草彅剛×MEGUMI×甲田まひるインタビ
ュー 『台風家族』の俳優たちがぶつ
かり合って生まれたのは、ひと夏の“
セッション”

映画『台風家族』が9月6日から3週間限定で劇場公開中だ。同作は、『箱入り息子の恋』などでメガホンをとった市井昌秀監督の最新作にして、監督自身が12年間の構想を経て、オリジナル脚本によって映像化した映画だ。劇中では、銀行から2,000万円を強奪した夫婦の子供たちが両親の失踪から10年を経て集結し、財産分与のための仮想葬儀をきっかけに巻き起こす騒動が描かれる。
草彅剛が演じた長男・鈴木小鉄をはじめ、両親が犯罪で得た大金をめぐって一家が争う……そんな喜劇的なあらすじに反し、本作で印象を残すのは「欠点を持つ人々がぶつかり合い、理解し合っていく」物語だ。SPICEは、主演の草彅と、長女・麗奈役のMEGUMI、小鉄の一人娘・ユズキ役の甲田まひるへのインタビューを実施。劇中の鈴木一家同様にぶつかり合い、ひと夏を共に過ごした俳優たちの、作品への思いを語ってもらった。
「自分の感情を直接ぶつけ合う人たちばかりが登場する」
草彅剛 撮影=岩間辰徳
――ひねりの効いた展開の中でホロリとするところもある、素敵な作品だと思いました。脚本を読んだときは、どんな感想を持たれましたか?
草彅:ぼくの役はすごくネチネチしているな、と思いました。これまでもそういった役を演じたことはあったのですが、(今回は)なかなか最後まで折れない……というところで、楽しく出来るんじゃないかと思いました。最初に脚本を読んだときには、面白いと思ったのと同時に、「実際にこれが映像になったときに、どうなるんだろう?」という楽しみもあったので、やりがいのある作品だと思いました。
MEGUMI:時代が変わって、SNSなどが普及して、人とのコミュニケーションの希薄さを強く感じるようになっている、と私は感じているんですが……それとは真逆の方向にある作品だな、と思いました。いいことであれ悪いことであれ、自分の感情を直接ぶつけ合う人たちばかりが登場するので。確かにみんな下衆な人たちではあるんですけど、「こういう関係性っていいな」とも思えましたし。最初のほうは、ほとんどワンシチュエーション、一つの部屋の中でのやりとりが多かったので、お芝居としてチャレンジできることも楽しみで、「頑張らなきゃな」と。
――セリフも多く、感情の起伏も激しいお芝居が多いですよね。甲田さんは初めてのお芝居に緊張しませんでしたか?
甲田:緊張はすごくありました。セリフの量は他の方と比べるとそれほど多くはなくて、凄い長文を覚えるようなことはなかったんですが、それよりも市井監督の指示やリクエストに応えるのに必死で。それは、現場に行ってからでないとわからなかったことだったので。覚えることよりも、その場での言い方や動きを頑張りました。
左から、MEGUMI、草彅剛、甲田まひる 撮影=岩間辰徳
――とてもライブ感のある演技でした。監督からの指示があったからなのでしょうか?
草彅:撮影現場がとにかく暑くて、自然にそうなったんだと思います。民家を借り切って、(出番を)待っている人はテントで待機している、という感じだったんですけど……もう、会話もできなくなるくらい暑くて(笑)。「大丈夫?熱中症になっちゃうんじゃない?」って言い合いながら、氷で冷やしたり。そんな蒸し風呂の中でやっているような状況だったので、遺産相続をどうするか?というドロドロしたお話と、気温がいい意味であいまって、自然に空気が出来ていったんだと思うんです。それと、市井監督がひっぱってくださったから、ということもあります。最初は「早く進めればいいのに」と思っていたんですけど、市井監督は真面目に「いや、もう一回だ!」と粘るので。まひるちゃんなんか初めてだから、何回もやり直してたよね。
甲田:はい(笑)。
草彅:ぼくなんか、ずっと「早く帰ろうぜ」って思ってましたよ(笑)。
一同:(笑)
(c)2019「台風家族」フィルムパートナーズ
草彅:でも、なかなかそういうわけにはいかない。長回しのシーンなんか、大変だったよね。
甲田:はい、私がピアノを弾いているシーンは10回くらいやりました(笑)。
草彅:暑くて、本当に大変でした。でも、その中で偶然が重なって、いいシーンが撮れたりして。二度と撮れないものが出来上がりました。好きなシーンがいっぱいあるんですよ。ユズキが小鉄に「最低」と言うところとか、最後のシーンもそうです。出来上がってから観て、「ああ!監督がこういう説明してた!」と思いだしたり。
草彅剛 撮影=岩間辰徳
――合宿みたいな撮影ですね。
草彅:MEGUMIちゃんとぼくは帰っていたんですけど、ほかの人は皆泊まっていました。まひるちゃんは、撮影が終わってるのに現場にいたよね(笑)。
甲田:ずっといました(笑)。現場が楽しかったです。
草彅:暑さのおかげというか、チームワークがすごくよかったですね。
――順撮りだったのも、チームワークに繋がった?
