なきごと ミニアルバム『夜のつくり
方』ーー人それぞれが持つ夜を、自分
たちのつくり方で過ごしてほしい

夜は自分自身と向き合うことのできる時間だ。昼間の出来事を頭のなかで繰り返し考えては、落ち込んだり、ほくそ笑んでみたり――。ふたり組ロックバンド、なきごとが9月18日にリリースする2ndミニアルバム『夜のつくり方』は、そんなふうに、ひとりきりで過ごす「夜の時間」に優しく寄り添うような作品だ。現在、平均年齢21歳のなきごとは、SUPER BEAVERAmelieら、ロックシーンで活躍する人気バンドを輩出しているレーベル[NOiD]の4年ぶりの新人アーティスト。初の全国流通盤となった前作「nakigao」から5ヵ月ぶりとなる今作は、下北沢SHELTERで開催した自主企画や、ツアーファイナルとなった渋谷eggman公演を見事ソールドアウトさせ、バンドの知名度が一気に広まりつつあるタイミングでのリリースになる。まだ結成から1年足らず。だが、そんな経験値不足を補って余りある鋭い感性と深い哲学で、「自分たちだけの歌」を確立するなきごとのふたりに、こだわりを詰め込んだ『夜のつくり方』について話を聞いた。
――5月に下北沢SHELTERの自主企画を見させてもらったんですけど、良かったです。音源で聴く以上に骨太なロックバンドだなっていうのが伝わってきて。
水上・岡田:ありがとうございます!
――その後、osageとのスプリットツアーも開催されましたけど、そちらはどうでしたか?
水上:意外とosageも悩みながら、バンドをやってるんだなと思いました。それで一気に親近感が湧いたんですよ。いままで正直、比べられることが多かったから。
――同じ新人オーディションの出身バンドですもんね。
水上:それで対抗心もあったし、私たちは準グランプリで劣等感があったけど、それもなくなって。純粋にosageが好きになりました。スプリット回ってよかったですね。
――osageのメンバーとじっくり話したりもしたんですか?
岡田:いちばん喋ったのは、仙台の帰りじゃない?
水上:そうだ。いつもは岡田の運転なんですけど、その時は(osageのボーカルの)ケンタさんも半分運転してくれて。車内で「おさごとラジオ」というのをはじめたんです。
――へえ!(笑)。
岡田:全然視聴率がない中で、「なきごとの泣き言を聞かせて!」とか架空のお便りコーナーをやって(笑)。「こんな質問が来てますが……」みたいなのも全部自分たちで考えて答えるっていうのをやったんですよ。その時いろいろな話をしましたね。
――岡田さんはスプリットツアー、どうでしたか?
岡田:あんまり記憶にないです。毎日必死に生きてる感じで。その日が終わったら次の日、また次の日って、どんどん自分がリセットされてるんですよね……。
なきごと
――なるほど。今回でなきごとの取材は2回目なんですけど、いま岡田さん、全然目を合わせてくれなくて(笑)。前回ちょっと打ち解けたかな?と思ったのに、その関係もリセットされるような気がしてます。
岡田:そうかもしれない(笑)。
水上:岡田は人見知りだから、時間が空くと、リセットされるんです。
――じゃあ、今回もう一度関係を築きなおしましょう(笑)。それにしても、前回のインタビューから5ヵ月ぶりですけど、その間に少しずつなきごとの存在がライブハウスを中心に広がっている感じはありますね。イベントもたくさん出てるじゃないですか。
水上:うれしいですね。CDのセールスは目に見えないところなんですけど、「nakigao」のリリース前に比べると、1本1本のライブの動員も増えたし、今まで出られなかった大きなイベントにも出られるようになって。それが目に見えて変わったことですね。
岡田:私とえみりはけっこうエゴサーチをするんですけど、「なきごと」で検索すると、最近はすごくヒットするんですよ。新しい層に届いてるのは感じてますね。元々、私たちのお客さんは下北沢のインディーズ界隈のギターロックが好きな人が多かったんですけど、今はメジャーのバンドが好きな人にも「良い」と言ってもらえるんです。
――そういう中でリリースされるのが、今作『夜のつくり方』です。「メトロポリタン」と「ドリー」以外は新しく作った曲になるんですか?
