LACCO TOWERが6回の自主開催フェスと
17年の活動でたどり着いたバンドの本
質とは?新譜『変現自在』が示す新た
な道

いつの間にか自分たちを縛りつけていたルールから解き放たれ、まるでバンドをはじめた頃のように自由に、やりたいことを貫いている。それが8月21日にリリースされるLACCO TOWERのニューアルバム『変現自在』だ。「原点回帰」と呼ぶには円熟味があり、「マスターピース」と呼ぶには不器用さも滲む今作には、2015年のメジャーデビュー以降、より多くのリスナーに届くことを命題にチャレンジを重ねてきた彼らが出したひとつの答えが詰まっている。バンドの地元・群馬で開催し続けている自主企画フェス「I ROCKS」は今年で6年目を数え、多くのバンド仲間に慕われる人間性も彼らの魅力だが、今作『変現自在』からはアーティストの本質は音楽であるというLACCO TOWERの覚悟を感じてならない。
――先日、「I ROCKS」が無事に終わりましたね。今回SPICEでは4日間ライブレポートに入らせてもらって……これ記事にしていいかわからないけど、終演後にメンバーから、わざわざお礼のメールが届いて感動しました。
細川大介(Gt):それ、どんどん書いてください(笑)!
――(笑)。6回目にして相変わらずメンバー主導を貫いたフェスだなと思いますけども、いままでとは違う手応えはありましたか?
松川ケイスケ(Vo):今年は違いましたね。実はバンドとしてもチームとしても、明るみにはならない問題を抱えている時期だったので……大変でした。
――というのは?
松川:特に何が悪いっていうわけじゃなかったんですけど、バンドを長くやっていくなかで、なんとなく感じる違和感というか。うまくピースがハマってない感じがして。
細川:I ROCKS自体はいろいろな人に助けてもらって大成功できたと思うんです。でも、一生懸命やってるんだけど、メンバー同士どこか気持ちがひとつになってない。水の中でめっちゃもがいてる。白鳥のような感じでしたね(笑)。
――その状態はI ROCKSを成功させたことで解消できたんですか?
松川:うーん……しばらくしてライブハウスツアー(「独想演奏会」)がはじまって、そこで雪解けした感じですね。啓示がメンバーだけで話す機会を作ってくれたんです。いままで僕らがスタッフ抜きで呑んだことが4回しかないんですよ。そのうちの2回は数年前なんですけど。あとの2回はここ数ヵ月でやるっていう。
細川: 17年間で4回だもんね。
塩崎啓示(Ba):しかも、過去2回は意図して集まったんじゃなくて偶然なんですよ。
松川:真一に至っては……。
真一ジェット(Key):呼ばれてないですから。
全員:あはははは!
細川:そう考えると、ライブハウスツアーが良かったよね。一緒にご飯を食べたりすることで、みんなの今の気持ちがちょっとずつわかってきたというか。
――真一さんは今年のI ROCKSはどうでしたか?
真一:年々関わってくれるアーティストとかスタッフの数も増えていって、その上で舞台に立たせてもらってる自分たちが、本当のこのステージに似合うバンドにならなきゃいけないっていう覚悟ができたんですね。みんなに恥じないバンドにならないといけない、というか。そのためには大介が言ったように、ちゃんと5人の意志を確認しなきゃいけないっていうことなんですよね。
――バンドがかっこよくなることが、I ROCKSがかっこよくなること、というか。
真一:今年は自分たちのアーティストとしての立ち方の大事さに気づいたんです。
真一の負担はだいぶ大きいと思うんですよね
松川ケイスケ(Vo)/ LACCO TOWER
――今回のアルバム『変現自在』は、そういうLACCO TOWERのアーティストとしての気概を強く感じました。あれだけのフェスを毎年やりながら、1年に1枚のスパンを崩さずに、しかも、まったく前作からの惰性ではない作品を完成させたわけで。
松川:そうですね。今回、真一は大変だったんじゃない?
真一:いままででいちばんキツかったと思う。年々(ハードルが)上がるから、キツくなるんですよ。結局、いまは若い頃にあった「こんな曲をやりたい」って込み上げてくる衝動がないんです。出し尽くしちゃってるから。そういう状態で、まずはやりたいことを見つけるところから探しはじめて作ったんですよ。振り返ると、前作までは、それすらもしてなかったんですね。やりたいことを探すんじゃなくて……
――メジャーのバンドとして、やるべきことを探してた?