草彅:それもあると思います。

――予告でも披露している“クズで結構ダンス”も、そんな空気の中で生まれたものなんでしょうか?
草彅:実は、市井監督には「事前に(ダンスについて)打ち合わせをしたい」と言われていたんです。でも、めんどくさいから、「大丈夫です。ぼくが家で考えてきますから」と言っていたんですけど……家で考えてなくて(笑)。
――(笑)
草彅:市井監督はすごく気にされていて、「次はダンスですけど、どんな感じですか?」って聞いてくるんです。でも、そこでやると暑いし、めんどくさいじゃないですか(笑)。そんな感じで何とか誤魔化しながら、ノープランで上手くいったシーンなんです。追い詰められて出来たというか。
甲田:笑い過ぎて怒られましたよね(笑)。
MEGUMI:みんな(どんなダンスか)知らなかったからね。
甲田まひる 撮影=岩間辰徳
それぞれの音を奏で“セッション”した俳優たち
草彅剛 撮影=岩間辰徳
――草彅さんの演じられた小鉄は、人をダマすし、金に汚い、鈴木一家でも特に下衆な人物です。ただ、市井監督ご自身も投影されているのではないか、と思ったのですが。
草彅:そうみたいですね。裏設定として、台本にはないキャラクターの特徴や生い立ちのようなことが書かれた資料を渡されました。その中に、市井監督ご自身が体験されたエピソードも含まれていました。例えば、小鉄よりも次男の京介の方が背が高いとか。「なんで、俺ももっと背が伸びなかったのかな」って思っていたんです。後から聞いたら、市井監督にも弟に身長を抜かされたというコンプレックスがあったらしくて。そういうところも、リアルな(市井監督の体験に)近い設定だったみたいです。
――あまりにも卑怯な小鉄の行動を理解するのは、難しかったのでは?
草彅:そうですね。でも、演じるのは楽しかったですよ。もう、「こいつ、何考えてんだ?」って、笑いそうになっちゃっいました。いきなり満福寺さん(斉藤暁)にキレて携帯を壊しちゃうところとか、「意味わかんないな、コイツ」と思いながらやっていましたし(笑)。ぼくは、台本をあまり深く読まないんです。現場でみんなと一緒にやれば、どうにかなると思っているので。やってみて、上手く繋がっていたら、「よかった!大丈夫じゃん」くらいの感覚なんです。
一同:(笑)
草彅:でも、MEGUMIちゃんの役(麗奈)もよかったよね。
MEGUMI:本当ですか? ありがとうございます。下衆な女性ですけど。
草彅:京介がいて、千尋(中村倫也が演じる三男)がいて、その中にひとり女性がタンクトップ姿にバスタオルを頭に巻いて入ってきて、空気を少し引かせる。いい濡れ場もあるし、ポイントになっている役。MEGUMIちゃん、やりましたね!
MEGUMI 撮影=岩間辰徳
――麗奈は破天荒なようでいて、鈴木一家の中で最も常識のある人だったような気もします。
MEGUMI:そうなんですよ。麗奈は、色々とそれなりに頑張ってはいるんですけど、思ったとおりにならない人、欲しいものを手に入れられていない人だと思っています。そして、空回りしたまま、鈴木家に戻ってくる。「遺産を貰って、綺麗になって、イイ男をつかまえよう」と思っていたんですけど、ダメな兄や弟とぶつかって、麗奈なりに考えを改め始める。そのプロセスでの中で、「わかるわかる」みたいなところが、いっぱいありました。
――麗奈はバツイチであることや、男性関係がだらしないことを責められますが、誰も傷つけてはいないんですよね。甲田さんは、麗奈という人をどう思いました?
甲田:映画の中で、ユズキは“お姉ちゃん”として、麗奈のことがすごく好きなんだな、と思いながら演じていました。 麗奈は、ユズキのピアノのコンクールのことも気にかけていましたし。
草彅:優しいんだよね。
――女性の登場人物は、繊細な部分がよく描かれていますよね。草彅さんは、鈴木一家の女性たちについてどんな感想を持たれました?
草彅:みんな魅力的ですよね。それぞれ立場があって、一生懸命生きている人たちだな、と思います。だけど、みんなうまくいかない。(尾野)真千子ちゃんの演じた美代子は、夫の小鉄よりも裏があるかも知れないと思わせる人です。結局、小鉄は手のひらで遊ばされているんじゃないか、という感じがしました。真千子ちゃんがそうめんを食べるシーンなんて、すごくよかったですよ。ユズキはユズキで、一生懸命やっている子ですし。
草彅剛 撮影=岩間辰徳
――甲田さんは、ユズキとの共通点のようなものは感じましたか?
