阿佐ヶ谷スパイダース、9月上演の新
作『桜姫』藤間爽子×伊達暁×村岡希
美座談会

昨年、『MAKOTO』で劇団化第1弾の舞台を上演した阿佐ヶ谷スパイダース。今年も同じ季節に、第2弾となる『桜姫~燃焦旋律隊殺於焼跡(もえてこがれてばんどごろし)~』の本番が控えている。四代目鶴屋南北の『桜姫東文章』を原作とした、長塚圭史作品で唯一の未発表戯曲だ。2009年にコクーン歌舞伎番外編として手がけられた『桜姫~清玄阿闍梨改始於南米版』の執筆時に書かれたものの、発表されなかった別バージョンの戯曲。敗戦直後の日本に設定を置き換えたものだという。
本作の稽古場で、桜姫こと吉田を演じる藤間爽子、悪党の権助を担う伊達暁、長浦役で劇団化以降初参加となる村岡希美の座談会をおこなった。また、本稿の終盤では稽古の様子を長塚圭史のコメントとともに掲載したい。
◆妄想に生きる女の「無意識過剰」なエネルギー
――藤間さんは、今回の『桜姫』で中心人物となる吉田を演じることを知ったのはいつ頃ですか?
藤間 昨年、『MAKOTO』の稽古をしているときでした。ごはんの当番で朝早くから稽古場にいたときに、演出助手の(山田)美紀さんから「来年は『桜姫』だからよろしくね」とお話ししていただいたことがきっかけです。ちょうどお米を研いでいました(笑)。
藤間爽子(撮影:コスガ聡一)
伊達 圭史の『桜姫』は、南北の原作の筋に近いようで、少し違うんですよね。権助の役がどこまで『桜姫東文章』と重なっているのか、今は探っている状態です。たとえば、吉田の赤ちゃんは原作と違って権助の子ではないかもしれないし、権助の入れ墨の設定もどうやら違うみたいです。稽古を進めながらどうやっていくのか、まさにこれから作っていくところですね。
村岡 原作を全然意識していないことはないけれど、私は『桜姫東文章』を下敷きにした圭史くんによる新たな作品と思って参加しています。吉田や三月(編注:原作では残月)と長浦との関係は、稽古を重ねていくなかで新鮮に生み出していけたら、と。でも、歌舞伎を知っているお客さんとそうでないお客さんの楽しみ方は少し違うかもしれませんね。
伊達 歌舞伎が好きな人は、吉田の子の父親は権助だと思うだろうね。
藤間 今は誰の子か分からないまま稽古しています。
伊達 誰の子と思ってもらってもいいような見え方にするのか、これから決めていくのか、それは稽古してみてから分かっていくと思います。
村岡 吉田がどこまで妄想のなかで生きているのかが謎だね。吉田が自分で行きたい方向にグイグイ進んでいるような印象があるから。
藤間 『桜姫東文章』は映像で観ただけなんです。権助と一夜をともにしてから、桜姫はいろんなことに巻き込まれてしまって、堕ちていってしまう女性という印象でした。だけど吉田は、逆に人を巻き込んでいく女性だという解釈に変わりました。圭史さんからも「無意識過剰にやって」と言われました。自意識過剰の反対で、周囲を無視して自分の思いで突き進んでしまう人だというか……。
伊達 確かに吉田はすごく妄想している人だよね。赤ん坊も、吉田のなかで作り出された幻想としても考えられる。
村岡 女郎屋に売られるところまで堕ちる悲劇のヒロインになりたいんだけど、そこにいくまでの欲望の強さに「この人、ずうずうしいな」って思う(笑)。
◆家族のような間柄とちょうどいい距離感
――村岡さんは、劇団化してから本作が初参加ですね。
村岡 そうですね。昨年も、稽古場には遊びに来ていたんですけど、みんなで一作品やり切ったからこそ今回は力が抜けて各々マイペースに稽古場にいるように見えます。『MAKOTO』のときはもっと全員気持ちが張り詰めていたんじゃない?
伊達 それぞれどういう人かみんなよく分かったから、稽古場で(坂本)慶介がボールを蹴っていても、もう誰も突っ込まないです(笑)。でもやっぱり、僕はうれしいですね。1年ぶりにみんなで集まれて。昨年、松本公演だけの出演だったトミー(富岡晃一郎)も、村岡さんも参加できて全員が揃ったから。
伊達暁(撮影:コスガ聡一)
藤間 私も昨年は少し遅れて稽古場に入ったんです。子どもたちが走っていたり、外でビニールプールに入っていたりして、驚きました。「ここ、稽古場だよね?」って(笑)。でも、こうしてみなさんとやってきて、今回の2回目で家族みたいな感じもあって、それぞれちょうどいい距離感もあって、楽しいです。
伊達 子どもたちを連れてくることもそうだけど、稽古時間を午前中から夕方にすることも決めていたんだよね。そうすることで、夕方以降の時間に芝居を観に行ったり、家族で過ごしたりできる。芝居の稽古は、昼過ぎから夜中までになりがちで、そのスタイルを考え直そうということで実験的に始めました。いろいろ試して、よかったことは続けていけばいいし。
◆夏祭りのような公演に……
――今回、『桜姫』の上演で楽しみにしていることはありますか?
藤間 えーっ! 私、そんな余裕がないです(笑)。ちゃんとみんなを巻き込むパワーがないといけないから、自分に流されないエネルギーがほしいです。今、必死にしがみついています。
村岡 阿佐ヶ谷スパイダースに関わるときは、どんな役まわりでもいいと思っているんです。今回は役をいただきましたけど、スタッフでもいいし、ケータリング班でもいいです。役者も物販とかパンフレットとかそれぞれ担当の係があるけれど、それも劇団に所属するモチベーションにして、みんなで芝居作りを継続できるようにしたいなと思っています。
村岡希美(撮影:コスガ聡一)
伊達 南北の『四谷怪談』じゃないですけど、今年もこの季節にヒヤッと、ゾクッとしてもらいたい。あと、芝居だけでなくてプレイベントなども含めて、劇場で楽しんでいただけたらと思います。僕も夏祭りのような気持ちで取り組んでいますし、お客さんにも夏を楽しんでいただければ。本番は9月なんですけど(笑)。
◆登場人物らの欲望と楽隊の生演奏
座談会に先立ち、稽古の様子を見学することができた。昨年の『MAKOTO』ではほとんど芝居を止めることなく稽古を続けていたが、今日が初めて立ち稽古に入るシーンだったこともあったのだろうか、演出の長塚は細かく芝居を止めて俳優たちに話していた。
「俳優がどこに重点を置くべきか分からないままだと、幻想的な要素ばかりが際立って、ドラマチックな世界を生きる登場人物に焦点が当たらなくなってしまいます。今度の『桜姫』は曖昧に進めることができないタイプの作品ですね。だから、役者と楽隊の空間の埋め方にも細かく話しています」(長塚)