真一:そう、でも今回はやりたいことを探せたから、若い頃の気持ちが再燃してきたというか。ちょっと若返った気持ちで作れたんです。……大人の若返りです(笑)。
細川:ちょっと何言ってるかわからない(笑)。
全員:あははははは!
――いやいや、わかります。要するにメジャーデビュー以降のLACCO TOWERは、『遥』とか『若葉ノ頃』みたいな作品で、より大勢の人に届くようにとか、新しい自分たちを見せなきゃっていう使命感も強かったけど、今回はそうじゃないんですよね?
松川:そう。LACCO TOWERの曲の作り方って、基本的には真一が曲を持ってきて、僕がそれに歌詞をつける。アレンジ、制作は全員でやるっていう感じなんですね。で、僕個人で言うと、まったく歌詞で悩まないんですよ。今回も全部そうなんです。でも、真一の負担はだいぶ大きいと思うんですよね、ゼロから元を持ってくる人だから。その状態を少しでも解消するために、今回から大介が作曲のサポートとして、がっつり入ったんです。
初めてプリプロの時間を3日間作ったんです。
細川大介(Gt)/ LACCO TOWER
――サポートというのは?
細川:タイムキープだったりね。
松川:僕はその現場を見てないけど、「こういう曲が(アルバムに)足りないよ」みたいなところを、大介が上手にやってくれてたのかなっていう気はしますね。
真一:すげえやりやすかった。
細川:今回、長期的スケジュールを決めたんですよ。何月までに何曲か作って、その何日後にプリプロをして、本チャンはいつっていうのを作って。そこから遅れたとしても、「じゃあ、次はこうして」みたいなスケジュールを管理したんです。
――そのぶん真一さんが作ることに専念できますよね。
細川:それもあったと思います。あと、真一はなかなか(デモを)パスしてくれないんですよ。自分が納得するまで作らないと、聴かせてくれなかったんですけど、今回は「いまの段階で聴かせて」って言って。そういう曲から、ドラム、ベース、ギターでスタジオに入って、アレンジに取り掛かることにしたんです。
――そうすると、よりバンドっぽい作り方になるんじゃないですか?
重田雅俊(Dr) :あ、そうだね。バンドっぽい(笑)。
細川:僕ら、いままでプリプロをやってなかったんですよ。だから、レコーディングの前日まで作ってるような状態だったんです。でも、そのやり方に限界がきてたんですよね。なかなか完成形が見えないし。ドラム、ベースに至っては、どんなギターがのってくるか、まったくわからない状態でレコーディングしてるわけですよ。それを変えたいなと思って、初めてプリプロの時間を3日間作ったんです。
松川:まあ、それが当たり前のことですけどね(笑)。
カレーと一緒ですよね
塩崎啓示(Ba)/LACCO TOWER
――実際プリプロの期間があったことで、大きな違いはありましたか?
重田:余裕ができたよね。いままでは本当にカツカツだったから。ちゃんと楽曲の全体像をみんなで練ることができたんですよ。
塩崎:寝かせられたんですよね。俺の場合はプリプロで本番さながらに録りたいから、そこで1回かたちにしちゃうんですけど。本番のレックまで期間があるから、ちょっと熱を冷まして、さらに足してり、引いたりできて……カレーと一緒ですよね(笑)。
――一晩寝かせることで、より美味しくなるっていう。
重田:あと、本番で(真一に)言われることの量が半分に減った。
真一:それがデカいね。いつもは全部本番で言うから、重田の頭がパンクしてた(笑)。
重田:「帰る!」って(笑)。
松川:実際には帰ってないけどね。

真一ジェット(Key)/ LACCO TOWER
――みんなで作ったことで、今回の作品はすごくライブっぽい作品になったような気がします。たとえば、「必殺技」のイントロが長かったり。

細川:あれ、めっちゃライブっぽいですよね。
真一:これが良いからやろうっていう考え方だから、あんまりイントロとか間奏をあえて長くしようとは考えてないんですけどね。
細川:今回は曲ごとに振り切ってるんですよね。いままでは1曲1曲のなかで、まとめようとしちゃうところがあったんです。ここは行き過ぎてるから、ちょっと聴きやすくしようとか。でも、今回はそれを取っ払って、「この曲は行けるところまで行こう」「この曲は聴きやすくしよう」みたいな感覚で作ったんです。
