ハードロックの
プロトタイプを作り上げた
ジェフ・ベックの『ベック・オラ』

ジェフ・ベック・グループ結成

ベックはソロでシングルをリリースしつつ、ロッド・スチュアートをヴォーカルに据え、ベースにロン・ウッド、ドラムにミック・ウォーラーという布陣で、ジェフ・ベック・グループを結成する。グループのデビュー作のレコーディング途中でキーボードのニッキー・ホプキンスも合流し、68年にリリースされたのが『トゥルース』である。このアルバムはすでにハードロックの萌芽を感じさせる仕上がりになっており、ジミヘンの『アー・ユー・エクスペリエンスト?』と並んで、最初期のハードロックアルバムとなった。これは彼の功績にほかならない。ロックンロールからロックスピリットのエッセンスを抽出し、ハードロックに増幅させたのは、ジェフ・ベックの功績だと言ってもいいのではないか。

ただ、『トゥルース』にはハードロックとポップス的なものが混在していて、アルバムとしての完成度は今ひとつであった。これはベックの売れたい想いが邪魔をしたのであり、20代前半の若者の気持ちとしては理解できる。この時、まだ意識の上ではロックはロックロールでありポップスの一部であったのだから、ベックも自覚のしようがないところである。グループ初期にメンバーであったブリティッシュロック界最高のドラマーのひとりであるエインズレー・ダンバーが脱退したのも、ベックの売れようとする部分に嫌気が差したからで、ベックのリーダーシップが売れるものを作るのか、良いものを作るのか、この時点ではまだ中途半端であったのだ。しかしながら、『トゥルース』は全米チャート15位まで上昇するヒット作となり、ベックのハイテクニックのギターワークはもちろん、ロッド・スチュアートの枯れたヴォーカルにも大きな注目が集まった。

本作『ベック・オラ』について

前作のリリース後、ドラムのミッキー・ウォーラーが脱退、代わりにトニー・ニューマンが加入した。今回はニッキー・ホプキンスが最初から参加しているので、統一性の取れたアルバム作りが可能となった。本作『べック・オラ』では、前作のハードなスタイルを活かすことに重点を置いてアルバムの制作は始まった。

収録曲は全部で7曲。ジェフ・ベックのギターは前作よりはるかに破壊力が増している。ビブラート、トーンアームを使ったベンド、フィードバック、スライドなどを駆使して、ロックギターとしてそれまでにないレベルの最高のテクニックを披露している。ジミヘンとはお互い影響し合っているだけに似たところもあるが、ジミヘンの整頓されたプレイと比べて、ベックの意表を突いたギターワークはまさに彼の独壇場だ。

タイトでシンコペーションを効かせたロン・ウッドとトニー・ニューマンのリズムセクションも素晴らしく、特にプレスリーのロックンロールをカバーした「オール・シュック・アップ」と「監獄ロック(原題:Jailhouse Rock)」の2曲は、ロックンロールからロックへの進化が明確に見てとれる仕上がりになった。ハードロックのプロトタイプとも言える「スパニッシュ・ブーツ」「プリンス(原題:Plynth(Water Down The Drain))」「ハングマンズ・ニー」「ライス・プディング」の4曲は、べックの長い活動の中でも最高位にランクされるギタープレイではないだろうか。『べック・ボガート・アンド・アピス』(‘73)や『ブロウ・バイ・ブロウ』(’75)、『ワイアード』(‘76)と比べても遜色のないプレイだと僕は思う。ゴスペルライクなインストの「Girl From Mill Valley」は他とテイストが違うが、べックのアメリカ南部ロック好きがよくわかるサウンドで、この曲は第2期ジェフ・べック・グループへの布石なのかもしれない。

1967年の転機の項で述べた各種アルバムが、ロックンロールからロックへの進化が分かる作品だとするなら、『ベック・オラ』はロック界で最初のハードロック作品と言えるのではないか。本作はそれぐらい革新的なサウンドを持っており、当時最高のロックの技術が詰め込まれた作品となった。なお、このアルバムの核ともいえるニッキー・ホプキンスの存在は大きく、彼はこのアルバム以降、アメリカで多くのアルバムに参加し、英米双方のロックの進化に大きな役割を果たすことになる。

TEXT:河崎直人

アルバム『Beck-Ola』1969年発表作品
    • <収録曲>
    • オール・シュック・アップ/All Shook Up
    • スパニッシュ・ブーツ/Spanish Boots
    • ガール・フロム・ミル・ヴァレー/Girl From Mill Valley
    • 監獄ロック/Jailhouse Rock
    • プリンス/Plynth(Water Down The Drain)
    • ハングマンズ・ニー/The Hangman's Knee
    • ライス・プディング/ Rice Pudding
『Beck-Ola』(‘69)/Jeff Beck

OKMusic編集部

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