フジファブリックが
若者の光と影を描いた
『TEENAGER』は
ゼロ年代邦楽の大傑作
名曲中の名曲「若者のすべて」
《最後の花火に今年もなったな/何年経っても思い出してしまうな》《ないかな ないよな きっとね いないよな/会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ》(M4「若者のすべて」)。
後半で《僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ》と言っているから、《僕》は誰か他の人物に向けて歌っているのであろうが、具体的なシチュエーションはほとんど示されないまま、《僕》の逡巡──それもどうやら想像の中で躊躇っていると思われるようなフレーズが続いていく。朴訥とした感じのAメロから、若干開放的なBメロを経て、キャッチーだが上品で流麗なサビへとつながっていく歌の旋律と併せて、どこか寄る辺ない感じがありつつも、穢れなく清廉な印象。具体性に乏しい内容故に想像の余地はかなりあって、聴き手それぞれが好きな解釈ができたり、勝手に自身と重ねたりできる。優れた芸術作品の必要条件を備えた、見事な楽曲である。M4「若者のすべて」なくしては、アルバム『TEENAGER』は成立しなかったとすら思う。
TEXT:帆苅智之
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