“キング”藤原竜也と鈴木亮平が本読
み段階から激しいバトルを見せる 舞
台『渦が森団地の眠れない子たち』稽
古場レポート

2019年10月から東京・新国立劇場 中劇場にて、舞台『渦が森団地の眠れない子たち』が上演される。作・演出を蓬莱竜太​が務める本作は藤原竜也と鈴木亮平がダブル主演で小学生役を演じるという点が話題となっている注目作だ。9月某日、本読み稽古が行われると聞いて、その模様を伺うべく、都内稽古場にお邪魔した。
ロの字に組まれた長テーブルの一辺に蓬莱と演出助手、その右端に鉄志役の藤原が、左端には圭一郎役の鈴木が座り、彼らと芝居中、密接に絡む“子どもたち”を演じる俳優たちが近場に座った。蓬莱の向かい側には奥貫薫や木場勝己といった“子どもたちを取り巻く大人たち”が座り、思い思いに時間を過ごしていた。
「では、頭から始めましょうか」の声がかかり、本読みがスタートした。すでに台詞が入っているように見える鈴木は、最初の独白から本を手放し、座ってはいるがまるで舞台上に立ち、観客に聴かせるように語り出した。彼の口からはこの団地の事、そして子どもたちの社会について、さらに自分と因縁浅からぬ仲となる鉄志について淡々と語られる。と、その言葉と空気をぶち壊すように、やかましく“キング”鉄志が登場した。とにかく攻撃的で、周りの子どもたちを屈服させ、自由気ままに振舞う鉄志を演じる藤原はまさにお山の大将さながら。見ていて心地いいくらいのキングっぷりだ。藤原が放つ言葉には不思議な説得力があり、子分たちだけでなく、見ているこちらも、ああ、この人こそがキングだ、と服従したくなる錯覚に陥らせた。
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
小学生男子たちの会話は不条理さに溢れている。その場でいちばん力がある子がルールを決め、時々刻々とそのルールは変化していく。遊びの設定もどんどん変わる。さらにここは団地という特殊な環境に置かれており、「小学生あるある」ネタと「団地っ子あるある」ネタが満載だった。子どもたちのよくある言葉のやり取りはどれも面白く、気が付けば大人チームのキャストたちももニヤニヤ、ウフフと笑顔を浮かべながら、自分の出番を待っているようだった。
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
物語は些細な事件が積もり積もった結果、やがて鉄志と圭一郎が対立する様相に。藤原と鈴木は、台詞だけでも激しいバトルを見せる。本読みの段階でも、お互いの間にテーブルがある状態であっても、隙あらば相手の胸倉をつかむような勢いを見せる二人。この後立ち稽古になったらいったいどんな事になるのやら……と今後の展開にワクワクが止まらなかった。

