阿佐ヶ谷スパイダース新作『桜姫~燃
焦旋律隊殺於焼跡~』が開幕~本番直
前のゲネプロレポート~

中央線沿線の街に足を運ぶと、「ハレとケ」が同居しているように感じさせられる。大小の神社仏閣が点在し、エリア全体が分断されることなく、街に生活のにおいが立ち込めるのだ。高円寺や荻窪の商店街はたいていお祭り騒ぎのような盛況ぶりで、なんの気のなしに入った喫茶店も、やたらと個性的だったりする。吉祥寺の街も例外ではなく、日常と非日常が絶妙なバランスで混ざり合っているから、いつ訪れても飽きることがない。
昨年(2018年)、阿佐ヶ谷スパイダースが劇団化第1弾の劇場に選んだのが吉祥寺シアターだ。医療ミスで妻を亡くし、悲しみに満ちた男の暴走をパワフルに描いた『MAKOTO』に続いて、『桜姫』もまた、吉祥寺シアターで上演されている。
四代目鶴屋南北の代表作『桜姫東文章』を下敷きとした本作。2009年に上演された『桜姫~清玄阿闍梨改始於南米版』の上演時に書かれたもので、長塚圭史の唯一未発表だった戯曲が劇団第2弾の上演作品となった。初日を前日に控えた9月9日、同作のゲネプロがおこなわれた。
阿佐ヶ谷スパイダース『桜姫』/(c)宮本雅通
舞台は戦後間もなく混沌とした時期の日本。有力者としてその名を知られる岩井清玄(中村まこと)は、入間善五郎(大久保祥太郎)に嫁入りした吉田(藤間爽子)に子を産ませたというスキャンダルによって、その地位を失ってしまう。清玄を追放した三月(中山祐一朗)や長浦(村岡希美)は、行き過ぎた上昇志向のために自分を見失い、流転の日々を送る。清玄は、吉田のことをかつて死に別れた少年・白菊(木村美月)が女となって現れた者と信じ、やがて人生の歯車を狂わされる。一方で権助(伊達暁)と同じ入れ墨呂を腕に残す吉田は、絶望の向こう側を目指すがごとく、破滅的な世界へと歩を進めるのだった。
『桜姫東文章』では、桜姫(吉田)は翻弄された末に遊郭まで堕ちていくのだが、本作の吉田は、堕ちることを自ら望んでいるようにすら思うほど、不幸への道程をひた走っている。堕ちることを「劇的」と語り、「絶望の縁に立つ人の姿はどうしてああも美しいんでしょう」と嘆息する。吉田のキャラクターを咀嚼するのは容易ではない。パラドックスとコントラディクションが連続するからだ。「狂いたい」という思いから発動している狂気がそこにあり、破滅願望を心に宿す原因はあるものの、何しろそのエネルギーがすさまじい。一筋縄ではいかない吉田という難役を、藤間爽子が好演している。
阿佐ヶ谷スパイダース『桜姫』/(c)宮本雅通
本作は、荻野清子によるオリジナルの楽曲が採用されており、俳優陣はクラリネットやウクレレ、ピアニカなどを生演奏する。波の音や雨の音、カメラのフラッシュなどの効果音はすべて生音だ。俳優の動きと息を合わせる「ツケ打ち」もあり、歌舞伎のDNAを現代に受け継いでいる。
吉田に限らず、本作に登場するのは強欲な人ばかりだ。現実社会ならあまりお目にかかりたくない面々だが、誰もが生きることへの過剰なエネルギーを抱えていて、逆説的な純粋さをあわせ持つ。まさに彼らは「かぶき者」だ。やっかいで面倒で愚かしくもあるが、神々しくも見えるほど、生きているのである。
文/田中大介
【動画】原作歌舞伎『桜姫東文章』あらすじ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着