いまさら初心にかえってみたら、ちゃんとLACCO TOWERの曲として完成できたんですよ
LACCO TOWER
――たとえば、行けるところまで行ったのは……。
細川:「必殺技」とか「地獄且天国」ですね。ケイスケとも話したんですけど、せっかく自分たちで好きなことをやるために会社を立ち上げたんだから、もっと好きなことをやっていこうよって。なんだかんだ言って、メジャーデビューをさせてもらってからは、いろいろな人のことを考えながら活動していかなきゃいけなくなったんですけど、それよりも大事なのは、「自分たちがどうしたいか」じゃないかって気づいたんです。
――「必殺技」って、アッパーだけど、いままでありそうでなかった曲調ですよね
細川:「必殺技」は、まずギターのリフがかっこよくて目立つ曲を作りたいっていうのがあったんですよ。僕がデモを作って、真ちゃんにイメージを伝えたんですけど。いままで僕らの激しい曲って、サビがマイナー調になることが多かったんです。でも、この曲はサビで急にメジャー進行になってポップになるのが新しいんです。
――ライブで盛り上がりそうなフックもたくさんあるのも新鮮でした。
細川:いろいろな技を入れてますね。いままでは、どこかしら「LACCO TOWERはこうだ」っていうルールがあったんですけど、それがなくなってるんです。「必殺技」のサビで、ッタタン!って手拍子をするところがあるんですけど、たぶん3年前だったら、「これはやめよう」っ言ってたと思うんです。でも、いまさら初心にかえってみたら、ちゃんとLACCO TOWERの曲として完成できたんですよ。デモの段階ではポップな感じだと思ってたけど、みんなで演奏したら、やっぱり影を帯びたポップソングになった。いまは何をやっても自分たちになるんだから、何をやってもいいじゃんって思えた曲ですね。
――なるほど。話を聞いてると、いまのバンドのモードが全部音に表れてますね。
松川:本当にそうですね。だから、今回のジャケットがメジャーデビューした時(『非幸福論』)のオマージュなんです。あの頃を踏まえたいまがあるから、僕らがいまやるべきことはこういうことじゃないかなっていう意味を込めて。アルバムって僕らのいまを表現するものだと思うから、いまの全部が絡まった感じがありますね。
――具体的にアルバムの収録曲の話をさせてもらうと、面白いなと思ったのが「炭酸水」。これ、LACCO TOWER流の演歌みたいな感じじゃないですか。
塩崎:あはは、昭和ですよね。フォークっぽいというか。
松川:これは、いまのキャリアと年齢だからできたことかなって思いますね。
重田:シンプルな曲だし、僕のなかではやりたいことを押し殺してる部分もあるんですけど、それでも腹に落ちる曲なんですよね。もっと若かったら、「これダセえから、やりたくない」とか言ってたと思うんですよ。でも、それをできるようになったのも、ケイスケが言ったように、キャリアを重ねてきたからじゃないかなと思いますね。
でも、いまメンバーが言いたいことがわかるから
重田雅俊(Dr)/ LACCO TOWER
――あと、「六等星」は歌い出しでスタイリッシュな曲っぽく思わせておいて、サビでものすごくエモーショナルになるっていう展開が印象的でした。
真一:実はアルバムの中でいちばん最初にできたのが「六等星」だったんですよ。1曲目にこれができたことが、アルバムの方向性を定めたんじゃないかなと思います。この曲はBメロがないんですけど、Aメロ→サビっていう流れが自然にできたんです。
重田:スローテンポな曲だけど、ライブ感が出るように疾走感を意識しましたね。いま思うと、今回のアルバムで自分のドラマーとしてのスタイルが確立できたんですよ。
――重田さんのドラマーとしてのスタイルというのは?
重田:要は、メンバーが求めることをかたちにするっていう境地に行けたんですよ。少し前だと、「ちょっと何を言ってるんかわからない」っていう時代もあったんですよ。でも、いまメンバーが言いたいことがわかるから、早く消化できるんです。
――なるほど。1曲目の「若者」はアルバムの幕開けにふさわしい開放感がありました。これも今作では重要な曲だと思いますけど、いつ頃できたんですか?
