Mumford & Sonsから始める、ルーツ・
ミュージックのススメ

イギリスが誇る世界的フォーク・ロックバンドMumford & Sons(マムフォード&サンズ)の約6年ぶりとなる来日公演が決定した。11月12日になんばHatch、13日に豊洲Pitの2公演を行う予定だ。
Mumford & Sonsは通算4枚目となる最新アルバム『Delta(デルタ)』を2018年11月にリリースし、全米アルバムチャート初登場第1位を記録。その勢いのままスタートしたアリーナ・ツアーでは60公演でのべ80万人以上を動員するなど、欧米では圧倒的な人気と知名度を誇っている。だが、初来日となった2013年のフジロックではメイン・ステージであるグリーンステージに登場し堂々としたショウを見せつけたが、ここ日本では欧米ほど人気が爆発していないのが現状だろう。2013年以来6年ぶりとなる待望の来日公演を前に、今一度、そのキャリアを振り返りながら、バンドの特異性について考えてみたい。
Mumford & Sonsは、マーカス・マムフォード(ボーカル、ギター、マンドリンなど)、カントリー・ウィンストン・マーシャル(バンジョー、ギターなど)、ベン・ラヴェット(キーボード、アコーディオンなど)、テッド・ドウェイン(コントラバス、ベース)の4人で、2007年にイギリスのロンドンで結成された。
2009年、プロデューサーにArcade Fire(アーケイド・ファイア)などを手掛けたMarkus Dravs(マーカス・ドラヴス)を起用し、デビューアルバム『Sigh No More(サイ・ノー・モア)』 をリリース。全英と全米アルバムチャートで共に最高2位を記録し、全世界で800万枚ものセールスを記録した。
イギリスのグラストンベリーを始めとして、世界中のフェスを転戦。たった4人で、アコースティック・ギター、バンジョー、ダブルベース、キーボードというほぼアコースティックの楽器のみで展開する圧倒的なショウとそのスタイルがライブ・シーンでも注目を浴びる。特に、ギター&ボーカルのマーカスが曲によってはドラムのキックを踏んでバス・ドラムのみ鳴らすことはあるが、基本的にはドラム・セットなしのフォーク・ロック・バンドとしての編成は斬新で、一躍世界的に注目されるバンドとなった。
このドラムなしの編成は、トラディショナルなフォークやカントリー(特にカントリーの中の、ブルーグラスというジャンルで顕著)のスタイルとしては決して珍しいものではないが、ロック・ファンにとってはとても斬新に映ったはずだ。また、この編成でのライブは、フル・セットのロック・バンドのそれと比べても遜色なく、2013年の初来日時に新木場Studio Coastで観たライブでは、十二分な音圧と圧倒的なパフォーマンスで、度肝を抜かれた記憶がある。
また、彼らの楽曲に頻繁に登場するバンジョーはあまりロック・ファンには馴染みのある楽器ではないため、この楽器特有の高速アルペジオに驚嘆するリスナーも多くいたはずだ。この奏法もトラッドのジャンルでは決して珍しいものではないが、メイン・ストリームのチャートを制するようなバンドでは聞くことはないため、多くのリスナーにバンジョーという楽器の存在を広く知らしめることとなった。
その後、2012年9月に2ndアルバム『Babel(バベル)』をリリースし、英米で初登場1位を獲得。世界各国でも軒並みチャートインする偉業を成し遂げ、2013年には、アメリカではグラミーの最優秀アルバム賞を、イギリスではブリット・アワードではベスト・ブリティッシュ・グループ賞を受賞するなど、名実ともに世界を代表するバンドとなった。
2013年には、フジロックのグリーン・ステージに登場。その直後にキャパ約2,500人の新木場Studio Coastで単独公演を行った。まさに世界の頂点へと上り詰めた直後のスモール・キャパでのライブで、圧倒的なパフォーマンスを見せた。