水上:いや、「合鍵」と「深夜2時とハイボール」も1番最初のライブからやってるんですよ。
岡田:「のらりくらり」は、去年の秋ぐらいからあったよね。
水上:「ユーモラル討論会」は、7月のツアーファイナルからやってます。
――となると、今回のミニアルバムも「こういう作品にしよう」と決めてたというよりも、前作と同じように日々作り溜めたものをパッケージした感じですか?
岡田:そうです。そのときにやりたいことを曲にしたり、「次のアルバムを作るときは、この曲を入れたいよね」というのを作っていった感じですね。
水上:今回はミドルテンポの曲が多いんですよ。だから、他にも2曲ぐらい入れたい曲があったんですけど、それを入れたら、ズーンって……。
岡田:陰キャラが全開になっちゃう(笑)。
水上:そう。だから、自分が暗くなっちゃうときに出るネガティブな部分も出した「のらりくらり」とか「深夜2時とハイボール」を入れつつ、「メトロポリタン」みたいなキラッとした曲を入れたんです。で、「合鍵」はちょっと迷ったんですけど、スタッフの人たちが押してくれて、そのプッシュで入れることにしたという感じです。
なきごと
――「合鍵」、迷ったんですか? すごくかっこいい曲じゃないですか。メランコリックな曲調に岡田さんの泥臭いギターソロが生き生きとなってて、なきごとの真骨頂だと思うけど。
岡田:これは私が3/4拍子の曲を作りたかったんですよ。
水上:最初に岡田が持ってきたコードから作ったから、めっちゃ難しかったです。その響きが切なくて、「やっぱりこれは失恋だなあ」と作っていったんです。
岡田:失恋しがちだよね(笑)。
水上:そうだね。この曲は、その時に自分の中にあった感情をそのまま入れたら、思いのほかハマって。「生活感っぽいやつ」みたいな仮タイトルをつけて、ホットケーキを食べて、ギターの弾き語りをする動画にして送ったんです。
――え、わざわざ動画で送ったんですか?
水上:そう、普段はボイスメモなんですけど、この曲は動画だったんです。ちょうど動画の編集にハマってて。その動画に「テレビうるさい」とか字幕をつけて。生活感がある曲にしたかったんですよ。他の曲が「メトロポリタン」とか「ドリー」とか、比喩表現で歌ってることが多いから、ちょっと違う雰囲気にしたかったんです。
――これは合鍵を渡していた相手が、もう帰ってこないというシチュエーション?
水上:この曲は金曜日の夜しか会えない男女がテーマなんです。二日酔いのダルさのなかで、カーテンの隙間から朝日が見えて、うるさいなっていうイメージですね。サポートの人にも「ダルそうな感じで」と伝えて、その雰囲気を汲み取ってもらいました。
岡田:サウンドは全体的にきれいめな音を意識して作ってますね。サビのギターリフがボーカルのメロディをほんのちょっと重なるところが気に入ってます。
なきごと
――「生活感のある曲」で言うと、「のらりくらり」とか「深夜2時とハイボール」あたりも、日常の景色が見えるような描写が多いですよね。
水上:「のらりくらり」は、ちょうどニートをしてるときに作ったんですよ。そのときに道端にいる猫を見て、「ああ、いいな」と思ったのが表のコンセプトなんです。でも、裏のコンセプトもあって、ニートの時って何もしないじゃないですか。時間を持て余したり、無駄にしてることが多い。それって、贅沢なことだと思ったんですね。普通は日々時間に追われながら生活してると思うんですけど。
――この曲は「何もしない日々を肯定も否定もしない」という立ち位置がいいですよね。それによって、「もっとがんばらなきゃ」みたいなことじゃなくて。
水上:そういう時間も必要だよなと思うんですよ。お休みしないと壊れちゃうから。
岡田:この曲も気だるそうに弾こうと思った曲ですね。
――さっきの「合鍵」もそうだけど、なきごとの音楽には、どこか気だるげな雰囲気っていうのが、ひとつキーワードというか、持ち味かもしれないですね。
水上:なきごとの音楽用語で、ダルセーニョみたいなイントネーションで、「ダルソーニ」っていうのがあるんですよ(笑)。そのまんま、だるそうに弾くっていう意味なんですけど。「のらりくらり」がいちばん「ダルソーニ」な曲ですよね。
――ははは、面白いです。今回のミニアルバムの生活感部門でいちばん沁みたのが、「深夜2時のハイボール」でした。疲れてるのかな(笑)。
