cinema staff、過去のMVから見えるア
ンビバレント性 新曲は静謐と躍動の
歌
cinema staffの楽曲に「Name of Love」がある。テレビアニメ『進撃の巨人Season 3 Part.2』(NHK総合)のエンディングテーマにも起用され、cinema staffとしては約1年ぶりとなるシングルとして今年5月にリリースされた。待ち焦がれていたリスナーの間ではMV(ミュージックビデオ)公開時より話題を集めていた。
このMVは、海の情景が印象的な映像から始まる。ダイナミックな情景描写とミニマルな演奏シーンがマッチした映像には、楽曲に秘められた“アンビバレント性”がそのまま表れているようだ。
“アンビバレント”は、cinema staffの楽曲において避けて通れないキーワードだ。cinema staffの楽曲に秘められたアンビバレント性を、「Name of Love」と合わせ、過去作「シャドウ」「君になりたい」「希望の残骸」を通し、MVから考察してみたい。【五十嵐 文章】
このMVは、海の情景が印象的な映像から始まる。ダイナミックな情景描写とミニマルな演奏シーンがマッチした映像には、楽曲に秘められた“アンビバレント性”がそのまま表れているようだ。
“アンビバレント”は、cinema staffの楽曲において避けて通れないキーワードだ。cinema staffの楽曲に秘められたアンビバレント性を、「Name of Love」と合わせ、過去作「シャドウ」「君になりたい」「希望の残骸」を通し、MVから考察してみたい。【五十嵐 文章】
「Name of Love」
「Name of Love」のMVで一番はじめに印象に残るのは、その映像が静寂から始まる点だ。波打ち際を映し出すモノクロの映像からは波音すら聞こえてこない。次第に、静かなピアノのイントロと共に、映像はゆっくりと海の中へ入っていく。
画面下に、歌詞の英訳が表示されているのも印象的だ。三島想平(Ba)が手掛ける、無駄がなく簡潔でありながら繊細な日本語詞を補完するような、的確な英詞が想像をより一層掻き立てる。
楽曲がスケール感を増していく程に、海や星空の静謐(せいひつ)で壮大な映像と、ミニマルで躍動感のあるモノクロの演奏シーンが静かに混ざり合っていくのが美しい。ピアノを弾きながら狂おしく歌う飯田瑞規(Vo/Gt)の姿とも相まって、楽曲に描かれる“大きな愛”と“ささやかな幸せ”を象徴しているようだ。
画面下に、歌詞の英訳が表示されているのも印象的だ。三島想平(Ba)が手掛ける、無駄がなく簡潔でありながら繊細な日本語詞を補完するような、的確な英詞が想像をより一層掻き立てる。
楽曲がスケール感を増していく程に、海や星空の静謐(せいひつ)で壮大な映像と、ミニマルで躍動感のあるモノクロの演奏シーンが静かに混ざり合っていくのが美しい。ピアノを弾きながら狂おしく歌う飯田瑞規(Vo/Gt)の姿とも相まって、楽曲に描かれる“大きな愛”と“ささやかな幸せ”を象徴しているようだ。
「シャドウ」
2015年リリースのアルバム『blueprint』のリードトラックである「シャドウ」は、現在でもリスナーの間で根強い人気を誇るミディアムナンバー。離ればなれの大切な人を想う気持ちを、飾らない言葉で情感豊かに描いた歌詞が印象的な、疾走感と切なさが同居する楽曲だ。
MVは、“光”と“影”の演出が印象的な映像作品となっている。つかず離れずの距離感で荒野を彷徨う男女の姿を軸にスローモーションで捉えられた草原や空、水しぶき。ゆったりとした情景描写が、絶妙な照明使いで印象的に映し出されたスピーディな演奏シーンと交錯するのが美しい。
とある関係の“終わり”と、なお“続いていく”熱い想いを描き出す歌詞のストーリーとリンクした、静謐さと躍動感が共存するMVだ。
MVは、“光”と“影”の演出が印象的な映像作品となっている。つかず離れずの距離感で荒野を彷徨う男女の姿を軸にスローモーションで捉えられた草原や空、水しぶき。ゆったりとした情景描写が、絶妙な照明使いで印象的に映し出されたスピーディな演奏シーンと交錯するのが美しい。
とある関係の“終わり”と、なお“続いていく”熱い想いを描き出す歌詞のストーリーとリンクした、静謐さと躍動感が共存するMVだ。
「君になりたい」
インディーズ時代にリリースされた楽曲であるにもかかわらず、今でも多くのリスナーに支持される人気の楽曲。流麗なメロディに反して複雑に作り込まれたマスロック的な展開が特徴的だ。
MVの舞台は、とある無人の音楽ホールのステージの上。厳かな雰囲気のロケーションには似合わないほど、ごくカジュアルないでたちのメンバーがそこで演奏を始める。