2013年をツアーに明け暮れたバンドはツアー終了後5か月間のオフを取り、2014年2月から早くも新作の制作に取りかかった。そして、2015年にサード・アルバム『Wilder Mind(ワイルダー・マインド)』を発表。全英、全米アルバム・チャートと共に前作に引き続き、初登場1位を飾った。この作品では驚くことに、それまでの彼らの代名詞であったバンジョーなどのアコースティック楽器は使用せずにエレクトリック・ギターやドラム・セットも導入。それまでのトラッド・スタイルを排して、オルタナティブ・ロック・バンド然としたサウンドに転向した。この変化は、バンドに新たな表現の幅を与えることに成功したが、それまでの彼らを否定してしまう側面もあり、賛否両論を巻き起こした。
そして2018年11月には、通算4作目となる最新作『Delta(デルタ)』を発表。今作も全米チャートを初登場1位で制する勢いを見せ、今や、彼らは英国が世界に誇るロック・バンドとなった。
最新作でのサウンドは、全体的には前作を踏襲するようなオルタナティブ・ロック然としたバンド・サウンドが中心となったが、今作ではアコースティック楽器は封印を解かれ、旧来からのファンを喜ばせた。
彼らのサウンドは、フォーク・ロックと位置付けられることが多いが、彼らのサウンドをカテゴライズすることは非常に難しい。また、このフォーク・ロックというジャンル分けも特にここ日本では一般的なものではない(あまり人気がないと言った方が正確かもしれない)ため、分かりにくさを助長している側面もあるだろう。ただ、欧米ではフォーク・ロックというものは一ジャンルとして定着しているもので、シーンも盛り上がっている。
同ジャンルとして筆頭に挙げられるのは、The Lumineers(ザ・ルミニアーズ)だろう。アメリカのフォーク・ロック・バンドとして2012年にシングル「Hey Ho(ヘイ・ホー)」とデビュー・アルバム『The Lumineers(ザ・ルミニアーズ)』を大ヒットさせ、一躍、スターダムに上り詰めた。彼らもMumford & Sonsと同様に、バンジョーやマンドリンといったトラディショナルなアコースティック楽器を使用しており、またドラム・セットを使うことが少ないなど、類似点が多い。今年のフジロックでも来日しており、素晴らしいステージを披露してくれたばかりの彼らは、Mumford & Sonsと人気を二分すると言っていいフォーク・ロックの雄だ。
それ以外の近いバンドとして、アメリカではThe Avett Brothers(ジ・アヴェット・ブラザーズ)、Blind Pilot(ブラインド・パイロット)、Dawes(ドーズ)、The Head and The Heart(ザ・ヘッド・アンド・ザ・ハート)、The Milk Carton Kids(ザ・ミルク・カートン・キッズ)などが挙げられるだろう。それ以外の国にも目を向けると、アイスランドにはOf Monsters and Men(オブ・モンスターズ・アンド・メン)、カナダにはThe Strumbellas(ザ・ストランベラス)などがいて、いずれも近年、目覚ましい活躍をしている。
Mumford & Sonsを筆頭に前述のバンドたちはフォーク・ロックと言われる以外にも、ネオ・フォーク、ゴシック・フォーク、オルタナティブ・カントリー、アメリカーナなどというジャンルにカテゴライズされることもある。いずれも、それぞれが親和性を持ち区別するのがむつかしいジャンルではあるが、近年、これらの名のもとにジャンル分けされるバンドに素晴らしいサウンドを作り上げる逸材が増えていることは事実だ。
ただ、日本でMumford & Sonsはカントリー的な風合いも持つという紹介のされ方も多く、そのように解釈している人も少なくはないだろう。それは、バンジョーという楽器そのものがカントリーで頻繁に使われる楽器であるというのが唯一の理由だろうが、逆を言うと、バンジョーを用いているという以外、Mumford & Sonsがカントリー的だという理由は見当たらない気がする。カントリーと彼らは、それほど親和性が高くない気がするのだ。
2012年に公開された『Big Easy Express(ビッグ・イージー・エクスプレス)』という映画がある。このコラムの主役であるMumford & Sonsと、Old Crow Medicine Show(オールド・クロウ・メディスン・ショウ)と、Edward Sharpe and the Magnetic Zeros(エドワード・シャープ・アンド・ザ・マグネティック・ゼロ)というバンドたちが貸切の長距離列車に乗り込み、カリフォルニアからニューオーリンズまでツアーをしながら旅をするその様をつぶさにとらえたドキュメンタリーともいえるロード・ムービーだ。