水上:あはは、私もすごく好きで、ずっと聴いてます。この曲では、あえて「バイト」とか「コンビニ」という言葉を入れたんです。いままでは「ハイボール」とか、モノの名前を歌詞に入れないようにしてたし、遠回しに書くことで、曲の真意は、わかろうと思ってくれる人にだけ伝わればいいなと思ってたんですけど。「深夜2時とハイボール」は、ストレートに書いてみようっていう初の試みですね。
なきごと
――サビで《死にたくなった 死にたくなった》と歌ってるけど、最後の《生きてることをどうにか正当化したくて》というのが、この曲の本質なんだろうなと思います。
水上:そうですね。この曲を書こうと思ったきっかけは、「救われる曲がない」と言われたことだったんですよ。それが頭に残ってて、私の曲は、死ぬこととか、休むこと、動きを止める曲が多いけど、初めて「生きたくなった」という救われる曲を書いたんです。
岡田:これは、優しく包み込むような感じをイメージして弾いてみました。
水上:サウンドとしては、夕方、線路沿い南武線の電車がガーッて走るようなイメージですね。レコーディングのときに、岡田のリードギターは、夕陽のオレンジとチャイムをイメージしてて、ベースが周り風景とか木、ドラムは電車の音なんですよ。でも、最初はドラムがカラスみたいな音だったから、「そうじゃなくて、電車で!」ってお願いをして。
岡田:それで、踏み切りのテンポなんだよね。
水上:そうそう。そこから最後のサビで深夜2時になるという時間の経過を表現したかったんですよ。歌詞だけじゃなくて、演奏でも情景を表現した曲です。
――話を聞いてると、「カラスじゃなくて、電車で」みたいなやりとりで、曲作りが進んでいくのも、サポートバンドとの風遠しのいいコミュケーションが想像できる気がしますね。
水上:たしかに、前回の「nakigao」で、「Oyasumi Tokyo」とか「忘却路」を一緒に録ってくれたことで、仲良くなれたというか、心の距離が縮まったところはあったと思います。2回目のコンタクトということもあって頼みやすかったですね。
岡田:今回、「ドリー」と「メトロポリン」以外は、よっちさん(河村吉宏)に叩いてもらったんですけど、なきごとってドラムばっかりに注文しちゃうんですよ。
水上:「もうちょっとフィルこういう感じで」とかね。
岡田:そしたら、ベースのろっくさん(櫻井陸来)も、前回に続き、「深夜2時とハイボール」とか「ユーモラル討論会」を録ってもらったんですけど、「え? 俺、なんか仲良くなれてない?」と寂しそうに言ってて(笑)。
――仲が良いとか、悪いとかじゃないんですよね? 単純に、なきごとはドラムへのこだわりが強いっていうだけで。
水上:そうなんですよ。ふたりともドラムをメインで音楽を聴いてるんですよね。
岡田:ベースには何も言わなかったからね(笑)。
水上:でも、ベースもちゃんとアレンジをしてくれてるんですよ。アルペジオのところも、私のギターとちゃんと噛み合ってたので。
――なるほど。アルバムの収録曲に話を戻すと、生活感を突き詰めた曲がある一方で、「ユーモラル討論会」は、えみりさんの脳内ワールドが全開ですね。曲の展開も激しくて。
水上:最初はもっとシンプルな感じだったんですけど、好きにやったら、最終的にこうなってました(笑)。
岡田:作ってるうちに楽しくなっちゃったんだよね。
水上:タンバリンとか叩き出して、すごいことになっちゃいましたね。
なきごと
――これ、岡田さんのギターがシンセっぽくて不思議な響きでした。
水上:あれは、元々キーボードで入れようと思ってたフレーズだったから、岡田に「音色を変えてみて」と言ったんですよ。
岡田:私も、自分のギターはふつうの音しか出してないなと思ってたんですよね。で、いろいろYouTubeを漁ってるなかに、『涼宮ハルヒの憂鬱』のキャラクターソングがあって。その曲のめちゃくちゃエフェクトがかかったギターソロを参考にして作ってみたんです。
水上:私は最初、「嘘とカメレオンのギターみたいな音が良い」と言ったんですよ。そしたら、『涼宮ハルヒ』というのは、今、知りました(笑)。
――歌詞に《四体液... 死体遺棄… 》という言葉が出てくるのが、グロテスクな感じもしますけど。これはどういう意味ですか?