本読み後に行われた取材会には藤原、鈴木とそして蓬莱が参加した。
ーー今日の本読みでお互いの声を聴いた時、印象に残った事はありますか?
藤原:まだ5,6回しか読み合わせしていませんけど、圭一郎って台詞の量もとても多いし、亮平くんは凄く準備して稽古に入ってくるイメージがありました。自分でしっかり納得して稽古に入ってきているなあと感じましたね。
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
鈴木:本読みの様子を見ていて「この役は藤原竜也だ」と思いましたね(笑)。人の上に自然と立ってしまう人なんだろうなあ、と思いましたね。彼が人の上に立っているシーンはどれも安心感がありますし、傍若無人になればなるほど「そうそう! それが見たいんだ!」と思わせる何かを感じました。生まれ持ったスター性というものでしょうか。僕にはそれがないので。劇中で手下の子どもたちにエアガンを撃ちまくっている姿が僕は大好きです(笑)。今はまだ座って本読みしていますが、これが立ち稽古に入ったらもっと楽しくなるんじゃないでしょうか?
ーー本読みを通して何か新たに気が付いたおもしろさなどありますか?
藤原:初めてホンを読んだときは、僕が演じる鉄志役はキングと呼ばれる攻撃的で周りをかき回す、自由奔放な子という印象でしたが、何度も本読みをして全体のストーリーや他の演者さんの声を聴いていると、自分の役はただ攻撃的なだけでなく、母親の存在そして圭(一郎)くんの存在がある事で、徐々に成長している過程が描かれて、そこには弱さや優しさも含まれている事に気が付きました。いろいろな発見があって楽しいです。
鈴木:僕が演じる圭一郎は自分に似ていると思う点がいっぱい出てきていて。例えば自分が育った環境が舞台の現場と近かったり、世代や時代も近く、震災体験もあったりと共感できるポイントがたくさんあります。内向的な圭一郎と違って、僕自身はもっと明るい子でしたが、でもその中身は凄く似ているんです。子ども時代に無意識に人を傷つけた事や、その事が心にトゲとして未だに残っている事、また、いじめられていた期間に感じていた嫌な気持ちなど、自分の中に封印していたものを突き付けられる感じです。笑いもたくさんある作品ですが、僕が通ってきた子ども時代とリアルに向き合わなければできない作品だなと思っています。
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
ーー鉄志と圭一郎のキャラクターですが、蓬莱さんが書いた脚本の段階からどのくらい膨らんできていますか?
蓬莱:予想外に膨らんできていますね。初めて本読みをしたとき、そんな印象を得ました。二人は団地の中のライバルという役どころですが、同時に役者としてもライバルなので、二人が時には近づき、時には離れ、時には戦う……。この舞台を観るお客さんにそんな二人の醍醐味を観ていただきたいと思って書いていましたので、そこは見応えあると思いますね。
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
ーー書き下ろしの作品ということで、二人のどんなところを描きたいと思って書いたんですか?
蓬莱:僕は竜也くんとは親交があり、プライベートでもちょこちょこ飲む関係です。そこで見る竜也くんは鉄志と似ているというか……(笑)。海外作品においてもいろいろな役をやってきた竜也くんですが、僕が書きおろすからには僕が知っている「藤原竜也」をエンターテインメントとして表現したいなと思っていて。事実、子どもっぽいおもしろさを竜也くんに感じる事があって、それで小学生役をやらせたら本当におもしろいだろうなって思いました。亮平くんとは初めてお仕事をするんですが、映像作品などを見る限りでは、彼から醸し出されるある種の誠実性を持ちながらどこかで小さな罪を犯してしまうという役を演じてもらう事が面白いんじゃないかなって思いまして。そういう理由でこの二人に対比となる役を演じていただきたいと思ったんです。
ーー……という話を聴いて、お二人はどう感じていますか?
鈴木:蓬莱さんはその人の本質をとらえるのが上手な人なのかなと。僕は話してはいないのに、僕の経験と似たような経験を圭一郎に書いたりしていましたから。生々しい自分の気持ちと向き合わないとならないので、精神的にはキツイですね(笑)。
藤原:蓬莱さんが僕と亮平に当て書きしてくれると聞いて、過去の思い出や人には言いたくない苦い思い出も蓬莱さんに3時間くらい喋ったんですが、その話が全然物語に投影されていなくって! 蓬莱さんのイメージだけで書かれてしまった事に悔いが残っています(大笑)。
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
ーー逆にお二人からみた蓬莱さんの魅力を語っていただけますか?
藤原:蓬莱さんの演出を受ける事も初めてなので嬉しいです。的確で細かく指導してくれますし、新しい人たちと蓬莱さんからの指導を共有していると、改めて演劇って大事だなって思いますね。蓬莱さんは作家であり演出家でもあるから自分の中に「答え」を持っている。でもその答えを導き出すのは役者、というスタンスでいるので、お互いの駆け引きがおもしろいです。
鈴木:人間関係の洞察力の高さが凄いなと。緻密にそれを表現しているので現場で感心しながら稽古をしています。僕が演劇をやる時に大事だと思っているのは、作家さんと演出家さんの色にきちんと染まる時間があるという事。今回作家と演出が同じ人であり、心から染まりたいと思っている人なので凄い幸せです。
『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より
ーーこのカンパニーには小劇場からの参加者も多いですが、彼らのここを見て欲しい、またどんな座組を作っていきたいですか?
鈴木:僕が個人的に好きなのはデンジャーと呼ばれている男子と、オタクの女の子・楓です。特に楓ちゃんを見ていると飽きないですね。ずっとこの人のやり取りを見ていたいわ~って思います。ぜひ初めてこの役者を知ったという人は後程検索して「こんな人がいるんだ」って思ってほしいですね。
蓬莱:この芝居が終わる頃には立場も異なりますが、お互い演劇仲間として交流ができる関係が作れるカンパニーになるといいなと思っています。その中心となるのがこの二人(藤原・鈴木)なのは間違いないので、二人が戦いそして酒が飲める仲になるといい。やっている側が充実している事、演劇を作る喜びを感じてもらいたいですね。

『渦が森団地の眠れない子たち』稽古場より

藤原:僕らがカンパニーを引っ張っていこうとはとても思っていないです。今は他の俳優との交流よりどれだけ台詞を自分に入れていこうかと自分をぶっ叩いている真っ最中でして(笑)。それがクリア出来たらカンパニーの中でのしあがっていこうと思っています(笑)。
鈴木:じゃ僕がぐいぐいとひっぱっていきますか(笑)! 機関車の一番前の部分のように!(笑)
取材・文=こむらさき 撮影=敷地沙織

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