甲田:最初に台本を読んだときから、すごく自分に近いな、と思っていました。歳も同じで、親に対する思春期の思いもわかりましたし。演じていて、すごく自然な感じがしました。
――草彅さん演じる小鉄に常に怒りをぶつける役ですが、あの感覚もわかりやすかった?
甲田:わかりました(笑)。
草彅:演技を超えて、ぼくに刺さる真っ直ぐな視線が痛かったよ(笑)。でも、ユズキの目は『台風家族』のタイトルにも、ラストカットにも使われていて、素晴らしいんですよ。(甲田に向かって)もう、これはユズキの映画だな!ジャズってるから。ユズキのジャズだよ。ジャズ映画だよ、これは。
甲田:いや、ジャズ映画ではないですよ(笑)。
草彅:(笑)でも、それぞれの音を奏でて、セッションしているからね。
MEGUMI:確かに。
甲田:そう言われれば、そうかも。
草彅:まひるちゃんの目は、本当にすごくいい。市井監督がこだわったところだと思います。最後のシーンも、この映画はここがあるから全てOKでしょう、みたいな気持ちになれる。
左から、MEGUMI、草彅剛、甲田まひる 撮影=岩間辰徳
最後には「監督のためにやっているんだ」という気持ちになっていました
草彅剛 撮影=岩間辰徳
――役作りについては、市井監督から「“草彅剛の小鉄”で居て欲しい」とリクエストされたそうですね。
草彅:それはぼくだけじゃなくて、みんなが最初に言われたことなんです。暑い民家の中で、撮影を始めるにあたって、「剛くんの小鉄を見たい」「MEGUMIさんの麗奈を見たい」「まひるのユズキを見たい」とおっしゃって。それを聞いて、「確かにそうだな」と思いました。繕ったお芝居にはお客さんも飽きるし、ついてこないと思うんです。市井監督は「湧き出てくる思いが役に重なると、リアルに見えてくる」みたいなことを話されました。最初にそう言われたから、みんなが意識して出来たんだと思います。
――こういう現場って、珍しいものですか?
草彅:(ほかの現場でも)それを求めてやっているんだとは思います。基本的にはそうなんですけど、実際には撮影中にずっと同じテンションを保てないんです。でも、今回はそうやって居ることが出来た。演じる本人の気持ちと役が重なる瞬間が多かったんです。だから、本当に勉強になりました。ぼくはいつもそれが出来なくて、あたふたしているところがあるんだな、と思って。市井監督に対しては、最初は「暑いから早く帰らせて」と思っていたんですけど……途中からは、「この人は真面目で、凄い監督だな」とリスペクトするようになって、最後には「監督のためにやっているんだ」という気持ちになっていました。本当に「真面目にやろう」と思いましたよ。でも、市井監督と離れたら、すぐに忘れちゃった(笑)。
一同:(笑)
MEGUMI 撮影=岩間辰徳
――MEGUMIさんはどうですか? 他の現場と比べて。
MEGUMI:どの現場も、それぞれに勉強になることはあります。今回は、草彅さんがおっしゃるようにとんでもなく暑くて。なおかつ、夜のシーンは、(明るいうちに)黒い遮蔽を張って撮影したので、熱がすごくこもっていました。食べたら食べたで、すぐに消化して体力が落ちちゃうから、みんなでアイスコーヒーを10杯くらい飲みながら撮影したり。毎日毎日そんな環境に居るから、距離がどんどん近くなっていって。たまにわたしのブラジャーが見えていることもあったんですが、誰も何も言わない。それくらいに余裕がない中で振り絞ったからこそ、この空気と芝居が出来たんだと思います。すごい体験でした。それぞれが必死にやりながらも、お互いに助け合って、「やってやるぞ!」という感じになったのは、今までの現場ではあまりなかったです。
――甲田さんも、初めての現場が『台風家族』でよかったですね。
草彅:どんな現場に行っても大丈夫だよ、まひるは。
甲田まひる 撮影=岩間辰徳
――私は新井浩文さんの出演シーンが心配で、当初は鑑賞するのをためらっていました。でも、実際にスクリーンで観て、最終的には観てよかったと思いました。同じように、観ようか迷っている方は多いんじゃないかと。そんな方へ、メッセージがあれば。
草彅:この映画には紆余曲折があって、公開も危ぶまれました。でも、沢山の方が声をあげてくれて、ここまでたどり着けたことに、感謝しています。スタッフもキャストも、誰一人としてこの作品を「公開しないでくれ」とは思っていません。昨年の夏、本当に一瞬ですけど、ぼくらの間に生まれた絆や情熱みたいなものは、かけがえのないものだと思っています。観ていただけると、ぼくらの気持ちがじんわりとでも伝わるんじゃないかと思いますので、よろしくお願いします。

左から、MEGUMI、草彅剛、甲田まひる 撮影=岩間辰徳
『台風家族』は公開中。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=岩間辰徳

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