水上:感情について調べたんですよ。「四体液説」というのがあって。簡単に言うと、それが、全部人間の感情を表してるんです。メランコリー(憂鬱)とサンギン(陽気)、フレグマティック(冷静)っていう。怒っちゃう自分とか、悲観的になる自分とか。それを読んで、わたしがいつも思ってるのは「これだ!」と思ったんですよ。
――というのは?
水上:自分の中にポジティブな自分とネガティブな自分がいるんですよね。で、「メランコリー」と「夜」が、「ぼく」を連れ去って、ネガティブにするみたいなことを歌ってるんです。1番の「ぼく」と、Cメロの「僕」で、ひらがなと漢字を使いわけてるんですけど、ポジティブな「僕」を引っ張って、どんどん闇落ちしていく感覚というか。「ぼく」が「僕」を殺して、死体を引きずってる。で、最後は自殺しちゃうんです。
――じゃあ、自分の中で感情がぶつかり合ってるっていう意味で……。
水上:「ユーモラル討論会」なんです。「ユーモラル」というのが「感情」なんですよ。いろいろな自分が討論をしているっていう意味です。
岡田:怖いですよね。
――でも、えみりさんらしい独特な表現ですよね。自分の中にある感情を擬人化したら、こうやっていつもせめぎ合ってるんだろうなっていうのは意外と共感できるし。
水上:全部をひっくるめて自分なんだっていう歌ですよね。
――ラストソングの「ドリー」は、子守歌みたいだけど、このドリーっていうのは?
水上:クローンで作られた羊のドリーです。
――ああ、なるほど。世界初のクローン羊?
水上:そうです。でも、ドリーは6歳で死んじゃったんですよ。同じ遺伝子を使って生まれた羊はそのあとも生き続けたんですけど。それで、まったく同じものが生まれたら、結局、自分じゃなくても代わりができちゃう。それって悲しいなと思ったんです。
――それは羊じゃなくて、人間社会にも置き換えられることですよね。
水上:そう、バイトとか会社とか、自分じゃなくても代わりはたくさんいる。結局、使い捨ての時代だなと思いながら書いた曲なんです。ライブでも、会場が大きくなると、お客さんが入れ替わっていくじゃないですか。見た目は同じ「大勢」だけど、そのひとりひとりに生活とかドラマがあって、喜んだり、悲しんだりするって考えると、代わりっていないなって思うんですよね。だから、この曲でいちばん伝えたいのは、「君は君でしかいないんだ」ということ。それを、ドリーへの鎮魂歌として書いたんです。
岡田:サビは鎮魂歌みたいな感じで、「ドリー!お前、いなくなるのか!!」っていう気持ちを込めて弾きました(笑)。
なきごと
――そうやって岡田さんは、えみりさんの歌詞の世界をちゃんと汲み取って演奏してるのもいいですね。EPのタイトルを「夜のつくり方」に決めたのは、全曲出揃ってから?
水上:そうです。全体を通して、夜っぽい雰囲気の曲が多かったんですよ。それで、「夜」というワードは入れたいなと思って。人それぞれが持つ夜を、自分たちのつくり方で過ごしてほしいというか。海沿いをドライブする夜があったり、コンビニに行く夜があったり、悲しくて、ひとりで体育座りをする夜もあったりするわけじゃないですか。その人がつくる夜に、少しでもこのアルバムの曲が合えばいいなと思いますね。
――いろいろな夜を肯定してくれるところが、この作品の良いところだなと思います。
岡田:なきごとっぽいですよね。「夜って言ったら、これ」と決めつけるんじゃなくて、「いろいろな過ごし方でいい」っていうところに、(水上の)優しさが出てますよね。
取材・文=秦理絵 撮影=AZUSA TAKADA

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