カットが何回も重ねられ、目まぐるしく変化する映像の中には、狂気に駆られたように演奏するメンバーの姿。楽曲の展開が進むほどに、それに合わせて映像の切り替わり方も変化していくのが秀逸。無人の客席に向かって全力でパフォーマンスを見せる4人の姿は、どこか楽団のような神聖性すら漂って見えてくるのが不思議だ。
静寂と躍動がシンプルに対比された映像が、不思議なインパクトを残すMVだ。
MVの舞台は、とある無人の音楽ホールのステージの上。厳かな雰囲気のロケーションには似合わないほど、ごくカジュアルないでたちのメンバーがそこで演奏を始める。
カットが何回も重ねられ、目まぐるしく変化する映像の中には、狂気に駆られたように演奏するメンバーの姿。楽曲の展開が進むほどに、それに合わせて映像の切り替わり方も変化していくのが秀逸。無人の客席に向かって全力でパフォーマンスを見せる4人の姿は、どこか楽団のような神聖性すら漂って見えてくるのが不思議だ。
静寂と躍動がシンプルに対比された映像が、不思議なインパクトを残すMVだ。
「希望の残骸」
2016年リリースのアルバム『eve』のリードトラックとして発表された1曲。タイトルからして既にアンビバレントなイメージを想起させる楽曲だが、MVにも注目していきたい。
主にメンバー全員が出演する、演奏シーンが印象的なMVが多い傾向にあるcinema staffだが、この楽曲に出演するのは飯田のみ。学校の教室を舞台に、少年の背に語り掛けるように歌う飯田の姿が象徴的に映し出される。
何かを奮起したように駆け出した少年は、大サビで雑踏越しに飯田と対峙する。黒い服を身にまとい、せわしなく行き過ぎる人々に対し、色彩を与えられた少年と飯田の姿は、まるで時が止まったように対照的だ。
風に吹かれ、雨に打たれながら歌う飯田の姿は、“絶望”を通り過ぎた先に“希望”を見出した、少年の未来の姿のようだ。
主にメンバー全員が出演する、演奏シーンが印象的なMVが多い傾向にあるcinema staffだが、この楽曲に出演するのは飯田のみ。学校の教室を舞台に、少年の背に語り掛けるように歌う飯田の姿が象徴的に映し出される。
何かを奮起したように駆け出した少年は、大サビで雑踏越しに飯田と対峙する。黒い服を身にまとい、せわしなく行き過ぎる人々に対し、色彩を与えられた少年と飯田の姿は、まるで時が止まったように対照的だ。
風に吹かれ、雨に打たれながら歌う飯田の姿は、“絶望”を通り過ぎた先に“希望”を見出した、少年の未来の姿のようだ。
文学的でありながらも飾らない言葉たち
cinema staffの楽曲の唯一無二の世界観の源泉は、なにより三島が手掛ける作詞にある。文学的でありながらも飾らない言葉たちが散りばめられた歌詞には、独特の切実さが満ち溢れている。その切実さは、「終わりと続き」「絶望と希望」といった、アンビバレント性に由来しているように思える。
三島の描く歌詞には、綺麗事は一切描かれていない。どんなに明るく輝く希望の光を歌う楽曲であっても、必ず“影”となる感情も合わせて描き出すことで、“光”をより強く見せることに成功している。それも、対照的な感情の間に対立関係が生じているのではなく、それらが渾然一体となった美しさがcinema staffの楽曲にはあるのだ。
人の感情は一筋縄ではいかないもの。清濁併せ呑んだ人の感情を描き出す三島の作詞の世界を、的確に汲み取り映像に落とし込んでいるのが、cinema staffのMVであると言えるだろう。
彼らの楽曲のMVを観ていると、まるで自分自身の心象風景すら反映されて見えるほどだ。あなたはcinema staffの世界に、どんな景色を見つけただろうか?
三島の描く歌詞には、綺麗事は一切描かれていない。どんなに明るく輝く希望の光を歌う楽曲であっても、必ず“影”となる感情も合わせて描き出すことで、“光”をより強く見せることに成功している。それも、対照的な感情の間に対立関係が生じているのではなく、それらが渾然一体となった美しさがcinema staffの楽曲にはあるのだ。
人の感情は一筋縄ではいかないもの。清濁併せ呑んだ人の感情を描き出す三島の作詞の世界を、的確に汲み取り映像に落とし込んでいるのが、cinema staffのMVであると言えるだろう。
彼らの楽曲のMVを観ていると、まるで自分自身の心象風景すら反映されて見えるほどだ。あなたはcinema staffの世界に、どんな景色を見つけただろうか?
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