品への愛が滲み出たのを逆に生かしたというか。ベタベタになり過ぎない絶妙なあんばいで作れたと思ってますね。
――その個人的な想いとしては、母親との別れもあったと。
最後の<違う世界にいても決して違わない>というフレーズが、フルバ(=『フルーツバスケット』)の世界観と、おかんと僕はもう現世と天国で全く違う場所にいるけど、おかんは自分の中で生きているというか……「これからは俺の目から世界を見てくれ」みたいな話を最後にしたんですよ。そういう約束とか、フルバのメッセージ性と完全に合致して。しかも、朗読よりも音楽に乗った方が伝わる、本当にあるべき歌詞の姿なんですよね。詩じゃなくて歌詞というところでも最高レベルのものが書けたし、作品への敬意もあるし、おかんとの思い出もひと言に込められたので。
――そもそもビッケの音楽は、お母さんの誕生日に曲を書いて、それを喜んでもらえたところから始まって。その存在がなかったら今頃、音楽をやっていなかったかもしれない。
本当にそうですね。僕の音楽的素養を作ったのもおかんですから。
――あと、もう1曲のカップリングである「ウララ(acoustic ver.)」は、誰もが思い浮かべるアコースティック・バージョンではなく、もはや楽曲を再構築する勢いで。元々こういうバージョン違いを作るのが好きだったと。
そうなんですよね。音の差し引き、新しいバースの追加、入れ替えとか、いろんなことをやってみて、結構違う感じに仕上がりましたね。
●しっかり準備しなきゃ成せないことを、そろそろやり始めると思う●
ビッケブランカ
――今となっては、何をやってもビッケらしさが失われないことを自覚してると思いますけど、その確信はいつから?
7年ぐらい前、いくらこねくり回してもいい曲ができなかった、たった2ヵ月の経験なんですけど、頭で考えて考えて作った曲が全然よくなくて……何も考えずにやっていく中で自然と一貫性が出てこそ、あるべき姿だろうと思ったんですよ。それができなかったらそこまでだし、できたなら長く続くだろうし。そこからこの博打が始まってるんですけど(笑)。
――「世間はこういう曲を欲しがってるんだろうな」では、満足できる曲ができなかったからこそ……じゃあその博打に勝ち続けてるんですね、ビッケは。
そういうことなんですよ(笑)。ただ、あまりにもいろいろとアウト・オブ・コントロール過ぎるんで、とりあえず自分がやりたい音楽を責任を持って徹底的に作って、その後は周りの人に委ねるしかないところはありますね。それ以上はちょっと手に負えないけど、そこだけは絶対に守るっていう。
ビッケブランカ
――そして、10月にはついに初の東名阪Zeppツアーがあります。
今はちょうど過渡期にあると思ってるんですよ。緊張もしないし、いたって普通にステージに出ていって、みんなと喋って歌う。何となく全部をコントロールできるようになって、自然体のままいいライブができるようになった自負があるからこそ、また逆の方に戻っていくタイミングかなと思っていて。今度はちょっとずつ自分を追い詰めて、難しいことにチャレンジしていく。しっかり準備しなきゃ成せないことを、そろそろやり始めると思う。
――エンターテイナーとして、より楽しませるために。となると、次のZeppツアーが。
ちょうどその始まりになるかもしれないですね。今が自然体で最高の状態だと思うから、これ以上そのまんまでいくとそれは怠惰であり、ダラダラした空間になっちゃうから。
――さっきのアコースティック・バージョンの話じゃないですけど、ビッケブランカ自身もスクラップ&ビルドしていく。
そんな感じはしてますね。やっぱり知らず知らず天狗になる部分もあるだろうし、無意識に人間性は変わるものだと思うんで、たまにはちゃんと自分を顧みないと、あらぬ方向に行っちゃうと思う。もう本っ当に僕、小学生の頃から天狗になりがちなんで(笑)。
――アハハハハ!(笑)
80%の力でもいいライブができるようになってきたときに、100%を出そうとしなきゃいけないというか。そこはもっとね、自分で自分のケツを叩かなきゃいけないですね。余力を残せるようになったからこそ、全力でやらなきゃ意味がないですから。
――全力のビッケ、楽しみですね。
そうそう。これからまた面白くなりそうですよ!
取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)

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