ポルノグラフィティの最大の特徴を
ロックへの敬愛と共に捧げた
『ロマンチスト・エゴイスト』

歌声を最大限に活かした旋律

岡野昭仁の歌声の特徴を上手く言葉で表現できたかどうかと言うと自信はないけれども、ポルノグラフィティというバンドは彼の歌声が推進力ではあったことは、これまた間違いないようである。ファンならばよく知るエピソードに、もともとヴォーカルを担当した新藤晴一(Gu)がコーラスとして岡野を誘ったところ、彼の歌の方が上手かったので新藤がヴォーカルを岡野に譲り、ギターに専念したという話があるそうだ(BUCK-TICKにもGLAYにも似たような話があるけれども、大成するバンドはバンド内でのヴォーカル交代が必要条件なのだろうか…)。また、筆者はここまでポルノグラフィティを自発的に聴いたことがない門外漢であることを白状するので、以下、書き手が半可通以下であることを前提にお読みいただきたいのであるが、彼らのメジャーデビューに当たっては、やはり岡野の歌を前面に出すようなスタッフワークがあったような節がある。

これもファンならばご存知のことと思うが、当初、彼らのデビュー曲は、『ロマンチスト・エゴイスト』にも収録されているM3「ヒトリノ夜」がその候補ではあったけれども、“1stはインパクトが強い曲にすべき”ということでM9「アポロ」がデビュー曲となったという経緯があるそうだ。「ヒトリノ夜」は軽快なR&R。さわやかさの中にも若干のウエット感もあるメロディーで、決して悪い楽曲ではない(実際、「ヒトリノ夜」は2ndシングルになったのだから何をかいわんや…である)。だが、「アポロ」に比べると、Aメロの抑揚がやや薄い。Aメロの後半がわずかに平板だと思う。メロディーの抑揚があるほうが歌声は目立つ。加えて、「アポロ」は所謂サビ頭の楽曲であるからして、どちらをデビュー第一弾に選ぶかとしたら、「アポロ」に軍配が上がるのは自然なことだと思う。「ヒトリノ夜」はインディーズ時代から存在していた曲だというから、メンバーにとって思い入れも強かったであろうが、そこで「ヒトリノ夜」ではなく、「アポロ」を選んだというのは、バンド優先ではなく、楽曲優先、歌メロ優先の姿勢の表れであって、もっと言えば、それを歌う岡野のヴォーカリゼーションを前に出す方策でもあったように思う。

また、「ヒトリノ夜」は作曲クレジットが“ak.homma”となっているので、インディーズ時代からのあった楽曲だとはいえ、ak.homma=本間昭光氏の手による相当なブラッシュアップがあったことをうかがわせる。作曲にその名があるのだから、どの程度なのかは分からないが、氏がメロディーを創り上げたのは確実である。全13曲のうちM1「Jazz up」、M4「ライオン」、M8「デッサン#1」、M10「ラビュー・ラビュー」、M11「ジレンマ(How To Play "didgeridoo" Version)」の5曲が“シラタマ”=Tama(Ba)の作曲。メンバーが作曲を手掛けたナンバーが4割以下である。全てのバンドが自作自演でなければならないことはないが、同時代にデビューしたバンド、あるいは同世代のバンドと比べて、自作の比率が低いのは明白であろう。ak.hommaだけでなく、M13「ロマンチスト・エゴイスト」では、“Ryo”=吉俣良氏が作曲を手掛けている。この辺からも楽曲優先の姿勢をうかがうことができると思う。

OKMusic編集部

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