ディープ・パープルと言えば第2期!
第2期と言えば『LIVE IN JAPAN』
に尽きる! 当初、日本のみでリリー
スされたハードロックの代名詞がこの
アルバムだ!
現在、世界でリリースされているのは“MADE IN JAPAN”というタイトルだが、1972年当時のロック小僧たちをハードロックに目覚めさせたのは『LIVE IN JAPAN』である…名前は変わっているけど、どっちも内容は同じ。日本だけでリリースされていた『LIVE IN JAPAN』があまりに売れたため、パープル側が慌てて『MADE IN JAPAN』として出したのだ。“日本だけで”という事実は、日本のファンにとって大いなる誇りであり、現在までの衰えることのない彼らの人気にもつながっている。また、この作品がヒットしたおかげで、ギターを手にした少年は思いのほか多く、今でも「スモーク・オン・ザ・ウォーター」(タイトルは知らなくとも、この曲のリフは知っているはず)を知らない日本人はいないと言っても過言ではない。この4月、18年ぶりとなる来日公演が実現するが、熟練したハードロックの真髄を必ず見せてくれるはずだ。
ヘヴィメタルの元祖は…
1970年に中1だった僕は、まずグランド・ファンク・レイルロードでハードなロックに開眼し、その何カ月か後、レッド・ツェッペリンやブラック・サバスといった本格派のハードロックと出会って、すっかりハマってしまった。エリック・クラプトン率いるクリームや、ヴァニラ・ファッジに熱狂したのもこの頃だ。中2ぐらいで、ディープ・パープルの『イン・ロック』(’70)を聴き、その音圧とスピード感に(今聴くと、そうでもないのが面白い)夢中になったものである。当時は、英米の大物ロックグループが次々と来日していて、中でも71年のグランド・ファンクの嵐の中での来日公演はスゴいのひと言で、現在50歳以上のロックファンには伝説になっている。しかし、グランド・ファンクやクリームはハードロックであっても、ヘヴィメタルの持つサウンドとは、かなりニュアンスが違うのだ。
なかなか説明が難しいので、Wikipediaで「ヘヴィメタルを調べてみた。すると、実に興味深い部分があった。阿川佐和子の『聞く力』に収録された対談で、日本のヘヴィメタルバンド「聖飢魔II」のデーモン閣下が「ハードロックに様式美を持ち込むと、ヘヴィメタルになる」という発言をしている。なるほど、これは巧い表現なので、僕もこの意見には賛同させてもらう。この言葉に付け加えるとすれば、ハードロックは、そのルーツにブルース色を感じるものが少なくないが、ヘヴィメタルはそのルーツもロック(それも白人色が濃い)だということだろう。
こうしてみると、ヘヴィメタルの元祖は、ブラックサバスは別格としても、レッド・ツェッペリンの2枚目に収録された「胸いっぱいの愛を」(’69)や3枚目に収録の「移民の歌」(’70)、4枚目に入っている「ブラック・ドッグ」(’71)、そしてステッペンウルフの1枚目のアルバムに収録の「Born to Be Wild」(’68)、ディープ・パープルでは第2期時代の『イン・ロック』に収録の「スピード・キング」、7作目となる名作『マシン・ヘッド』収録の「ハイウェイ・スター」や「スモーク・オン・ザ・ウォーター」、そして第3期時代となる『紫の炎』に収録された「バーン」あたりが元祖と言えるが、特にディープ・パープルは、『マシン・ヘッド』でへヴィメタルの基礎部分である様式美を創り、この『LIVE IN JAPAN』で、その全貌を世界に先駆けて日本に紹介したのである。
「ブラックナイト」のヒットと、初来日
直前にリリースされた『マシン・ヘッド
』の衝撃
72年の来日公演は、大成功を収めることになるのだが、来日が72年でないといけない理由があった。なぜなら72年こそ、彼らの音楽が頂点を極めた年であるからだ。これ以降、ツアーでの疲労蓄積やメンバー間のトラブルが続き、アッと言う間に失速していくことを考えれば、72年のこのタイミングしか、来日はあり得なかったのである。