稽古場にて。中央は長塚圭史(撮影:コスガ聡一)

設定を戦後間もない日本に置き換えた本作だが、『桜姫東文章』のキャラクター性を活かしつつ、登場人物を描いている。岩井清玄(中村まこと)は同性愛の果てに死に別れた白菊(木村美月)との再会を強く願い、吉田(藤間爽子)は激しい生き方を自ら選び取っている女性に見える。三月(中山祐一朗)の上昇志向も然り、彼らには強い欲望があり、それが物語を動かすダイナミズムとつながっていく。
左から藤間爽子、中村まこと(撮影:コスガ聡一)
また、本作は荻野清子によるオリジナルの楽曲が使われている。俳優陣が生演奏するのもみどころのひとつだ。この日の稽古でも、クラリネット、リコーダー、ピアニカ、ウクレレ、パーカッションの重奏が鳴り響いていた。
「生演奏でやれることは贅沢なことだと思います。新しい手法ではないけれど、ひらめきを舞台に反映させることができるし、演劇の物語構造を描くうえでは非常に有効です。波の音だとか、音効も全部、生音にします。本当に、ただただアナログなだけですけど、SEとは違う臨場感を楽しんでもらいたいです」(長塚)
取材・文/田中大介
原作歌舞伎『桜姫東文章』あらすじ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着