バレエ・アム・ライン初来日公演『白
鳥の湖』 マーティン・シュレップァ
ー芸術監督来日記者会見

2019年9月20日(金)から東京・Bunkamuraオーチャードホールでバレエ・アム・ラインがバレエ団芸術監督でもあるマーティン・シュレップァー振付『白鳥の湖』を上演する。シュレップァー監督は来シーズンからマニュエル・ルグリ氏の後を継ぎ、ウィーン国立バレエ団の芸術監督就任が決定しており、今回の来日はバレエ・アム・ラインの芸術監督としては最後のシーズンの初来日となる。
バレエ・アム・ラインはドイツのデュッセルドルフとデュースブルグに本拠地を置くカンパニーで、シュレップァー版『白鳥の湖』は原典の脚本・音楽にインスピレーションを得た、監督いわく「登場人物の心理を現代の観客にわかりやすい手法で表現した」話題の作品。本国ドイツではチケット入手困難なほどの人気を博し、海外での上演は今回の日本公演が初めてとなる。
20日からの本番を前に、シュレップァー監督が記者会見を行い、バレエ団や上演作について語った。(文章中敬称略)

■原典版採用のきっかけは小澤征爾の音楽
シュレップァー監督が『白鳥の湖』を製作するきっかけのひとつとなったのが小澤征爾指揮の原典版『白鳥の湖』の録音を聞いたことだったという。『白鳥の湖』は1877年、モスクワ・ボリショイ劇場バレエ団により初演されたがそのときは評価が得られず忘れ去られ、1895年、マリインスキー劇場バレエ団でマリウス・プティパ、レフ・イワノフの振付、さらに音楽も一部改定されて蘇演され、それが現代に至るまで『白鳥の湖』の古典として知られている。
(c)Gert Weigelt
原典版を採用したことについてシュレップァー監督は「オリジナルの台本はとてもメルヘンチックで、たくさんの登場人物が登場するところが面白いと感じた。また小澤征爾の音楽は従来よく上演される『白鳥の湖』のロマンティックで古典的な要素とは違い、途切れなく進んでいく力強さ、そして音楽自体にも色彩を感じた。その世界を表現したいと、強く思った」と語った。
またこの『白鳥の湖』はある意味原典に立ち返りながらも、衣装はチュチュではなく現代風だ。「従来の『白鳥の湖』のイメージを崩すのではなく、現代の観客にもわかりやすく受け入れやすい要素を入れ、さらに美しい世界を表現したいと思った」という。例えば、シュレップァーの白鳥たちははだしで踊る。「彼女たちは真夜中から朝までは人間の女性の姿で存在し、白鳥の姿でいるのは昼間だけ。人間のときは人間らしさを出すために、はだしで踊ることとした。チュチュを着せると人間と白鳥の境い目がわかりづらいと考えたし、また19世紀の振付ではなく、現代風に表現することが、私なりの創作であると考えた」という。
(c)Gert Weigelt
物語の軸は、結婚して王族を継承しなければならない若い王子の現実逃避と、王子を中心としたさまざまな登場人物の心理描写が中心だ。「現代風のクリエイションではあるが、『白鳥の湖』はメルヘンであるべきで、その世界観は壊したくなかった」とシュレップァー監督。原典へのリスペクトと、現代の観客を意識した視点はまさに、古典と現代の融合と言えるかもしれない。非常にユニークな世界観が期待できる。
マーティン・シュレップァー
■多国籍のダンサー全員がソリスト
バレエ・アム・ラインに所属する48人のダンサーは、15カ国から集まっている多国籍な集団だ。シュレップァー監督自身が週に1度、クラスレッスンを見るなど、ダンサーとの距離が近いのも特徴のひとつだが、なによりこのバレエ団ならではの特徴は、位階制のない、全員がソリストであるということだ。これについてシュレップァー監督は「それぞれがダンサーとして個性を発揮しながら、またそれぞれが個々の芸術性を持ち表現することを生かしているし、私もダンサーにそのように求めている」と話す。
(c)Gert Weigelt
来日するダンサーの個性も様々だ。
たとえば王子役のマルコス・メンハは「長身で高貴な雰囲気を持ち、優しい中にも男性的なところがある」という。またオデットを踊るマルシア・ド・アマラルについては「背も高くなく、体格もいわゆるバレリーナとは少し違うが、とても感情表現が豊かな素晴らしいダンサーだ」。このアマラルはドイツ舞台芸術界におけるアカデミー賞ともいえるファウスト賞のパフォーマー部門にノミネートされており、その演技力にも注目したい。
またシュレップァー監督は「バレエ団にいる日本人ダンサーの加藤優子も素晴らしい芸術家で、彼女はピナ・バウシュも一緒に踊りたいと切望したダンサー。47歳とは思えない素晴らしい能力を持っている」とも。そして「私は舞台とは現実の世界を表現することが大切だと考える。現実世界は均整の取れた美しい人ばかりではなく、小さい人も大きい人もいる。そういった現実の世界観を舞台の中で表現したいと思っている」と自身の哲学を語った。
(c)Gert Weigelt
2020年ウィーン国立バレエへの移籍については「現在はまだ、ドイツ国内でやることがあるが、クラシック作品が主流のカンパニーなので、そこに現代的な要素を入れて改革していければと」と抱負を述べた。
古典と現代の融合した、リアルな人間ドラマが展開されそうな『白鳥の湖』は、東京公演の後、兵庫県でも上演される。小林資典(ドルトムント市立オペラ 第一指揮者)が指揮棒を振る点にもぜひ注目いただきたい。この機会をぜひお見逃しなく。
マーティン・シュレップァー

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着