彼らの、現在までに及ぶ長いキャリアの中で、どれか1作、代表作を挙げろと言われれば、多くのファンがこの年にリリースされた『マシン・ヘッド』(’72)を選ぶだろう。僕もこの作品こそがディープ・パープルのスタジオ録音中、最高傑作だと思う。『マシン・ヘッド』には「ハイウェイ・スター」と「スモーク・オン・ザ・ウォーター」という彼らの代表曲2曲が収録されているだけでなく、へヴィメタルへとつながる新しいハードロックのスタイルを提示した、ロック史上に残る作品となったからだ。当時、来日前にこのアルバムが発表されたことで、初公演への期待がますます膨らんでいったことは言うまでもない。
『LIVE IN JAPAN』リリースまでのいき
さつ
『LIVE IN JAPAN』は2枚組として72年の暮れにリリースされた。第2期パープルのスゴさと、制作者サイドの意地もあって、ハードロックのライブ盤として、ロック史上に残る出来映えとなった。本作はイギリスやアメリカをはじめ、世界各国に輸入盤という形で発売され、多大なセールスをもたらす。前述したように、パープル側もこの結果を受けて“MADE IN JAPAN”というタイトルで、ジャケットも変えて発売してはいるが、ジャケットデザインは圧倒的に日本盤のほうが素晴らしいと僕は思っている。
アルバム収録曲
1曲目の「ハイウェイ・スター」は文句なしのカッコ良さで、ライブならではの緊張感が最高だ。曲のテンポが速すぎて、ジョン・ロードのオルガンソロは少し遅れ気味になっているし、ブラックモアのギターも粗さが否めない。しかし、そういったマイナス面を差し引いても余りあるほどの名演になった。当時、親に怒られながらも、大音量で聴きまくった経験のある人は多いだろう。
2曲目の「チャイルド・イン・タイム」は、『イン・ロック』に収録された彼らの代表曲のひとつ。12分以上の長尺ながら、バリエーションに富んだ構成になっているので、最後までダレることなくあっと言う間に終わってしまう。ハイトーンで絶叫するイアン・ギランのボーカルは、数年後のへヴィメタルを予感させるスタイルだ。そして、ブラックモアのギターソロは、文句なしの名演!
続く「スモーク・オン・ザ・ウォーター」も「ハイウェイ・スター」と同様、スタジオよりテンポが速くなっており、音圧もはるかにすごい。ライブならではのグルーブ感が最高だ。多くのファンが、ライブテイクに軍配をあげるのではないだろうか。
4曲目は、ボブ・ディラン風の短い演奏の後、イアン・ペイスのドラムソロとなる。タイトでスピード感のあるプレイを聴いていると、彼がリズム隊の要であることがよく分かる。
5曲目の「ストレンジ・カインド・オヴ・ウーマン」は、6作目の『ファイアボール』(’71)から選ばれた唯一のナンバー。彼らには珍しく、ブルースをベースにしたシャッフル曲。ブラックモアとギランの掛け合いが楽しく、緊迫感の続くこのライブの中で、少しくつろげる時間になっている。ここでも、ブラックモアのギターが冴え渡る。
6と7はどちらも『マシン・ヘッド』から。「レイジー」(LOUDNESSの前身バンドであり、影山ヒロノブも在籍していた“LAZY”は、この曲のタイトルをバンド名に掲げたことは有名な話)はジョン・ロードが前面に出て、まるでプログレバンドのような高度な演奏を繰り広げている。ギランがマウスハープを披露するなど、テクニカルなだけでなく、遊び心に満ちたプレイが聴きもの。
次の「スペース・トラッキン」は20分近くに及ぶ熱演で、このライブで最もレベルの高い演奏が聴ける。これを知ってしまうと、スタジオ録音のほうはもう聴けない。オルガンの長い即興ソロはすさまじいのひと言だ。途中、一度ブレイクし、その後に登場するブラックモアのギターは、“美は乱調にあり”と思わせるぐらい狂気をはらんだプレイで、彼のギタリストとしての類い稀な才能と、グループにおける存在感の大きさを物語っている。アルバムの最後を飾るにふさわしい、壮大なナンバーである。
『LIVE IN JAPAN』の最新情報
http://wmg.jp/artist/deeppurple/news_55023.html
著者:河崎直人