工藤遥は「少女性と少年性を併せ持つ
まれな存在」 舞台『魔法使いの嫁』
工藤遥×脚本・演出の高羽彩インタビ
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2019年10月、東京・あうるすぽっとにて舞台『魔法使いの嫁』が上演される。原作は「月刊コミックブレイド」(マッグガーデン)で連載中のヤマザキコレによる累計550万部超の人気漫画だ。
主人公・羽鳥智世(チセ)を演じるのはスーパー戦隊シリーズでの好演が記憶に新しい工藤遥。脚本はアニメ版同様、高羽彩が手掛ける。イギリスを舞台に、生まれつき特殊な能力を持つゆえに生きる気力を失った身寄りのない少女・チセと、異形な魔法使い・エリアスの交流を描く物語を、ふたりはどう見つめているのか。主演、脚本・演出家それぞれの視点から今作への意気込みを聞いた。
ーー今回の舞台化決定の知らせを受けたときのお気持ちは。アニメ版から脚本を担当している高羽さんにとって喜びもひとしおだったのではないでしょうか。
高羽:「よしきた!」と(笑)。もともとプロデュースユニット『タカハ劇団』を主宰して劇作家をやっていたので、自分のフィールドに“まほよめ”(「魔法使いの嫁」の通称)を持っていけるんだと。「待ってました!」という感情がいちばん大きかったですね。
工藤遥
ーーいつかは舞台化、という展望はあったのでしょうか?
高羽:仲間内の飲み屋トークとして「いつかやれたらいいよね」ということは言っていました。本当に実現することを聞いたのはアニメの放送終了後でした。
ーー伏線になったんですね。
高羽:むしろ自分で伏線を敷いてた部分はあったのかもしれないですね(笑)。逆にほかの方に舞台版をやっていただくというよりも、自分が責任をもって最後まで書きたいということはありました。具体的な演出案があったわけではないんですが、ギリシャ神話やシェイクスピアの「真夏の夜の夢」がそうであるように、実はもともとファンタジーと魔法と舞台芸術は親和性が高い。舞台って不思議なことを表現するのに優れた媒体なんです。舞台演出に真剣に真摯に取り組めば、“まほよめ”の魔法世界の表現につながっていく。不思議と自信があったので、舞台演出の可能性を広げていければいいなと思っています。
高羽彩
ーーそして、主演に選ばれたのが工藤さん。出演が決まった際の感想をお聞かせください。
工藤:まず、「私が主演で大丈夫ですか?」と思ったことと、弟が観ていたこの作品に出させていただくことにびっくりしました。『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(テレビ朝日系)で毎週テレビに出してもらっていたなかで、今後は(女優として)どういう道を歩んでいくか考えているところに、今作のお話をいただき……まさかお声がけしていただけるとは思いもしていませんでした。作品がどう描かれていくのかが楽しみであると同時に、自分が主人公であるというプレッシャーと、久々の舞台出演ということへの不安もあります。この一年で経験したこともたくさんある。それを発揮する場を与えていただけたことに、とにかく感謝です。
ーー長期にわたる映像作品への出演を経て得たものは?
工藤:“特撮”というだけあって、現場も特殊。携わる監督はひとりだけじゃないので、人によって演出や見せ方が変わったりするからこそ、私が役をきちんと提示しなければならない。場面によっては意見を言ったり、後半になればなるほど役への思い入れも強くなって。長期にわたる作品作りのお芝居の面白さというか、新たに私が見つけた魅力でした。
工藤遥
ーーモーニング娘。卒業後としては初めての舞台出演ですね。
工藤:はい。そして、おそらく10代最後の作品になると思います。
高羽:うわ~、尊い!
ーー最初にお芝居に触れたのが舞台だったんですよね。どんなところに魅力を感じたのでしょうか?
工藤:自分以外の役を生きられるところです。初めて舞台に出演したのが小学5年のときで、優等生でムードメーカー的存在な小学生の役でした。当時、私自身は役柄とは反対の悪ガキで(笑)。演じることで、見える世界がこんなに違うんだって感激しました。女優をやりたいと思ったのは、舞台がきっかけです。今まではあくまでもモーニング娘。のメンバーとして携わっていましたが、今回は初めて関わらせていただく方々ばかり。一つひとつの出会いが今から楽しみで、妄想が膨らみます!
ーー数々の作品を手掛けている高羽さんにとって、舞台とは?
高羽:舞台は旅そのもの。お客さんにとって舞台って”経験”になるんです。作り手としては、掌の上で全部できる感じがある。関わる人数も映像作品に比べると少なく、携わる人全員が顔を突き合わせて作り上げていく。自分の思いが末端まで届くのって本当に面白いんですよ。役者さんもドラマで演じた時にお客さんがどう演じているかわからないじゃないですか。
工藤:わかります! 舞台はお客さんが見える、というより感じるんですよね。
(左から)高羽彩、工藤遥
高羽:そうそう。こっちが息を吸うと、お客さんも同じように呼吸することもある。作り手と受け取り手の距離感の近さゆえに起こることだよね。
工藤:ダイレクトに反応が返ってくるのが本当にすごいです。
ーーおふたりは今日が初対面なんですよね。工藤さんの第一印象、いかがでしょうか。
高羽:少女性と少年性を両方併せ持った、非常にまれな存在感。チセは思春期の大人と子供の狭間にいる子なので、工藤さんは本当にチセにピッタリ。お話を聞いていると、舞台を好きな気持ちが伝わってきてすごくうれしいです! どんな方とお仕事するにしても、舞台が好きなら絶対うまくやっていけるという自信があるのでホッとしました。一緒に作り上げていく同志になりえる方です。
工藤:ありがとうございます!
ーー工藤さんから見た高羽さんの印象は?
工藤:お会いするまでいろいろ妄想していました。「超怖い人だったらどうしよう」とか(笑)。でもこうしてお話しすると、気さくな方で話しやすくて! 実は私、意外と“言えない”タイプなんです。監督や演出家さんに対して、演技のことでどこまで踏み込んでいいのかをためらってしまう。ふわっとしか言えないところが自分の最大の欠点でもあるので、高羽さんとならそこを乗り越えて作っていけるのではないかと思いました。
ーーちなみに、高羽演出は怖いのでしょうか……?
高羽:怖くないと思います(笑)。『タカハ劇団』は一人劇団で、公演の都度役者を集めて初対面の方と組むことが多いんです。どんな人ともコミュニケーションをとらなければ作り上げることができないので、円滑なコミュニケーションができる現場でありたいなとは常々思っています。
工藤:私はコミュニケーションをとるのが苦手だったんですけど、ここ何年かで殻を敗れたのかなと思っています。それこそ高羽さんとはさっきまで、お芝居に関係ないラーメンの話をしてました(笑)。