1970年に Janis Joplinジャニス・ジョプリン)、 The Grateful Dead(ザ・グレイトフル・デッド)、The Band(ザ・バンド)などが列車に乗り込みカナダを旅する模様を収めた伝説の映画『Festival Express(フェスティバル・エクスプレス)』の現代版といえるだろう。
この映画に出てくる3つのバンドはいずれもフォーク・ロックともカントリーともカテゴライズできるバンドであり、その共通点は、トラディショナルな楽器を用いて自身の音楽を表現していることだ。
特にOld Crow Medicine Showはナッシュヴィルを拠点に1998年から活動しているMumford & Sonsの少し先輩にあたるバンドで、古き良きアメリカの伝統音楽(ルーツ・ミュージック)ともいえるカントリー(特にブルーグラス)やフォーク等を自らの音楽のベースにして、特に若い世代に広め、圧倒的な人気を誇るバンドだ。

この映画の中で、Mumford & Sonsのマーカスは「17,18歳の頃、Old Crow Medicine Showを聴いて初めてカントリー・ミュージックに興味を持った」と発言している。そして、それに続いて「Bob Dylan(ボブ・ディラン)はそのずっと前から聴いていたけれども」と言っている。
これは非常に興味深い。まず、マーカスはカントリーの影響を受けていることを示唆している。ただ、それとBob Dylanを並列にして語っている点が重要な気がする。これは、Bob Dylanとカントリーを一緒のものと捉えていると考えられる。Bob Dylanはフォークであり、フォーク・ロックであり、ブルースであり、カントリーであり、様々にジャンルを横断することで知られている。ただ、一点のみ変わらないことがある。それは、常にルーツ・ミュージックであるということだろう。
そのBob Dylanとカントリーを並列にしたマーカスの発言からは、彼は自身の音楽をルーツ・ミュージックと捉えているのであろうことが読み取れる。やはりMumford & Sonsはカントリー・ミュージックではなく、もっと広義の伝統音楽=ルーツ・ミュージックを奏でているという解釈なのだろう。
ここ日本では、カントリーであれ、ルーツ・ミュージックであれ、一部では熱狂的な支持は受けても、一般的には人気があまり高くない。ただ、その範疇で語ることができるMumford & Sonsは、欧米のように広く一般に受け入れられる可能性を持っていると言えるだろう。
Mumford & Sonsを入り口として、その先には多くの素晴らしいバンドが待っている。フォーク・ロックともカントリーともいえるルーツ・ミュージックを奏でる逸材たちは欧米には多く存在し、それぞれが高い評価を得ている。そんな世界までも覗いてみることも一興だろう。
2011年2月、Mumford & Sonsは、Bob Dylan、The Avett Brothersと一緒にグラミー賞の授賞式でパフォーマンスをしている。世界中でも中継されたこのステージは、Mumford & Sonsの人気と評価を全米に広げたといわれている。それが事実かどうかはおいておくとしても、彼らのステージにはそれだけの魅力があることは確かだ。
現在彼らは世界中で大規模なアリーナ・ツアーを敢行しているが、日本では大阪のなんばHatchと、東京の豊洲Pitというスタンディングの会場で行われる。それも、大阪は約2,000人、東京は約3,000人という小さいキャパでのライブが実現する。そして、チケットが6,800円と大物海外アーティストとしては異例の安さというのも重要だ。
この貴重なステージに触れ、その背後に広がる肥沃なルーツ・ミュージックの世界に触れてみることをオススメする。

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