松川:これはけっこう最後のほうにできたんですよ。
真一:もともと僕のなかでは「線香花火」ができた時点で、「あ、リード曲ができた」って思って、一安心してたんです。だけど、残りの曲を作っていくなかで、もう1曲リード級の曲を作ってみたくなって。で、できたのが「若者」ですね。8分の6拍子だから王道とはズレたところがあるんですけど、こういうリード曲を作りたかったんですよね。イントロのピアノができたところで、「あ、売れた」って思いましたね。
細川:それ、毎回言ってるよね(笑)。
「どうでもよくなる」っていうことを許せるようになるっていうのが
LACCO TOWER
――(笑)。「若者」ではじまって、「夜明前」で終わることで、今回のアルバムにひとつ美しい芯が通ってるような感じがしますよね。
松川:たしかに。「夜明前」で終わるっていうのは、早い段階で決まってましたからね。
――「夜明前」は、ザスパクサツ群馬の公式応援ソングっていうことで。スタジアムに似合う曲っていう意味では、イメージも膨らませやすかったんじゃないですか?
塩崎:そうですね。この曲は選手の入場ソングでもあるんですよ。
細川:もともと「夜明前」は短いインスト曲として作ったんです。ギターで引っ張ってほしいっていうオーダーがあったから、フュージョンっぽい感じになったけど、すごく耳に残る曲になって。選手が登場するときに背中を押せる曲にしたかったんです。
真一:何も考えずにインストはインストで作っちゃったから、そこにメロを着けるのは苦労しましたけどね。初めて歌いながら作ったんですよ。
塩崎:あと、僕はこの曲でいままでこだわってた指弾きをやめて、ピック弾きにしたんです。それこそ前々作の『遥』で、初めて外部のプロデューサー(亀田誠治)とやらせてもらって、僕らは真っ白になったイメージなんですね。それを踏まえたうえで今回は初心にかえって、型にハマらずにいろいろなことをやってみたいなと思ってたから。いままで「俺らはこうだ」って決めつけたところからハズすために、むっちゃ練習しましたね。
――なるほど。歌詞に関しては、「若者」で歌ってるような“美しく生きたい”っていうことであったり、夢を追い続けるっていうことが、ひとつテーマだったのかなと思いますが。
松川:そうですね。それが、いま僕らがいちばん向かい合わなきゃいけないことなんですよね。ワガママでいたり、自分を貫き通すために、他のことがどうでもよくなることがあると思うんですけど。その「どうでもよくなる」っていうことを許せるようになるっていうのが、今回バンドとして成長できたところかなと思っていて。
LACCO TOWER
――ええ、今回のインタビューでは、「いままでのルールを壊す」とか「型を破る」っていう言葉も多かったし、それまでのこだわりを捨てようとしてますよね。
松川:アレンジしかり、演奏しかり、そうなんですよね。そういうチャレンジを貫き通した先に、夢とか未来があると思うんです。やっぱりいまを変えることでしか、過去も未来も変えられない。であれば、いまをやるべきことは、いろいろな選択肢をなくしていった結果、落ち着く場所じゃなくて、いまの自分たちが「ここだ!」と思ったものを貫いて辿り着けるのが、本来落ち着こうとしてる場所になるというか。僕らみたいに、「無」から「有」を生み出そうとしている人間は、そうじゃないとダメな気がするんですよね。
――「目的地」があって進んでいくのではなく、いま自分たちが正しいと思う選択を積み重ねていくことで、結果的に辿り着く場所が「目的地」になるっていうことですね?
松川:そうです。そういうことと、常に戦っていかなくちゃいけないし、僕らぐらいのキャリアを持ったバンドがそういう挑戦を続けることに意味があると思ってて。それもあって、1曲目は「若者」だし、タイトルは『変現自在』なんですよね。
――今回のアルバムができたことで、『遥』のあたりからバンドが模索してきたことに、ひとつの答えを出せたような気がします。
塩崎:本当にそうだね。
松川:いまを変えることで、『遥』をやったことの意味が変わると思ってますね。
――いまだからぶっちゃけますけど、『遥』ができた当時、「LACCO TOWER、メジャーに行って変わっちゃったよね」みたいに捉える声もあったことが悔しかったんですよ。
松川:ああ、それは僕らも感じてました。でも、『遥』っていう作品を否定したり、「違った」って思うじゃなくて、あれがLACCO TOWERの歴史のなかで、どういう意味を持つ作品だったのかっていうことを、僕らのなかで語れることが、過去を変えていくことだと思うんですよ。それこそ、未来も過去を「変現自在」にしていくっていうことなんです。
Photo by 三輪斉史

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