工藤遥

高羽:今日ここに来る前にラーメンを食べてきた話をしたら、すごく食いついてくれて。
工藤:私もラーメン、大好きなんです! おすすめのお店を教えていただきました。会場の近くでおいしいお店を探すのも楽しみですね。
高羽:それこそ、稽古場の近くにおいしいお店があるといいよね。今のうちに「おいしいラーメン屋さんの近くになりますように……」って念じておきましょうか(笑)。
工藤:あわよくばスタッフさんたちへ、届きますように……! って、ぜいたくすぎますよね、ごめんなさい(笑)。あ、すいません、ついラーメントークを(笑)。
ーーいえいえ(笑)。では、チセというキャラクターへの印象をお聞かせください。
工藤:アニメや漫画を見ている印象で、表情が見た感じだとわかりにくいキャラクター。どう舞台で表現していくのかが一つ目の課題です。もう一つは、チセの成長の見せ方。アニメだと24話のなかで、かなりわかりやすく成長していっていると思うんです。舞台の尺のなかで、チセの内側に秘めた像を残しながら演じていくのはどうしようか、と。表現を豊かに、感情を豊かにするのはもちろんですが……私自身は頭がいいほうではないので、頭をフル回転して頑張ります!
高羽:チセは自分のことをだいじにできない子。特殊な生育環境に関係してくるんですけど、そういう思いの子に、周りの子たちがなんとか「あなたはだいじな存在なんだよ」って言って、やっと気づくことができる。たぶん、この重いって若ければ若いほどこの感情を覚えることが多いと思う。だからこそ応援されるキャラクターであり、共感してくれる読者の方もチセと同じ存在で、「だって世界は美しいから」って伝えられるための窓口なんです。
高羽彩
ーーチセは幼少期の、最もだいじにされる時期にされてこなかったという過去もあります。
高羽:そうなんです。だからこそたくさん「だいじなんだよ」と言ってあげなきゃいけないし、納得もしない頑固な一面もある。厄介な子だな、とずっと思っていますね。
ーー工藤さんにとって、今までにはない役柄になりそうですね。
工藤:はい。けっこう人に囲まれたり、中心にいたり、周りを巻き込んだりするキャラクターを演じることが多かったなかで、これだけ「自分なんて」と思っている役は初めてです。私自身もどちらかというとたくさんの方に囲まれて育ってきたと思っているので、自分とはかけ離れた女の子ですが、その分演じるのが楽しみ。チセと向き合っていきたいです。
ーー楽しみです。今のうちに、お互い何か聞きたいことがあれば。
高羽:なんだろう……たくさんあるな。
工藤:なんでも答えます!
高羽:少年の役をやるのは、自分でやりたいというよりも似合うからオファーをもらう形なの?
工藤:う~ん……もともと女の子らしい遊びより、それこそ戦隊ものが大好きだったんです。なので自分にとってアイドルは離れていた存在でもあったんですけど、そこにいたからこそ少年っぽいキャラクターを見つけていただけたのかなと。
工藤遥
高羽:そっか。ありがとう。
工藤:では、私からの質問を。高羽流の稽古の進め方とかありますか?
高羽:特にないな。しいて言うなら体力……は、心配ないか(笑)
工藤:大丈夫です!
ーーでは最後に、今作への意気込みをお願いします。
高羽:”まほよめ”がその場に存在するんだっていう質量と説得力を持った舞台演出にしたいと持っていますので、ご期待ください。
工藤:原作ファンの方がたくさんいらっしゃるなかで、チセという役を演じることはみなさんのハードルも期待値も高くプレッシャーも感じますが、そこをいい意味で裏切っていきたいです。この世界観をぜひ生で、いっしょに楽しんでもらえたらうれしいです。
(左から)高羽彩、工藤遥
取材・文=潮田茗 撮影=荒川潤

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